第52話 頼み事

「さて、じゃあまずはスキルを伝授してやろうかね。アンタはそのために来た訳だろうし」


「ええ、お願いします」


「手を出しな」


言われた通り手を差し出すと、サミー婆さんがその掌に魔法陣を描いた。

その瞬間、俺の中にスキルが生まれる。


それも二つ。


「このスキルって……」


一つはここへやってきた目的である限界突破リミットブレイクだ。

そしてもう一つは――


「ああ、あたしを召喚するスキルだよ」


――サミー召喚と言うスキルだった。


まさか目の前のサミー婆さんを召喚出来るスキルが貰えるとは……


この人はかつて世界を救った勇者パーティーの一員だ。

そんな人物を呼び出して戦闘に参加させられるなら、此方としては大歓迎である。

しかもスキルレベルは最初っからマックスで、ポイント不要なのも有難い。


「ま、少々SP消費は重いけどね」


サミー召喚に必要となるSPは、最大値の95%だ。

消費で言うなら間違いなく最大クラスな訳だが、まあ俺なら問題ない。

何故なら、短時間で回せる聖女印のエリクサーを無限に使えるから。


「サミーさんの力を借りられるんなら、この程度の消費は誤差みたいなもんですよ」


「そうかい。まあ困ったらいつでも気軽に呼んでくれていいよ。あ、但し……私の使うMPや、喰らった際のHPはアンタ負担になるからそこは気を付けるんだよ」


またその仕様かよ。

まあいいけどさ。

サミー婆さんは一流のプレイヤーだから、無駄に攻撃喰らったりしないだろうし。


MPに関しては光の精霊と消費が競合するが、まあこれもエリクサーである程度は何とかなるだろう。

タリスマンの転移効果は若干使いずらくなるが。


「気に入って貰えて何よりだよ。さて、それであんたに頼みたい事ってのは……魔神竜の影をあんたに討伐して貰いたいんだよ。あれの波動は不快でねぇ。倒して何とかしてくれないかい?」


「お断りします!」


俺はサミー婆さんの頼みをバッサリ切り捨てる。


いやそりゃそうだろ。

魔神竜の影は、TOLで廃人200人がどう頑張ってもHP半分以下に出来なかった様な奴だ。

いくら俺がバグ満載で、更に謎装備で大幅パワーアップしているとは言え、流石にアレをソロで倒す事など不可能である。


「すっぱり断ってくれるねぇ……」


「TOLじゃ、討伐不能扱いのレイドでしたからね。ひょっとして……サミーさんさえ召喚したらどうにでもなるんですか?」


サミー婆さんは、魔神竜の本体を封印した勇者パーティーのメンバーの一人だ。

とは言え、それは特殊なアイテムで強烈に弱体化させての事。

本来の力を持った相手を倒した訳ではない。


まあそれでも相当強いんだろうとは思うけど、流石に影の能力が本体の1割未満って事はないだろうし、彼女を召喚しても倒すのは無理だろってのが俺の判断だ。


まあけど、これはあくまでも俺の見立てなので間違っている可能性は十分ある。

だから尋ねたのだ。


「流石にあたし一人にそこまでの力はないさ。うちのメンバーが全員揃ってればどうとかでもなるだろうけどね」


5人居れば倒せるのか。

思った以上に強いな。


けど――


「じゃあやっぱりお断りします。勝てそうにないんで」


――結局倒せないって部分に変わりはない。


なのでお断り継続である。


「やれやれ、何もあんた一人で戦えとは言ってないよ。仲間を見つけて討伐して呉れりゃいい」


仲間を見つけて倒せと言われてもなぁ。

この世界に知り合いも少ししかいないし、そもそもあれと戦えるレベルのメンバーを探すのはかなり厳しいんだが……


討伐に当たって、レベルカンストかつレジェンド装備以上の強さが最低条件だ。

サミー婆さんの力を当てにするにしても、そうのレベルの人間を最低100人ぐらいは用意する必要がある。


うん、無理。


そのレベルになると、このゲーム世界でも相当な立場の人間になることは想像に難くない。

そんな人間、100人も動員できないっての。

だいたい、誰が好き好んで勝てるかどうかわからない相手に挑戦するんだよ。

命をかけてまで。


「どう考えても無理です。この世界の住人に――」


自分の意見をサミー婆さんにしっかりと伝える。

これ以上は水掛け論にしかならないので、きっちり伝えんとな。


「ああ、人数の事なら心配はいらないよ。そこまでは必要ない。1パーティー――10人もいれば十分さ。まあ勿論、それ相応の強さをも言ってる事が前提だけどね」


「1パーティー居ればいい……それだけの自信がサミーさんにはあるって事ですか?」


勇者パーティーが揃えば倒せるとさっき評していたので、サミー婆さん一人でそこまで出来るとは思えないのだが……


「まさか。そこまでの力、アタシにはないよ。ただ……あたしの装備の中に、パーティーメンバー全員を大幅に強化する効果を持つ物があってね。それを装備すれば、そこまで無茶な条件でもなくなるのさ」


TOLにそういっ類のアイテムはないので、FOE勢特有の装備だろう。

羨ましいアイテムである。


「つまりサミーさんを召喚すれば、パーティーが強化されると?」


「いや、召喚された私は召喚獣扱いだから、パーティーを組んでるって事にはならない。だからって、本体もうごけないしね。この体は霊体化の際の誓約で、魔神竜が復活しない限りここから動けないから。だからあんたが装備しな」


「おお!貰えるって事ですね!」


やったぜ!


「魔力で一時的に物質化させるだけだから、アンタの物にはならないよ。一時的に貸すだけさ。だいたいこれは魔神竜エクセランサスの本体が万一復活した際の、対策カードの一枚だからね。やる訳にはいかないのさ」


ちっ、くれないのかよ。

でもまあ、魔神竜さえ復活しなければ借りたい放題とも言えるし、良しとしとこう。


……いや魔神竜復活しないよな?


これがOTLの世界ならないだろうとある程度確信できるのだが、他所のゲームが混ざったりしてるし今一自信が持てない。

ま、考えても仕方ないか。

その事は一旦忘れよう。


「と言う訳で……頼まれてくれるね?」


「まあそうですね。けど……ひょっとしたら諦める可能性もありますけど、それでもいいのなら」


アイテムは借りたい。

だがだからと言って、飛びつく訳にも行かない。

10人すら集められる保証がないからだ。

なので保険はかけておく。


「やれやれ、慎重な男だねぇ。ま、それでいいさ。あれの存在は魔神竜の復活に影響する程じゃないかた、無理なら無理だったでその時は諦めるよ。もちろん……明らかに約束を守る気が無さそうなら、アイテムは回収して召喚も拒否させて貰うけどね」


「分かりました。なのでアイテムを貸してください」


俺は実体化した装備をサミー婆んさんから受け取る。

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