第8話 同志

§ 襲撃してきた敵を倒し、店長と仲良くなった3人だったが…


 京子きょうこが女神様の教会を店長に見せようとしたとき、リカが大きな声で止めさせた。


「リカ、どうしたの?」


 リカの様子が少しおかしい。先ほどまで和やかな雰囲気だったのに、少しの間、席を外していたリカの表情が、かなり緊張したものに変わっていた。


「何か変なのよ。違和感を感じていたのだけど、ポチとこの施設を少し散歩してみて、判ったわ」


「どういう事?」


「店長のおじさん、京子が何者かに追われてここに隠れた時、京子に『ここなら安全だ』と言いましたよね。この地下設備のセキュリティーは万全なのでしょ?」


「もちろんだ。100年以上の間、見つからないでいたからね」


「ではなぜ、私達を襲った2人の侵入者は、ここまで来れたのですか? 隠し扉の鍵となっているポチは私達と一緒に居たので、かえでは隠し扉をぶち壊してエレベーターの部屋に入ったということでしょ?」


「いや、あの扉はかえでの声でも開くようになっていたのだよ」


 店長の話し方は、すこし言い訳じみている。人の声で開くならわざわざポチを連れてこないだろう。


「一つ目の疑問、ドアを壊さずにエレベータに乗ったとしたら、追手はどうやって隠し扉を見つけたのかしら? かえでがここに着くとほぼ同時に追手が来たわ。隠し扉を探している時間はなかったはずよ」


「…」


「つまり、あの追手はかえでがここに誘導したとしか思えないの」


「いや、そんなはずはないよ。ねぇ、かえでさん」


「もちろんよ。なんで私がわざわざ当局の敵をここに入れるのよ?」


「二つ目、2人の侵入者が現れた時、ポチはとても大人しかったわ。まるで初対面ではないみたいに。犬は、敵対心を持つ人間には牙をむくものよ。実際、私達が忍び込んだときは、凄い形相で襲ってきたじゃない?」


「いや、ポチは根が大人しいんだよ。何か大きな誤解をしているようだね」


 少しうろたえる店長。


「では最後にもう一つ、私達がここに忍び込んだとき、10人の男達がいたわ。そして、店長さんと一緒に降りてきたのは8人、残りの2人はどこに行ったのかしら? 医務室で動けなくなっている2人と合わせるとちょうど10人だわ。わたしね、さっきエレベーターで上まで行って隠し扉を見てきたの。扉は壊れていなかったわ。つまり、追手は扉を壊さずに侵入してきたということ。それもかえでとほとんど時間差なしにね。始めてここに侵入して来た敵が、一瞬で隠し扉を見つけて、扉を壊さずに開けることができるのかしら?」


「…」


「どういうこと?」


 俺はリカに聞き直した。


「つまり、私に言われてエレベーターに乗った10人の男たちは、ペットショップの地下室で隠し扉を中から開けて店長とかえでを迎え入れ、男2人とかえでを上に残して降りてきたのよ」


「そして、後からかえでと男2人はエレベーターでここまで降りてきたというわけ。あの時、かえでが直ぐにエレベーターを破壊したのは、男2人が後から追ってきたように見せるためよ。さしずめ、天井裏にでも隠れていたのでしょう」


 リカの話は筋が通っている。確かに、あの襲撃のタイミングは不自然だった。


「襲撃は自作自演だったのよ。ここは、100年守り抜いた秘密の場所なんでしょう? 私達があっさり侵入できた事も、どう考えても不自然だもの」


「え、ということは、この人たちの目的は一体何なの?」


 京子がリカに問う。


「おそらく、私達から何かの秘密を聞き出すために、大がかりな芝居を打ったのよ。京子を拉致して、それを助けに来た仲間を信用させ、秘密を聞き出そうとしたんだわ」


「なるほど。そういうことか。フン、お前たちに教える秘密なんて何もない。実際、俺たちはただの魔法学校の学生だからね」


「そうよ。私達、普通の学生よ。あなた達が知りたがっている秘密なんて、何も知らないわ」


 実際、京子のいう通りである。PSVR-HD物理VR装置で女神様と連絡ができるとはいえ、本部のある場所も、活動している仲間たちのことも、何も知らされていない。


 ところが、店長は不敵な笑いを浮かべながら言った。


「お前たちが持っているブレスレット旧式魔導器は容易に手に入るものではない。それだけで充分な収穫があったよ。それと、先ほど何かを操作しようとしていたね。そいつも頂くとしよう。あとは、お前たちを拷問して吐かせるだけだ… やれ!」


 店長がそう言うと、警備の男たちが一斉に俺たちに攻撃してきた。彼らは、先ほど倒した2人と同レベルの魔法使いプロンプターのようだ。


 8人が一斉に放ったファイヤーボールは、あっさりとリカが氷結魔法フリーザスで封じ込めた。そして、リカが大きな声で言った。


「京子! バリアお願い!」


 京子は、すかさず強力なバリアを俺たちの周りに発動させる。


「チェンライトニング!」


 リカが唱えると、強烈な範囲攻撃の電撃が飛び交う。先ほど侵入してきた敵が同じ魔法を放ったが、それよりも数倍の威力があった。8人全員が、電撃の痺れで麻痺している。店長だけはかろうじて防御できたようだ。


 すかさず、俺と京子で8人に拘束魔法を放ち、縛り上げた。


 俺たちは戦いを重ねるごとに、連携が上手くなってきたと思う。今回は、こいつら8人をあっさりと倒すことができた。それにしても、リカの素早い行動には驚かされる。


「リカって、ヤバくないか?」


 俺が京子にこっそり話す。


「うん、ヤバすぎ。あの子、どうしちゃったの?」


「今までは能力を隠していたみたい。もしかしたら、京子以上かも」


「そうね。私にはあんなに強烈な範囲魔法は出せないわ」


 リカの余りの早業に、店長もボウゼンと立ち尽くしている。


「この魔法も、あとでアップロードするね」


 リカが俺に優しく微笑んだ。いったいどれだけの魔法プロンプトを知っているのだろうか。


 

 ほっとしたのも束の間、突然、目の前が暗闇になった。何も見えない。店長が部屋の灯りを消したのだ。


 そして、暗闇に怯んだ隙を突かれ、店長から発せられた強烈な拘束魔法を受けてしまった。


(うごけない…)


かえで、お前は京子をやれ。私は後の2人をやる」


 店長が攻撃の準備をしているのが分かる。楓も暗視眼鏡をかけているようだ。まずい、このままだと一方的にやられてしまう。


 

 その時、俺の意識の中に不思議な光景が浮かんできた。それは、戦闘中に絶体絶命の窮地に陥った自分の姿であった。最近の光景ではない。とても古く、記憶の彼方にあるような感覚だ。その記憶の中に出てきた俺は、窮地から脱するために、ある魔法を唱えていた。


--- 第8話 END ---


次回 不思議な力が目覚める…

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