第22話 ポイ捨てはダメ!

ここはとある街の墓地。

その墓地のある墓の前で、ぼーっと突っ立つ爺さんに俺は声をかけた。


「初めまして。ドルカスさんですよね?」


「お主鍛冶師じゃな。成程……アックスに言われて来たんじゃな」


アックスというのは、鍛冶ギルドのマスターの名である。

そしてこの目の前の爺さんは、その師匠にあたる名工と呼ばれる男ドルカスだ。


「はい」


俺はフラグを立て、ギルドマスターの推薦でここへとやって来ていた。

その目的はスキルだ。


――超級装備制作。


それはSSランク装備を作る事の出来るスキル。

そしてその製造方法を知る唯一の人物がこのドルカスであり、現在イベント真っ最中という訳である。


因みに、フラグはレベル70とスキルレベルマックス。

それにS装備制作10個の実績で立つ。


「ふむ……超級装備制作は危険な物じゃ。お主はそれを理解しているのか?」


製作の何が危険なんだよって思うかもしれないが、魔石を扱うSSランク以上の製作は失敗すると爆発する危険があるという設定となっている――あくまでも設定で、プレイヤーの製作失敗では絶対に起こらない。


そして目の前の爺さんは、かつてSSランク装備製作に失敗し、その際助手であった弟子を死なせてしまったという過去を持つ。

あ、弟子ってのは、今のギルドマスターとは勿論別の弟子な。


んで、その件以降、名工ドルカスは鍛冶から引退し、こうして弟子の眠る墓に毎日やって来ては懺悔してるって訳だ。


毎日毎日爺さんが墓にやって来て長時間その前で突っ立つとか、墓を管理してる人間からしたらちょっとホラーだよな。

まあどうでもいいけど。


「命をかけるつもりです」


勿論かけるつもりはない。

それをかけるぐらいなら素直に製作は諦める所存。


「その目……どうやら覚悟は決まっている様だな」


耄碌した爺さんには、俺の目が覚悟が決まったそれに見えた様だ。

ざ、節穴。

だがまあここで見抜かれても困るから、こっちとしてはその方が都合がいいので大歓迎である。


ビバイベント!


「良かろう……ならばこれを受け取るがいい」


爺さんが懐から紙を巻いた物。

所謂、スクロールと呼ばれる物を取り出し俺に渡して来る。

これはSSランク装備の製造方法が記された巻物だ。


なんで当たり前のようにそんなもん持ち歩いてるんだよ、とか。

ギルドマスターの推薦かどうかを確認せず軽く渡していいのかよ、とか。

突っ込みたい部分は色々とあるが、俺は笑顔でそれを受け取る。


何故ならこれはイベントだから。

そう、イベントは全ての理屈を超えるのだ。


「ありがとうございます」


受け取ったスクロールを俺は速攻で開いて目を通した。

そして即閉じる。


何故なら、中身を読む必要などないからだ。


重要なのはスクロールを開く事。

そう、それだけでスキルは習得出来る。

ならば内容を読む事に意味はない。


ふと……


目の前でスクロールポイ捨てしたら、爺さんはどんな反応を示すだろうか?


そんな悪戯心が一瞬浮かんだが、まあ止めておく。

俺にだって人並みの良心ぐらいはあるからな。

なのでスクロールはちゃんとインベントリにしまう。


……まあもう二度と取り出す事はないだろうけど。


まさに死蔵。


「じゃ、俺はこれで」


『ばいばーい』


クエストをさくっと終わらせ、俺は街の宿へと向かう。

さあ、SSランク製作だ。

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