第43話 弱み

遠く離れた場所にいる獲物をロックオンする。

次の相手は大剣を持つワギャンウォーリアーだ。


「発見。じゃあ神雷の威力をチェックするか」


こいつはユミルがかけてくれた神雷だけで倒す予定だ。

どの程度の威力が出ているか確かめる為に。


ゲーム世界では、ゲームと違って攻撃時に与ダメージが表示されない仕様だ――まあ当たり前ではあるが。

そのため、威力の分からない新スキルの強さを視覚的に確認する事は出来ない。


じゃあどうやって確認するのか?


簡単だ。

俺は敵のHPを知っているからな。

なのでスキル何発で死ぬかを確認さえすれば、割り算でその威力を計算する事が出来る。


まあオーバーキル分もあるので、正確には無理だが……


「ふむ……的が大きいとはいえ流石に遠すぎるか」


超遠距離攻撃をしかけようとしたが、俺はその手を止める。

ワニまでは100メートル以上離れていた。

射程的には問題なく届く距離だが、余りにも遠すぎると攻撃が外れる可能性が高い。


基本として、遠距離攻撃には軌道修正――ちょっとしたホーミング機能が付いていた。

それがないと外れまくってしまい、遠距離攻撃事態がゴミになってしまうためだ。


だから補正が付いている訳だが、それにも限度という物がある。

なのであまり遠すぎると、敵が動いてなくても普通に外れてしまうのだ。


……スキルがあれば更に強い修正も得られるけど、当然俺はそんなスキルは取ってないし取る気も無いからな。


「タカダ様、ご安心ください。神雷の刃――それは言ってしまえば神罰ですでの、射程内でさえあれば必ず当たる様になっていますから。もちろん、結界魔法などの特殊な手段で防がれれば話は別ですが」


超射程かつ必中かよ。

ぶっ飛んでんなぁ。

これで高威力だった日には……よし、早速試してみよう。


「分かりました。では……はぁっ!」


両手の短剣を振るう。

すると雷の刃がその軌道上から発生し、狙った獲物――ワギャンウォーリアーに向かって超高速で飛ぶ。


因みに、攻撃の際に『はぁっ!』て掛け声を出したのは無言で短剣を振るのが何だか気まずく感じたからだ。

なので特に意味はない。


俺の斬撃から生まれた雷の刃が、ウォーリアーに直撃。

必中様様である。


「そういえば、これって連続で出せるんですか?」


「はい。魔法による付与ですので、スキルの様に待機時間は存在していません」


無消費かつ、クールタイムなしで打てるのは有難い。

まあ無消費つっても、最初にモリッとMPは持っていかれてはする訳だけど。

そんな物はエリクサー効果でペイだ。


「なら――」


攻撃を喰らい、こっちに走って来るウォーリアーに更にもう1セット攻撃。

二発目が当たった所でウォーリアーが反撃とばかりに、口からウォーターランスを吐き出して来る。


「ふっ」


俺はそれを敢えて躱さず、両手の短剣を交差させる形で受け止めてみた。


エリクサーによる防御力50%アップ。

更に水耐性50%カット二種――50%カットされた物を更に50%カットする形で、計75%カット――まであるので、躱す必要すらないと判断したからだ。


「流石に此処まで来ると全然痛くねーな。喰らえ」


予想通り、HPの減りは微々たる物だ。

俺は交差した短剣をそのまま振り下ろし、三セット目をワニへとお見舞いしてやる。


そしてその直撃を受けたワギャンウォーリアが――


「ギュアアアアアア」


――雄叫びを上げてその場に沈む。


「え?マジか?」


ワギャン系はタフな魔物である。

なので、今現在クリティカルが100%発生するアサシネーションキルでも、スキルだけでHPを削り切るには4発は必要だ。


それがたった3セットで倒せるとか……


声を大にして言える。

これは間違いなく強スキルである、と。


アサシネーションキルさん涙目!


いやまあ、アサシネーションキルは瞬間移動もセットだから、回避に攻撃がセットしてると考えれば全く役に立たないって事はないだろうけど。

それにたぶん、スキルにも神雷の刃は発生しそうだし。


「いや凄いですねこれ。レベル上げが捗りそうです」


「ふふふ」


さっきは様子見しながら使ったからアレだったが、迷わず3セット叩き込むなら多分反撃さえ飛んでこない速度で倒せるだろう。

これはレベル上げが捗るぞぉ。


『ねぇねぇ?ぼくはどうやったらあれだせるの』


バグリンも真似したいのだろう。

俺に聞いて来る。


『うーん……ニードルを使ったら出せるんじゃないか?』


元々が遠距離攻撃の上に、吐き出すタイプのバレットで発生するかは正直怪しい。

なので物理的に動いて攻撃するニードルが正解だと思われる。


「タカダ様のおっしゃる通り、ニードルなら大丈夫です」


「――っ!?ひょっとして……俺とバグリンの話、聞こえてます?」


「はい」


「えーっと、特殊なスキルか何かですか?」


「はい。聖女である私は、周囲の念話を聞き取る能力を授かっているのです。大いなる神の声をお聞きするには、常人を越えた感度が必要となりますので」


「はぁ、成程……」


理屈は……納得できる様な、納得できない様な、微妙な感じではあるが、まあそこは突っ込んでも意味はない。

ある物はある。

これが全てだから。


「えーっとバグリンの事なんですけど……」


「ふふふ、ご安心ください。他言する様な真似は致しませんから」


察しの良い子で助かる。


まあだが、これで弱みを一つ握られてしまった訳だ。

聖女様に。


後でいい様に利用されそうで若干あれだが、まあしゃーないか。

仮にもユミルは聖女な訳だし、そんな無茶ぶりはしてこないだろう。


たぶん。

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