無限増殖バグ始めました~ゲーム世界には運営が居ない様なので、本来ならアカウントがバンされる無限増殖でアイテム増やして最強を目指したいと思います~

まんじ

第1話 試し

俺の名は高田雄二。

19歳で大学生。


俺は『オーバー・ザ・レジェンド』。

通称OTLという大人気の仮想現実(VRMMO)ゲームに嵌まっていた。


「よし!やるぞ!!」


今日も今日とて、睡眠時間を削ってゲームをプレイしようと立ち上げた瞬間――


「あぎゃっ!?」


全身に衝撃が走り意識を失ってしまう。


――そして気づけば、俺はOTLの世界にいた。


正直、最初は夢や幻覚の類かとも思った。

好きすぎて幻を見ているだけだと。

だがそうではなかった。

正真正銘、そこはOTLの世界だったのだ。


だってもうこの世界に一週間もいるし……夢ならもうとっくに冷めてるよな?


「よし!999個目!」


俺は目の前の葉っぱ型の魔物を倒し、ドロップアイテムであるヒールリーフ(回復アイテムかつ素材)を回収する。

インベントリを確認すると、その個数は999個と表示されていた。


999がアイテム所持量の限界だ。


「よし、後一個ドロップすれば試せるぞ」


何を試すのか?

それは――


「オラァ!」


俺は再び手近なモンスターを倒す。

そして地面に落ちるヒールリーフ――このアイテムはドロップ率が70%程あるので、まあポンポン手に入る。


「よし、回収は出来ないな」


地面に落ちているヒールリーフに右手を向け、俺は回収を行う――インベントリへの回収は、アイテムに直接触れなくても出来た。

だが所持数オーバーの表示が俺の意識の中に表示され、回収は失敗に終わる。


「じゃ、次はポーションを置いて、と――」


今度はインベントリに一個だけ入っているポーション(回復アイテム)を出し、落ちているヒールリーフの直ぐ横に置く。


「じゃあ、もう一度――」


そして再び回収。

因みにこのゲームのインベントリへの回収は、近くにあれば同時に出来る仕様となっている。

なのでこの場合、リーフとポーションが同時に収納される訳だが、ポーションだけが消えてエラーメッセージが脳内に浮かぶ。


リーフは上限だから弾かれ、ポーションはそうじゃないのでインベントリに収納された。

だからポーションのみ消えた訳だ。


え?

お前は何がしたいんだって?

直ぐに分るさ。


「どれどれ……よし!」


俺はインベントリ内を確認し、そしてガッツポーズする。

ポーションが999個と表示されていたからだ。


え?

ポーションは一個しか持ってなかったんじゃないかって?


確かに俺はポーションを一個しか持っていなかった。

だが、今俺のインベントリには999個入っている。


そう、これは――


みんな大好き増殖バグだ!!


ああいやまあ、全員が好きとかは限らないけど。

バグ利用を毛嫌いするタイプの人もいるだろうし、俺も多人数系ゲームでの使用は正直好ましくないと思っているし。


でも増殖バグやってるじゃん?

まあこれには理由がある。


OTLにおけるこの増殖バグは結構有名で、しかも大分前からある物だったりする。


普通なら即修正物。

それをしない運営は怠慢。

そう思うかもしれない。


だがどうもプログラム的に問題があったらしく、バグの修正にはほぼゲームの作り直しが必要なレベルだったらしい。

そのため、運営は修正を諦めざる得なかったのだ。


じゃあ増殖し放題なのか?


勿論そんな訳はない。

公式のアナウンスで使わない様に警告し、その上でバグを利用すれば即座に察知するシステムを運営は構築してている。


そのシステムは相当優秀で、増殖バグを行うと5分以内にゲームマスター(GM)から警告が飛んでくる程だ――昔試した友人談。

そして増殖させたアイテムは即座に回収され、万一取引等に使用されていた場合はその全てがロールバックされるとの事。


処罰はないのか?


もちろん強烈なのがある。

ただ、最初の一回目だけは見逃して貰えるってだけ。

偶然の可能性もあるからな。


なので二回目からは、即座にアカウントは凍結されゲーム終了となっている。


で、だ。

俺が試したかったのは、このGMによる警告や回収措置である。


――ここはゲーム世界だ。


もしゲームの世界に行けたら。

なんて、考えた事はないだろうか?


俺はある。

ある、が……それはあくまでも妄想だから楽しいのだ。


――当然、それが現実となれば話は変わって来る。


ゲームは好きに初め、好きに終わる事の出来る手軽な余暇だからこそ気軽に楽しめるのであって、それが逃げ場のない生活になるとなればもう完全に別物となる。


だって終わりがないんだぞ?


最初は勿論楽しめるだろう。

大好きなゲームなのだから当たり前だ。


だが、いずれ飽きという物はやって来る。

何十年も楽しく遊べるゲームなんてある筈がないのだから。


――そして飽きたその後も、俺はこの世界で生き続けなければならない。


そう。

俺はこの世界で、否応なしに生き続けなければないらないのだ。


――帰る手段が無ければ、だが。


ここまで説明すれば分かって貰えただろう。

俺は増殖バグを行う事で、帰還方法があるのかを確かめているのだ。


ゲームの様に、GMの様な存在が居るなら帰還する方法を知っているかもしれない。

その可能性にかけて。


あ、因みにこのゲーム世界の生活自体は今の所楽しめてるぞ。

飽きてからじゃなく、早々に帰還方法を探してるのは自分を安心させる為だ。

帰る方法があるって安心出来た方が、この世界での生活を楽しめるからな。


もし駄目だったら?


もうその時は開き直るさ。

先の事は考えず、今を楽しむ事だけに集中する。

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