第6話 スキルと実地
製作用クエストで覚えられるのは装備製作というスキルだ。
クエストは簡単なもので、ギルドで師匠となる人物を紹介してもらえるので、そいつに会いに行って習うと言った感じである。
所謂お使いクエストって奴だな。
――クエストを受けた俺は、ゲートのない小さな寂れた村に向かう。
村へは最寄りとなる街へのゲートを使って移動し、その後は徒歩だ。
歩きなので少々時間はかかったが、弱いノンアクティブ――此方から攻撃を仕掛けない限り襲ってこないタイプ――の魔物しかいないので、特に問題なく目的の村へと俺は辿り着いた。
そして村人はガン無視して、迷わず一番奥に建っている少々古めかしい工房へと向かう。
場所は知ってるので、一々確認する必要はないからな。
「すいませーん!」
ここは半分引退状態に近い高名な鍛冶職人――バッカスの工房だ。
言うまでもないとは思うが、ギルドで紹介されたのはこの人物である。
「誰じゃ?」
ドアが開き、立派な髭を生やした肉達磨の様なムキムキのおっさんが出て来る。
このおっさんが鍛冶職人のバッカスだ――ビジュアルがゲームと一緒。
「鍛冶ギルドの紹介で来ました」
「あーん、ギルドの紹介じゃと。どれどれ……」
俺が紹介状を渡すと、その場でバッカスがそれに目を通す。
「アックスの奴め。ワシを便利屋の様に使ってくれるわい」
アックスというのは、鍛冶ギルドの偉いさんの名である。
バッカスとは長年の友という設定だ。
「まあいいだろう。入れ」
バッカスに言われ彼の工房へと入ると、中には剣や槍などの武器がずらりと並んでいた。
全て彼が作った物だろう。
まあ全部Aランク程度なので、特に目を引く物はないが。
「いいか、俺が教えるのは一度だけだ。それで覚えられないなら鍛冶は諦めろ」
――そう言ってバッカスが制作の実践を始める。
炉に火を入れ、鉄の塊を熱した物を叩いて伸ばす。
伸ばした金属を更に叩いて刃部分の形を作り、水につけて一旦冷やしてからまた熱して叩く。
そして刃の部分を研いで、柄や鞘を作ってEランクのショートソードの完成だ。
と、軽く説明したけど何気に実は丸一日程かかってる――なので工房に一泊。
ゲームだと早回しみたいに一瞬なんだが、ゲーム世界ではそうはいかなかった。
やっぱ現実は糞だ。
うん。
まあスキルが必要だから我慢してみてたけど。
因みにこれが実際の鍛冶と一緒なのかは知らない。
違っていようが何だろうが、武器が出来ればいいので俺にはどうでもいい事だし。
「覚えたな」
「はい」
我慢して工程を見たお陰で、俺の中にスキルが発生していた。
とはいえ、まだ仮の状態だ。
ゲームだとこの状態でここから離れると、スキルが消えてしまう仕様となっている。
ゲームと同じか検証する?
もちろんする訳がない。
覚えられない様になった日には最悪だし、仮に覚えられて、もまた丸一日バッカスの鍛冶を眺める羽目になってしまう。
なので絶対しない。
「なら、お前もやってみろ」
バッカスが鍛冶台の上に金属の塊となめし革、それに木を10個づつおいた。
その材料で作れと言う事だ。
「分かりました」
俺は促されるまま鍛冶台の前に立ち、そして槌を手にスキルを発動させる。
すると手が自然と動き出す。
上から下へ。
――それは槌を持ち上げ、叩きつける動きだ。
そして槌を叩きつけた瞬間、台の上にあったアイテム全てが光り輝き――
Eランクのショートソードへと生まれ変わる。
製作成功だ。
ま、イベントなので今回は成功率100%なんだけどね。
え?
バッカスの作り方と全然違う?
うん、全然違うよ。
バッカスの見せてくれたのは実地作業の製作で、俺のはスキルによる物だからな。
そりゃ全然違うさ。
そう、スキルは超時短仕様だった。
スキル万歳!
あ、因みに言っとくと。
バッカスが態々実地での制作を俺に見せたのは、その過程を見る事でインスピレーションを得て、スキルが習得できるという設定の為だ。
なので、当然バッカスもその気になればスキルでアイテムを製作可能である。
まあ、普通の鍛冶屋はスキルでの製作なんてしないんだろうが……
何故か?
それは職人としてのプライドがあるから。
ではなく。
コストの問題である。
さっき鍛冶台の上に、バッカスがアイテムを10個づつ乗せただろ?
それが答えだ。
実はスキルの場合、必要素材が10倍必要になる仕様だった。
つまり、スキルで作るのは製作コストが10倍かかるという訳だ。
そりゃ作って売る事を考えたら、時短できなくても手作業で作るわな。
10倍はないわ。
「ふむ……ま、上出来だな。腕を磨いたらまた来い」
バッカスが俺の作った剣を確認し、そして満足げに頷きそう口にする。
また来い。
と。
実はこのクエスト。
というか、制作スキルには続き、要は上位スキルが存在していた。
今回覚えた装備制作で作れるのはAランクまでの装備であり、条件を満たしてイベントを進めれば、それ以上の装備が作れるスキル習得のイベントが発生する訳である。
ま、それはまだ先だ。
なので次はレベル上げに精をだしたいと思う。
「ありがとうございました」
俺はバッカスに礼を言い。
装備を買いそろえるため街へと戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます