第48話 バグ最高!
「何でバグリンが居るんだ?」
『どうしたの?』
精神が飛ばされ、名もなき騎士の体で戦うのにバグリンが何故か俺の肩にくっ付いていた。
意味が分からん。
これもバグだろうか?
まあ何にせよ、これは……
「イベント用は翼がないし、ひょっとして竜牙兵に勝てんじゃねぇか?」
そんな考えが頭に浮かぶ。
いや、勝つ事に意味はないよ。
意味はないけど、勝てるなら勝ちたいじゃん?
……廃人も成し遂げられなかった偉業だし。
竜牙兵との戦闘は死亡と同時に現実に引き戻される仕様で、その際一発入れてクリア条件を満たしていればスキルを教えて貰える訳だが……引き戻された際、サミー婆さんの台詞が出るより早くログアウトするとそれが無かった事になり、再度挑む事が出来た。
その仕様を利用して、こいつを倒そうとするやり込みが一時廃人共の間で流行った事がある。
その際の最高記録は1000発で、竜牙兵のHPの3割ほど削るのが限界だった。
そう、廃人が寝る間も惜しんで頑張って、それでも3割しか削れなかったのだ。
そんな相手を俺が倒す。
それは俺が廃人共を越えた証と言えるだろう。
バグ利用して勝手嬉しいのか?
死ぬほど嬉しい!
勝てばよかろうなのだ!
「バグリン!俺を担いで飛んでくれ!大至急だ!」
遠くから此方を見つけた竜牙兵が突っ込んで来るのが見えたので、大急ぎでバグリンに指示を出す。
『はーい!』
俺の体が浮かび上がり、竜牙兵が此方に到達する事には相手の手の届かない位置にまで到達する。
「くふふふ。果たして君に、空への攻撃手段は果たしてあるのかな?」
通常番の竜牙兵には翼があるので、上空に逃げても相手も飛んで攻撃して来た事だろう。
が、イベント用のこいつには翼がなかった。
イベント戦の竜牙兵が空まで飛んでしまうと、攻略難易度が跳ね上がってしまうためだ。
そしてこいつには遠距離攻撃がない。
つまり――
「ガアアアアア!」
竜牙兵が空にいる俺を睨みつけ雄叫びを上げる。がそれだけだ。
が、それだけだ。
何もしてこない。
というか、何もできない。
「ふはははは!ないみたいだな!」
案の定である。
奴は此方に対して無力。
だがこっちには秘密兵器があった。
「よし!バグリン!アシッドバレットで分からせてやれ!」
『うんわかったー。ぷぷぷぷぷ』
上空からバグリンのアシッドバレットが降り注ぐ。
「ガアアアアア!」
それをただ受けるしかない哀れな竜牙兵。
『ぷぷぷぷぷ』
「ガアアアアア!」
そしてそれをニヤニヤ眺める俺。
NDK!
NDK!
『ぷぷぷぷぷ』
「ガアアアアア!」
『ぷぷぷぷぷ』
「ガアアアアア!」
いい感じである。
――通常の、このイベントの攻略方法は概ね4パターン。
竜牙兵は射程がくっそ長い薙刀を両手で振るう戦闘スタイルをしている。
武器を使った攻撃方法は縦切り、横切り、斜め切り。
そしてバックステップからの高速突きだ。
それ以外には雄叫び――近距離の相手を吹っ飛ばす攻撃――や、体を回転させての尻尾攻撃がある。
で、倒し方だが、一つ目はバックステップからの突きを躱して斬りつける方法だ。
ギリギリに引き付けて避けつつ一気に間合いを詰め、後隙を狙って攻撃を入れる。
凄くシンプルな戦術ではあるが、その分難易度は高い。
何せ少しでも避ける際のタイミングや角度が甘いと、間合いの都合で攻撃が届かなかったり、相手の次の攻撃が飛んできたりするからな。
なので普通に難しい。
因みに、俺がクリアしたのはこの方法である。
二つ目は敵の咆哮を誘ってそれを躱し、隙を狙って攻撃するという方法だ。
これには敵の咆哮の範囲を見極め、ギリギリの範囲で誘って躱すという技術が必要になる。
しかもそもそも猛烈な竜牙兵の攻撃を掻い潜ってある程度近い間合いに寄る事自体が難しいので、難易度は激烈に高いと言えるだろう。
三つめは、薙刀と咆哮の中間間合いで偶に使って来る回転尻尾攻撃にカウンターを入れるという物だ。
当然だが、その間合いでは胴体に攻撃が届かないので、狙うのは振り回される尻尾の方である。
尻尾はジャンプで躱せるの程度の軌道の横薙ぎなので、ジャンプで躱しつつ下に攻撃すればオッケーだ。
まあ一見簡単そうに思えるかもしれないが、そもそも中間距離まで間合いを詰めるのが難しい上に、尻尾での攻撃頻度はそれほど高くないので、結局これも簡単という言葉から程遠い。
で、最後の四っつ目が動画などに上げられる初心者用攻略方法だ。
竜牙兵が見えたら即反対方向に逃げる。
すると追いつかれるよりも前に、大きな建物の残骸に辿り着けるのでその裏の影で座って待つ。
そして追って来た竜牙兵が遮蔽物を回り込んできた所で、素早く座ったまま攻撃を入れる。
これでクリアー。
まあ成功率はおおよそ三分の一程度だが。
何故なら、竜牙兵がほぼ同じタイミングで攻撃して来るからだ。
この際して来る攻撃が縦切り・横薙ぎ・斜め切りな訳だが、この際横切りした時だけ成功になる。
縦切りと斜め切りは相打ちになってしまうので失敗だ。
なので三分の一。
因みに、遮蔽物自体はそこ以外にもいっぱいある。
何せ崩壊した街中だからな。
だがその大半があまり大きくない瓦礫で、その場合、遮蔽物事ぶった切られてしまうのだ。
なので他の出もいいだろとかやると確実に失敗する事になる。
『ぷぷぷぷぷ』
「ガアアアアア!」
途中SP切れを起こしてしまうが、一休みして回復しつつバグリンの攻撃を続ける。
そして――
『ぷぷぷぷぷ』
「グオオオオオ!」
長く粘った竜牙兵に、最後の時がやって来た。
竜牙兵がひときわ大きな雄叫びを上げ、そして砂煙の様に体が崩れて消えていく。
「ちっ、ドロップなしかよ」
何も出さない竜牙兵の渋さに俺は舌打ちする。
まあ幻覚の様な世界なので、何か落としても持って帰れない訳だが。
「しかしこれでハッキリしたな」
今、俺はある一つの真理に辿り着く。
それは――
バグは努力を凌駕する。
だ。
ヒャッハー!
バグ最高!
「バグリンよく頑張ったぞ!お前は最高だ!」
『えへへへへー』
廃人すら達成しえなかった偉業にテンションが上がった俺は、バグリンの体を撫でまわすのだった。
バグ最高!
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