第14話 心の中

§ 楓が訪れてきて3人に...


 丁度よかったので、リカとかえでも我が家に上がってもらった。


「だだいま、お客さんだよ」


 俺たちを焚きつけた京子の母親は、何らかの進展を期待していたのだろう。ところが、京子を含めて3人の美女に囲まれている俺の姿を見て、おばさんは口をポカンと開けている。


「あらいらっしゃい。リカさんと、ペットショップの地下にいた子ね」


「はい、かえでと申します。京子さんの件では大変なご迷惑をおかけして…」


「いいのよ。みんな無事だったし、貴方は頼まれてやっただけで、詳しい事は知らなかったのでしょう?」


 そう言いながら、リビングに一同が集まった。俺と父親以外は女性ばかり。ちょっと息が詰まる。


「さてと、知っての通り、私達は世界を牛耳っているAIの組織から狙われる立場なのよ。これからの事を考えないとね」


「幸い、かえでさんが組織の命令に背いた件は、あの店長しか知らないようだわ。店長は地下深くに監禁してあるから、とりあえずかえでさんは大丈夫よ。だから、今まで通り、組織に協力するフリをして欲しいの」


「はい、分かりました。でも、店長が居なくなったので、どうすれば良いでしょうか?」


「特に無いわ、かえでさんは組織の事を知っているのだから、必ずあちらから連絡が来ると思うの。そしたら報告してね」


「はい、そうします」


「さてと、私も随分長居しちゃったから、そろそろ家に帰ろうかしら。皆はせっかくだからゆっくりしていってね」


 そう言うと、おばさんは隣の自宅に帰って行った。まったく、どちらが自宅なのか分からないぐらい、ここを自分の家のように使ってるよな… 


(京子も歳を重ねるとああなるのかな…)


 そんな事をふと考える。すでに将来のことを考え始めているようだ。


---


「じゃぁ、ご両親もお疲れだと思うから、あんたの部屋に移動しよう」


 京子がそう言うと、3人とも俺の部屋にスタスタと行ってしまった。俺もすぐに後を追ったのだが、ドアの前まで来ると中から話し声が聞こえてきたので、暫し立ち止まって聞いてみる。


「京子、あなたたち、もう付き合ってるの?」


 いきなり突っ込んだ話をするリカ。俺は部屋に入るタイミングを逸してしまった。


「え? まだ付き合ってないよ」


「まだ... ということは、もうすぐという事だね」


「うーん、どうかな。私達まだ16歳だし、結婚を考えるのはもう少し先かな」


 否定も肯定もしない京子。確かに、少し前までは恋愛対象として見ていなかったけど、京子が拉致されて姿を消した時から、俺は彼女の事で頭が一杯になっていた。こうして無事に戻ってきてからも、京子の事ばかり考えている自分がいる。


 いきなりの恋話に驚いていたかえでが、少し不思議そうな顔で言った。


「そういう事なんだ。彼はリカとも仲がいいから、私はてっきり...」


 かえでが唐突に余計な事を言う。確かに、何度かリカと給湯室で二人きりだった事があったが、かえでに見られていたようだ。あれは魔法を教わっていただけなのに。これ以上根も葉も無い事を言われるとまずいと思い、俺は部屋に入って行った。


「ごめん、父と話していて、遅くなった。何話してたの?」


 と白々しく言う。すると京子が、


「ふーん、あんたも隅に置けないね。この前もリカとデートしてたしね! お似合いのカップルじゃない?」


 京子が意地悪そうに俺を責める。


 かえでは、自分の発言から修羅場に突入するのではないかと、気が動転しているようだ。顔が引き攣っている。


「あれは、リカから魔法を教えてもらっていたのだよ。リカは、お母さんから俺に魔法を教えるよう頼まれていたわけで、何でもないんだ」


「それだけ?」


「それだけだよ。リカは確かに男子生徒の憧れの的で、素晴らしい女性だよ。でも、俺の心の中に居座っているのは...」


 そこまで言ってハッと我に返る。3人の美少女が、目を丸くして俺を見つめている、何とも異様な光景だった。


「えーと、そういうことは本人に直接話すから。俺が言いたい事はそれだけだ」


 話を無理やり終わらせた。危なかったぁ。3人の前で告白なんて、シャレにならん。リカとかえでは『そこまで話して止めるなよ』と言わんばかりに、詰まらなそうな顔だ。


 京子は... 下を向いて嬉しそうにしている。そんな京子を見ていると、胸の鼓動がどんどん大きくなっていく。その音がリカやかえでに聞こえてしまいそうで怖かった。



「あの、こんど私の家に遊びに来ませんか? ポチがリカさんにとても懐いていて、きっと喜ぶと思うわ」


 重苦しい空気を払拭するかの様に、かえでが話題を変えてくれた。


「え、ポチがかえでさんのところに居るの? 逢いたい! ぜひ遊びに行かせて!」


「そういえば、最初に組織を裏切ったのは、ポチだったよね。偉い犬だ!」


 確かにその通りだが、あれはリカの能力によるところが大きい。魔法ではなく、なにか特別な力を感じてしまう。


 その後も、取るに足らない日常の会話がしばらく続き、3人は帰って行った。



 俺たちの家の前でリカとかえでを見送った後、京子と少しだけ話をした。


「明日から魔法の特訓だね。お母さん、張り切っていたよ」


「そうだね。俺もおばさんぐらい強くなりたいな」


「じゃぁ、また明日。『話』、楽しみにしてるね!」


 見慣れている筈の京子の満面の笑みは、いつもよりも美しく輝いていた。


---


 かえでと別れた後、リカが帰り道の公園で夕日を眺めながらつぶやいた。


「ハッキリとした記憶は3年間しか無いのかぁ。でも、私の記憶はたったの1年。あの人は300年生きていて、私は今日が1歳の誕生日。こんな二人が結ばれるわけ無いよね...」


 リカの目からは、静かに涙が流れ落ちていた。


--- 第二章 完 ---


第二章あとがき


 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。読者様の並々ならぬ忍耐力に深く感謝いたします。読み返してみると至らないところだらけですが、これからも楽しいお話しを作れるよう、精進してまいります。


 三章のプロットは概ね出来ていますが、もう一度最初から読み直して推敲させてください。それまでの間は、書き置いてある番外編を投稿したいと思います。


 何卒、これからも、本作品をよろしくお願いします。


                  2024年5月20日 千代 煌(ちとせ ひかり)

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