第4話 もっとNPCらしくお願いします
「ふむ……ゲームじゃなくてゲーム世界って事を念頭に入れとかなきゃだな……」
ゲームだとNPCは与えられた役割を熟すだけだ。
だがここはゲームと同じであってもゲームではない。
NPCにも命が宿り、一人一人独立した意思を持っている。
まあ何が言いたいのかと言うと――
高額品を増殖して大量に売りさばこうとしたら、怪しまれて危うく憲兵に通報報されそうになったのだ。
「まあ商品を買った人間がその後すぐにそれを売りに来たら、しかも大量ならそりゃ怪しむよな……」
何とか事なきを得た――逃げる様に店から出て来た――から良い物の、次からはもう少しその辺りに気を付けて行動するとしよう。
「笑顔でひたすら仕事だけしてくれるNPCさんが恋しいぜ。まあしょうがない。これは隣町に売りに行くとしようか」
インベントリ内には鋼の塊(買値10万・売値2万5千)が999個表示されている。
制作素材系のアイテムは冒険者ギルド関係の買取屋では売れないので、わざわざ別の街へと移動する必要があった。
隣町まで徒歩だと数日かかる距離だが、有料のゲートを使えば一瞬なので、時短の為に其方を使う事にする。
「お願いします」
ゲートのある建物まで行き、使用料を管理人に払う。
隣町までの値段は5万ギル程。
ゲーム初期だと中々用意できない額なので徒歩が基本になるのだが、増殖のある俺に死角はない。
ゲート使い放題だ。
ゲートのビジュアルはSFなどでよく見る見る輪っか状の不思議な何か――人間一人通れる程度のサイズ――で、それを通ると繋がってる先に出る仕組みとなっていた。
更に輪っかのサイズを大きくして大荷物なんかも送れるみたいだが、料金表を見た感じだと軽く10倍以上に跳ね上がるので、余程急いでいるとかじゃない限り、荷馬車で運んだ方が多分安上がりになるだろうと思われる。
「さーて、売却売却」
ゲートを通って隣町に付いた俺は、早速製作素材を取り扱っている店へと向かう。
店員に声をかけ、鋼の塊998個売りたいと言ったら――
「え!?998個もですが?ですがお客さん。そんなに持ってる様には見えないんですが……」
「俺は持ち運び用の特殊なスキルを持ってるから、荷物の持ち運びは手ぶらでいけるんだ」
「へぇ。そんなスキルがあるんですか。まあちょっと量は多いですが、鋼の塊は売れ筋商品なので売っていただけるのならこちらとしては喜んでお買い上げいたしますよ。けど……本当に宜しいんですか?」
店員が念押しで確認して来る。
一般的な所持量じゃないから、俺が行商人か何かだとでも思って確認しているのだろう。
買取値で降ろす行商人は、普通いないからな。
「ええ、丈夫です。それじゃ出しますよ」
「おお!本当に何もない所から出て来た」
俺が鋼のインゴットをインベントリから取り出すと、店員が目を丸める。
だがそれも一瞬の事で、次から次へと積み重なる様に放り出されるアイテムを素早く手に取り、鑑定のマジックアイテムの上において次々と確認して行く。
さすがプロである。
「間違いなく鋼の塊998個ですね。買取単価は2、5000ギルになりますので、全部で――24、950、000ギルになります」
店員が金貨のたっぷり詰まった革袋を俺の前に置く。
その封を開けてインベントリに吸い込むと、所持金が24、950、000ギル増加する。
因みに、お金はアイテムと違って一気に取り出す事も可能だ。
こんなにあっさり2、500万はデカいな……
事前に金額は分かってはいたが、インベントリ内の数字を見て改めて実感する。
あ、これは凄いな、と。
ゲームだと、カンストキャラを1日動かして5、000万程だったからな。
その半分がちょろっと増殖して稼げてしまうのだから、本当にバグは恐ろしい。
「まだまだいっぱいあるんだけど、取ってきたら買い取ってくれるか?」
「いやー、それはちょっと。店の現金が足りなくなってしまうんで」
店員にお代わりできるか聞いてみたら断られてしまった。
これがゲームならたぶん無限に買い取って貰えるのだろうが、ゲーム世界だとそうはいかない様だ。
ま、そりゃそうだわな。
寧ろ街の小さな店に、よく2、500万もおいてたもんだと言ってもいいレベルだ。
「しょうがない」
俺はゲートを使って別の街へと移動し、増殖したアイテムを売る事にした。
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