第56話 一撃必殺

「作戦開始!ドラゴンゾンビまでの道を切り開くぞ!」


聖騎士達が敵の意思を引くヘイト系スキルを発動させ、手近な竜牙兵の気を引く形で戦闘が始まる。


「マジで俺一人にやらせんのかよ」


『ふふ、皆さんそれだけタカダ様に期待してるって事ですね』


俺の呟きに、既に召喚済みの光の精霊――ユミルが楽し気にそう言って来る。

仮にそうだったとして、一体どこからそんな機体が湧いて来るのか謎だ。


今の俺はレジェンド武器とはいえ、色々盛りまくって、他プレイヤーとは一線を画す強さを手に入れている。

が、それでもグレートレイドを単独で倒せる程ではない。

なので俺一人での単独撃破というのは、普通に考えればあり得ない愚行と言えるだろう。


まあこれがドラゴンゾンビじゃなかったらの話ではあるけども……


確かに普通ならあり得ない事だが、実はドラゴンゾンビに関してだけはそれが可能となっていた。

その最大の要因は光の精霊のバフにある。


ドラゴンゾンビはガチガチの闇属性モンスターだ。


その攻撃方法は背後への尻尾の叩きつけ――闇属性。

その際に発生する吹っ飛ばし効果付きの衝撃波――闇属性。

両サイドへの翼の叩きつけ――闇属性。

これまたその際に発生する吹っ飛ばし効果付きの衝撃波――闇属性。

正面に噛みつき、ひっかき、衝撃波付きの叩きつけ――闇属性。

自信の周囲に広範囲の状態異常付与&、持続ダメージゾーン形成――闇属性。

状態異常付きブレス――闇属性。


この様に、その攻撃は全て闇属性になっている。

そして光の精霊のバフには、闇属性ダメージを80%カットするという効果があった。

つまり、そのダメージの大半を軽減してくれるのだ。


更に厄介な状態異常もバフによる50%カットに加え、バカみたいに上げてる幸運と、補正によってかなり高くなっている体力によってほぼ無効に近い。


……麻痺・超強毒・暗闇の三点セットはマジで厄介だからな。


それに加えて神雷の刃による、光属性弱点までつける。

そこに三分に一回使えるエリクサーまであるのだから、もはや負ける理由がないと言っても過言ではない状態だ。


だからまあ、確実に勝てはするんだよな。

でなけりゃ絶対断ってるし。


「ドラゴンゾンビが動き出したな」


ドラゴンゾンビは広い古代霊園の最奥にいた。

だが索敵範囲がエグイので、入り口あたりの竜牙兵との小競り合いだろうと、当たり前の様に首を突っ込んで来る。

厄介極まりない。


そしてだからこそ、聖騎士隊は初回時に討伐を諦めているのだ。

でなければ、雑魚処理後倒せばいいだけだからな。


「聖騎士隊が上手く周囲の竜牙兵を押さえてくれてるし、まあそろそろ俺も動くとするか」


ドラゴンゾンビ担当なので、黙って見ている訳にはいかない。

迎撃するのは俺の役割だ。


ああそういや、サミー婆さんも召喚出来たよな……


貰った指輪は、当然既に装備済みである。

せっかくなので婆さんも呼び出して働いて貰うとしよう。

その方が倒すまでの時間を短縮できるだろうし、楽が出来るってものだ。


「召喚!」


召喚魔法を使う。

消費がエグイのでSPがほぼすっからかんになってしまうが、そこはエリクサーを飲んで素早く回復だ。


目の前に現れる召喚陣。

そこから人影が勢いよく飛び出して来る。


「ん?」


俺はその飛び出して来た人物の姿に眉を顰める。

呼び出したのはサミー婆さんなのだが、何故か出て来たのは十代前半ぐらいのツインテールをした女の子だった。


誰?


「プリティーサミー!呼ばれて乞われて華麗に参上!」


「……」


「なんて顔で見てるんだい。まったく……」


変なポーズをとっていたプリティーサミー事サミー婆さんが、呆れた顔でこっちを見て来る。


「いやなんですその姿?どう見ても子供なんですけど?」


俺の知るサミー婆さんは、ブルドックみたいな顔したよぼよぼの老いぼれ婆である。

なのに出て来た相手が可愛らしい女の子姿だったら、そりゃ変な顔にもなるわ。


「これはあたしの全盛期の姿さ」


「全盛期の姿ですか……」


嫌それにしても若過ぎね?

普通十六とか十八位だと思うんだが……


「言っとくけど、こう見えて二十歳の時の姿だよ」


「え?」


これで二十歳?

到底そう見えないんだが?


「ふふふ、アタシのもう一つの二つ名はね……ロリ神エターナルさ。超童顔だったからねぇ」


「はぁ……」


果てしなくどうでもいい情報をありがとう。

まあ、この際婆さんの見た目が子供だろうが猫だろうがどうでもいいか。

重要なのはちゃんと仕事をしてくれるかどうか、その一点だけだ。


「今から俺は――」


「言わなくても分ってるよ。指輪を通してアンタの状態は確認してるからね。ドラゴンゾンビを倒すんだろ」


話が早いのは良いが、この婆、俺の事勝手に覗いてやがったのかよ。

まあ見られて困る事など無いから別にいいっちゃいいが……


「ドラゴンゾンビは魔法に強いし、あんたの少ないMPじゃ大魔法連発も出来ない。だからバフとデバフをかけてやろう」


少ないMPね。

ステータス補正が結構あって、俺のMPは前衛としては破格レベルなんだがな。

まあだがそれでも、世界を救ったパーティー所属の魔法使いであるサミー婆さんからしたら全然足りないのだろう。


「パワフルエナジー!」


サミー婆さんがその場でくるりと一回転し、手にしたステッキを俺に向け魔法を発動させる。


パワフルエナジーなど聞いた事も無い魔法だ。

因みにMPはこの魔法一つで半分ぐらい飛んでった。


「この魔法は一度だけ攻撃のダメージを10倍にするバフだよ」


「10倍……」


一発だけとは言え、結構えぐい効果だ。

流石英雄パーティーの魔法使いが使うバフは一味違うな。


「さて、それじゃ行くよ。早くしないとドラゴンゾンビが聖騎士隊と接触してしまうからね」


サミー婆さんが手にしていたステッキにまたがると、その姿がふわりと浮く。

飛べんのかよ。


「まあそうですね。バグリン飛行だ」


『はーい』


命じるとバグリンが俺の体に巻き付き、そして翼を生やす。

婆さんが飛んだし、対抗意識ではないが俺も飛んでいく事にした。

まあ普通に走るよりバグリンの飛行の方が速いしな。


『ユミルさんはこの場で待機しておいてください』


『はい。御武運をお祈りしています』


ユミルにはこの場に残って貰う。

MPは婆さんが使う事になるし、彼女が下手に近くにいてもダメージを喰らうだけだからな。


「さて、それじゃデバフを入れるよ。致命の一撃!フェイタルブロウ!」


竜牙兵達と戦闘する聖騎士隊を飛び越え、俺達はドラゴンゾンビに迫る。

相手のブレスが届くか届かないかの位置でサミー婆さんがデバフを使う。


「このデバフは、一度だけ近接攻撃のダメージを10倍にする魔法さ」


「えぐいな……」


10倍バフに10倍デバフで100倍とか、出鱈目もいい所だ。

一撃だけとはいえ、本当に規格外である。


「じゃああたしは下がってるから頑張んな」


サミー婆さんが下がる。

と同時に、ドラゴンゾンビのブレスが飛んで来た。


「バグリンダッシュで回避だ!」


『ぎゅうーん!』


バグリンが大きく横にそれてブレスを躱した。

コイツのブレスは範囲がそれ程広くないので躱しやすい。

まあ喰らっても大したダメージじゃないけど、わざわざ痛い思いをする必要はないからな。


「よし!突っ込みながらアシッドバレットだ!」


『はーい!ぷぷぷぷぷぷぷ』


バグリンのデバフがグレートレイドに効くかは不明だが、使っておいて損はないだろう。

デバフの致命の一撃も近距離攻撃限定らしいので、アシッドバレットで解ける心配もない。


「ギュアアアアアアアア!」


頭上から接近する俺達に、ドラゴンゾンビが熊さえ丸のみに出来そうなデカイ咢で噛みついて来る。


「バグリン上昇!」


それを上昇の指示でギリギリ回避し――


「奴の頭に着地するぞ!」


――そして奴の頭に着地する。


「せっかくだ、一発でガッツリ削らせて貰うぞ!」


100倍効果は一度だけ。

なのでその一度で出来る限りHPを削らせて貰う。


今の俺の最強の一撃は――


「ゴッドブロウ!」


身に手に握った短剣の刀身が光り輝く。

俺はそれをドラゴンゾンビの頭部に叩き込んだ。


【グレートレイド討伐!】


そんな文字が頭上にでかでかと表示される。

ゲームだとハイレイド以上討伐時に出る演出なんだが――


「え!?終わったのか!?いくら100倍でも……って、おわ」


乗っていたドラゴンゾンビが消え、体が急に落下する。


『わーい』


わーいじゃねぇよ。

落下楽しんでないではよとべや。


――お、レジェンド防具がセットで出てるな。


ドラゴンゾンビは一人で倒したし、当然あれは俺が貰えるんだよな?

これで取り上げられたら怒るよほんと。


落下しながら俺はそんな事を考えるのだった。

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