第51話 信用問題

「老いぼれが何を言ってるんだと思うかもしれないが、こう見えて私の若い頃はそれはもう可憐でね。周りからプリティサミーなんて呼ばれてたもんさ。そんな私があの人と出会ったのは――」


渋い顔を作り、最低限の興味ないアピールをするがサミー婆さんはそれに気づいていないのか、もしくは無視して話を続ける。


く……我慢だ。


婆さんからは色んな情報を得られる可能性がある。

それに、そもそもの目的であるスキルもまだ教えて貰えていないのだ。

ここはじっと堪えるしかない。


「で、魔神竜を倒した私は究極の選択を迫られたって訳さ。最後の夜――」


話は続く。


「こうして私は自らを亡霊かし、今に至ったという訳さ」


やっと終わった。

この婆、長々と話しやがって。


長話に対して、得られる情報は物凄く少なかった。

どうでもいい恋愛や家族愛部分を除いて纏めると――


帰還石取得のクエストはパーティー単位の物で、報酬は一個だけ。

その一個はパーティー単位の効果を発揮する物だったそうで、サミー婆さんはこの世界に残るためパーティーから抜けてアイテムの効果を回避している。


個別じゃないのでサミー婆さんの分の帰還石なんて物は残ってはおらず。

そしてクエストはこの世界に来た時点で発生していたそうなので、俺が受ける術もなし。


なので帰還に関しては完全にノーヒントのままだ。

あ、いや、帰還石があれば帰れるって判っただけでも収穫と言えば収穫ではあるが。


それと、勇者パーティーの装備なんだが――


彼らの装備は、ゲームで入手していた物がこの世界でも使えたそうだ。

つまり、俺とは違って強くてニューゲームだった訳である。


不公平極まりない話ではあるが、まあ彼らの場合は魔神竜が暴れまわる環境だった訳だから、そこはある程度仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

ま、俺にはバグもあるしこれは許そう。


で、彼らの使った装備なんだが……残念ながらこの世界には残っていないそうだ。

持ち帰ったら地球でも使えるかもという理由で、装備したまま帰還したらしい。


置いてけよ糞共!


と言いたい所だが、まあ俺でも同じ事をしただろうからこれも仕方ない。

そりゃ持ち帰るよね。

異世界無双からの現代無双とか、完全に男の夢だし。


まあ持ち帰って本当にやるかどうかは置いておいても――絶対リスク高いだろうし――持っといて損はないだろうからな。


因みにサミー婆さんの装備は、彼女が零体化する際一緒に零体となったそうだ。

魔法使いの装備などいらないからどうでもいいが、謎な仕様ではある。


最後にサミー婆さんが零体化した理由だが、魔神竜エクセランサスの復活を危惧しての事だった。


愛する男性との間に生まれた子孫達の暮らす世界を、そして未来を守る。

そのために彼女は禁断の魔法とやらで自らを霊体化し、この世界に数百年踏みとどまっている訳だ。

万一エクセランサスが復活しても、それに対応できる様。


正に愛のなせる業……かな?


正直、5人がかりで倒した相手をサミー婆さん一人でどうこうできるとは思えんが、まあそこは他の人間を上手く利用してって感じの事を考えてるんだろう。

実際、知識のある人間がいるかいないかで、全然話は変わってくるだろうしな。

封神石の事とか、今ですら話に出て来ない訳だし。


あ、そうそう。

婆さんが高レベル帯に試練を与えてスキルを与えてるのは、単なる趣味だそうだ。


そこまで強い奴なら英雄譚になるかもしれない。

そしてその中で自分の名が出るかもしれない。

承認欲求が満たされニッコリ。


まあ本人は明言してないが、きっとこういう感じの感覚だろうと予想。

実際、イベントで得る情報は過去の偉人関連からの流れだからな。


「私の昔話に長々突き合せちまったねぇ」


「いえ、お気になさらずに」


分かってるんならもっと早く切り上げろよ。

とは思っても口にはしない。

何故なら俺は下心でいっぱいだからだ。


スキルプリーズ!

お得な情報プリーズ!


「所でアンタ、皆の名前を聞いた事はないかい?」


話の中で勇者パーティーのメンバーの名前が出て来ていたが、どれも聞いた事の無い物だった。

サミー婆さんが俺にそれを聞いたのは、装備を持ち帰って彼らが現代で無双してたんなら、名前ぐらい聞いた事があるかもと考えた為だろう。


「いえ、俺の知る限りでは……」


そもそも、俺とサミー婆さんではやっているゲームが違う。

時間の流れ的に言うなら、FOEはOTLの数百年前のゲームって事になるが、そんな昔にあるのは原始的なゲームだけだ。


なのでここから考えられるのは、名前が同じだが別世界――パラレルワールドの様な物かも。

もしくは時間の繋がりが滅茶苦茶か、だ。


実はFOEがOTLの100年後とかのゲームだったなら、俺とサミー婆さんが互いに知らないのもそれ程違和感はない。


「所で、西暦を伺ってもいいですか?俺は2100年な訳ですけど」


「む、アタシと同じだね」


西暦が同じって事は……


「どうやら私とアンタは、別の地球から来てるみたいだね」


「みたいですね」


「やれやれ……ひょっとしたら、皆の話が聞けるかもとちょっと期待したんだがねぇ。本気で現代無双してないか少し心配だったもんだからさ」


「余程の事がない限り、それはないんじゃないかと……」


他の面子の詳しい性格は知らないが、真面な神経してたら無双ごっこはしないだろう。

核兵器喰らってもピンピンしてるぐらいのレベルじゃないと、世界に潰されて即終わりそうだし。


ステータスがそのままだったとしても、流石にそこまでの強さがあったとは思えん。


「ははは。ま、それもそうだね」


俺の言葉にサミー婆さんが笑顔を見せた。


――その時、ふと疑問が脳裏に過る。


勇者達は本当に、元の世界に戻ったんだろうかという疑問だ。


クエストが最初からあったという事は、彼らを連れて来た存在と同一、もしくは同グループ所属の何者かの仕業という事は疑い様がない。

そしてこのゲーム世界に引っ張って来れるなら、当然、元の所に戻す事も可能だろう。

移動させるだけな訳だし。


ただ……『出来る』と『やって来れる』はイコールではない。


真面な神経をしているなら、普通は元の世界に返してくれる筈だ。

魔神竜退治とかいう、明らかな仕事を押し付けてる訳だし。

働いた奴らに報酬を支払うのは当然だから。


だが此処で疑問になるのが、そいつに真面な倫理観があるのかという点である。


何の説明も無く勝手にゲーム世界に連れ込んで、しかも避けようのない命懸けの――戦いは結構厳しい物だったらしい――仕事まで押し付けて来る相手だ。

そんな奴に、果たして真面な良心が備わっているかは甚だ疑問である。


まあそれでも、世界間の移動がたいして手間のかからない物なら、余程性格が腐っていない限り元の世界には戻してくれただろう。


だがもしそれが手間のかかる物だったら?


その場合、勇者達がどこに送られたか分かった物ではない。


いやそれどころか、どこかに送ったりせず……


サミー婆さんは、帰還に巻き込まれない為に相当遠く離れた場所にいたという。

つまりその最後を見ていないという訳だ。

なら、帰還石の効果が転移ではなく別の物、それが爆発だった可能性だって否定できない。


――つまり、勇者たちは跡形も無く消滅させられた可能性がある。


いやまあ、それは流石に考え過ぎか。

何だかんだで勇者達は糞強かった訳だし、そいつらを消滅させる様な爆発ならその痕跡が死ぬ程残っただろう事を考えると、婆さんが絶対に気づいてたはずだ。


そもそもそんな破壊アイテムがあるなら、一々地球人呼ばなくても、それ使って現地人に倒させればいいだけだしな。


とは言え、だ。

結局信頼できない存在である事には違いない。

なのでもし帰還石を手に入れられても、それを使うかどうかは慎重に考える必要がある。


……ま、捕らぬ狸の皮算用ではあるが。


「ん?そんな顔して、どうかしたのかい?」


「ああいえ、気にしないでください」


サミー婆さんは、俺の考えた様な可能性に思い至ってないのだろうか?

それと、気づいていて敢えて知らんぷりをしているのか。


まあどちらにせよ、余計な事は言わいでおこう。

後者なら余計なお世話だし、万一前者だったら余計な心労を抱えるだけだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る