第8話 変化イベント

経験値の稼げるクエストは、街で情報を手に入れてから街道に向かうと発生するタイプの物だ。

俺は木点である裏家業っぽい奴らの話を盗み聞きしてフラグを立て、イベントの発生ポイントへと向かう。


どう考えてもタイミングのあるイベント。

ゲームではなくゲーム世界なのでもう進んでしまっている可能性も考えていたが、そんな事はなかったので一安心だ。


「お、やってるやってるぅ」


街道のポイントまで行くと、男爵家の令嬢を乗せた馬車をネクロマンサーが真昼間から襲っている所に遭遇する。


アンデッドは光に弱い設定なので、その事から『弱点でも日の光は全く問題んだなと』、初めてこのイベントをやった際に感じた疑問を何となく思い出す。

いやまあ、どうでもいいんだけどね。


さて、じゃあネクロマンサーを倒して令嬢を救うとしますか。

あ、因みにこのイベントは発生から時間経過でイベント内容が変わるタイプだったりする。


最初は男爵令嬢の誘拐現場に始まり。

それを無視すると、男爵から正式な依頼が冒険者ギルドに出され救出に向かうイベントへと変化。

更にそれも無視して他のイベントを3つ程熟すと、このイベントは最終段階へと変化する。

儀式に使われ哀れな男爵令嬢は魔人へと変わり、その討伐依頼が男爵から――娘を解放して楽にしてやるために――出されるという物だ。


報酬は先に進めば進むほどよくなっていき、最終段階の魔人化した令嬢を倒したらデーモンハートというレアアイテムまで確定ドロップする。

これはハーフエリクサーの素材であるため結構な値段で売れるので、このイベントは最終段階まで進めるのがセオリーとなっている。


もちろん俺も、これまではそのセオリー通りに熟して来た

だが今の俺は違う!


錬金術を習得出来ないので素材は不要――鍛冶ギルドと錬金ギルドのトップ同士の仲が悪いため、制作は武具か錬金を取った時点でもう片方が取れなくなる。

しかも最初のネクロマンサーが召喚するアンデッドは糞弱い――Dランク装備程度でも簡単に倒せる――のに、このレベル帯では破格の経験値と来てる。


なら熟すしかないよな。

初期段階の、男爵令嬢救出を。


「待てい!」


とか余計な声をかける様な真似はしない。

護衛の兵士がアンデッドを引き付けているので、その後ろから叩こうって寸法だからな――Dランク装備のレベル帯でもこなせるのはそのため。


まあ声をかけても大丈夫な気もしなくはないが、まあ念のためだ。

ゾンビにわらわら来られても敵わんし。


「ぐわぁ!」


まずはネクロマンサーを背後から一突きで殺す。

コイツ自体はびっくりするぐらい弱く、瞬殺可能だ。


そしてこいつが死んだ事で、騎士達に群がっているアンデッドが弱体化する。

俺はそいつらを背後から狂った様に斬りつけまくり、一匹一匹確実に始末して行く。


うめぇ!

経験値超うめぇ!


「ご助力かたじけない」


「助かりました」


「あの、お名前を」


「ああ、いやいや気にしないでください。それじゃ」


馬車から降りて来た令嬢に名を尋ねられるが、経験値が貰えた以上もはやこいつらに用はない。

どうせ報酬を受け取っても、無限増殖で稼げる俺からすれば鼻糞みたいな額だしな。


なので俺はさっさとその場を離れた。


「おお、45まで上がってやがる」


開始前は14だったのに、背後からゾンビ斬りつけただけでレベルが31個も上がるとかマジこのイベントの経験値美味いな。

いままで令嬢は見捨てて来たが、これからはちゃんと助けてあげるとしよう。


ま、もう二度とこのイベントをする事はないが。

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