第12話 失われた記憶

§ 京子の母親が語った事実は...


 翌日、約束通り京子の母親である玲子おばさんが、我が家を訪ねてきた。


 そして、俺の家族の前で、話を始めた。


「昨日、オプティマイザ―との戦いがあったことは聞いてますよね。そろそろ本当のことを息子さんにお話しした方が良いと思うの」


「ああ、息子から聞いている。いつまでも隠せる事ではないからな。玲子さん、よろしく頼むよ」


 神妙な顔で父が答えた。母も黙ったまま、俺のほうを見ている。



 おばさんが話し始めた。


「貴方がね、この家に来たのは、今から3年前なのよ。今の貴方の御家族とは、その時が初対面なの」


 なっ、何を突然言い出すかと思えば、俺が生まれ育ったこの家と家族が、3年前に初めて会った?? まったく意味が判らない。


「あのぅ、話がまったく見えないのですが。俺はこの家の息子で、16年間家族と暮らしてきました」


「そうね、信じられないのも無理はないわ。順を追って話すわね」


「はい... おねがいします」


---


「ちょうど今から3年前、私と貴方のお父さん、そしてリカさんのお母さんの3人で、組織が拉致していた男の子を奪還したのよ」


「あ、その時に、何人かのオプティマイザ―と戦って倒したの。昨日逃がした奴は、あの時私達の攻撃で死にかけて逃げた奴だったのよ。だから、私の顔を覚えていたのね」


「話を戻すわ。それでね、その男の子は組織に監禁されていて、しかも過去の記憶を消されていたのよ。それで、都合よく組織に協力させていたわけ」


「もしかして、その男の子というのは...」


「そう、それが貴方よ。貴方は、記憶を消されて組織に囚われていたの」


「私たちは、貴方を連れ帰ってから、なんとか記憶が戻るように手を尽くしたわ。でも、13歳までの記憶しか戻らなかった。13歳以降に貴方が組織と戦ってきた事や、組織に囚われていた時の記憶は消去されたままなの」


「え? ということは、13歳までの俺の記憶にある両親や京子は、今の家族と違う別人ということですか?」


「ええ、そうよ。よく思い出してみて。家族と一緒に出かけたり遊んだりした記憶はあると思うけど、両親の顔をハッキリ覚えている?」


「それが、幼いころの記憶は曖昧で、断片的なんです。家族と過ごした記憶はありますが、顔まではハッキリ思い出せないのです」


「そういうことよ。一緒に遊んでいた幼馴染の女の子も京子じゃないわ。京子はね、貴方に話を合わせていたのよ」


 つまり、こういう事か。俺は、組織に囚われ、記憶を消されてしまった。そして、おばさん達が俺を連れ戻し、13歳の時までの記憶を蘇らせてくれた。その後、今ここにいる俺の両親の下で一緒に暮らし始めたと。


「でも、それだとおかしくないですか? 13歳以降、何年間か組織に囚われていて、助け出されたという事ですよね? でも、俺がこの家に来た時は13歳でした。本当なら、俺はもっと歳を取っていたはずでしょう?」


 俺が反論すると、おばさんは静かに答えてくれた。


「貴方が組織に囚われていた期間は、100年ほどよ。そして、貴方が生まれたのはおそらく300年以上昔なの。女神様の記録ではそうなっているわ」


「それって、俺は300歳という事ですか? この体で? それはあり得ないでしょう」


「それがあるのよ。なぜなら、貴方の体は全く老化をしないのですから。ありていに言えば、貴方は不老不死なのよ」


「... そんなバカな」


「だから、組織は貴方を研究したかったのよ。そのメカニズムは、遠い昔に消え去ったロストテクノロジーなの」


 いやいやいや、俺が300歳? それはないよ。確かに、時々変な記憶が蘇ることはあったけど、それはおそらく組織に消された記憶だと思う。でも、それが300年分もあるなんて。


「まあ、にわかには信じられないでしょうけど、これが真実よ。京子とは本当の幼馴染じゃないけど、これまで通り仲良くしてあげてね」


 少し間をおいて、俺の父、いや今の父が重い口を開いた。


「話は聞いての通りだ。私から付け足させてもらうと、おまえには申し訳ないのだが、不老不死の研究を行いたいのは、我々とて同じことなのだよ。人類の寿命を元に戻す研究には、お前の体は非常に役立つはずだ。なので、協力をしてほしい。もちろん、無理強いはしないよ。できる範囲で構わないから」


「貴方の失われた記憶も、なんとか取り戻したいと思うの。私達が知らない事も沢山あるし、なにより貴方が昔の魔法を思い出せれば、オプティマイザ―なんて目じゃなくなるわ。組織を叩き潰す事だって夢じゃなくなるの」


「確かに、時々過去の記憶が蘇って、昔使っていた魔法を使えたことがありました。もう少し時間が経てば、まだまだ思い出せるかもせれません」


「それはいい話だわ。生死を掛けた実践の中で、記憶が呼び起されているのね。では、しばらくの間私達と実践トレーニングをやりませんか?」


「それは願ってもないことです。新しい魔法も教えてもらいたいし、俺たちは実戦経験が殆どないですから。あ、俺は忘れているだけかも知れませんが」


「じゃぁ、明日から京子とリカさんとで特訓ね。楽しみだわ」


 なんだか、おばさんはとても楽しそうだ。嫌な予感がするが...



「そうそう、お父さんがおっしゃっていたように、協力をお願いしたいの」


「はい、俺にできることならば」


「あのね、貴方の体質が遺伝するか試したいのよ。だから、京子と結婚して」


「ブブブッ!」


 俺は思わず吹き出してしまった。いきなり自分の娘と結婚しろっだって? 娘を実験台にするとは、何という親だ!


「あのぅ、そういうことは、本人の意思が大事なので、俺とおばさんとで決めることでは無いですよ...」


「あら、京子は3年前からそのつもりだわ。あとは貴方の気持ち次第ね。まぁ、京子のことが嫌いだったら仕方ないけど」


 ええ? 今の話が一番驚いた。京子が俺と結婚する気だったって? そんなバカは話があるもんか。俺たちは、幼馴染として3年間過ごしてきたのに。そんな素振りは全く感じたことはないぞ。

※鈍感なだけである


「おじゃましまーす」


京子が我が家を訪ねてきた。このタイミングで!



--- 第12話 END ---


次回、京子の気持ちを確かめようとするが...

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