第11話 最強の戦士

§ 京子の母親が唱えた魔法は…


(え? 1000って、リカの10倍!?)


 俺たちを助けた後、京子の母親がオプティマイザ―に放ったのは、1000倍の重力魔法グラビティーノだった。それは、70Kgの体重が70トンになるという計算になる。さすがのオプティマイザ―も身動きが取れず、床に張り付いている。


「危なかったわね。だから、オプティマイザーと対峙してはいけないと言ったのに」


「ごめんなさい、私たち、騙されていたの。リカが気づいてくれたのだけど、それで奴らと戦っているうちにオプティマイザ―がやってきたのよ」


「まあいいわ、私が来たからもう大丈夫。奴も尻尾を巻いて逃げるでしょう」


 おばさんがオプティマイザ―を睨め付ける。奴は、今にも死にそうな声で言った。


「お前の娘だったのか… 覚えてろ、今日の所は見逃してやる…」


 苦しい捨て台詞を吐いて、オプティマイザ―はなんとか最後の力を振り絞り、無様に這いつくばりながら壁に穴をあけて逃げていった。


「ふん、普通なら即死なんだけどね。しぶとさだけはゴキブリ並みね」

※この時代にゴキブリはいません


「バリアはお母さんね、ありがとう」


「あの攻撃は反則よ。通常の方法では防げないわ。間に合ってよかった、リカさん、連絡してくれてありがとう」


 先ほどリカが地上まで上った時に、おばさんに連絡をしてくれたのだ。リカは本当に機転が利く。俺もおばさんにお礼を言った。


「ありがとうございます。おかげで助かりました。それに、なんというか、おばさんてとても強いのですね」


「あら、そうでもないわ(笑)」


 口では謙遜しているが、ドヤ顔であった。


「オプティマイザーが来たということは、あなた達が探っていたペットグループは、反AI組織を見つけるための当局の罠ね」


「そうみたい。今となっては、他の常連たちも怪しいわ」


「そこに転がっている豚の丸焼きみたいなのは何?」


「あれは、このペットショップの店長さんよ。オプティマイザーの部下だったみたい」


「あそこにいる女の子とワンちゃんは?」


 かえでとポチの事をすっかり忘れていた。ポチが、部屋から離れたところまでかえでを連れて避難してくれたお陰で、無事だったようだ。


「みんな、騙してごめんなさい。私、逆らえなくて」


「いいんだよ。でも、なぜ奴らの仲間になったんだ?」


「ペットの事で相談しているうちにね、頼まれたんだ。最初は正しい事だと思ったし、そうしたら京子さんを拉致して… もう、どうしたらいいか判らなくて。でも、京子さんを痛めつけるなんて、どうしてもできなかったの」


「ところで、そこに転がっている豚の丸焼きみたいなのは何? もしかして、店長さん?」


「そうだよ。俺たちが倒したところに管理人オプティマイザ―がやってきて、奴にやられてこのザマだ」


「まだ息はあるみたい。急いで手当てしなくっちゃ。この人たちも、命令されてやっていただけなの」


「あら、そうなの? ラーメンの具にでもしようかと思ったけど、仕方ないわね」


 おばさん、エグイこと言うなぁ… さすが京子の母親だ。


「もうすぐ回収部隊が来るから、治療して、色々と情報を聞き出すことにするわ。どんな話が聞けるか、楽しみね」


 おばさんは、すごく楽しそうだ。


かえでちゃん、怪我は大丈夫?」


「ええ、京子さん、私は大したことはないわ。本当にごめんなさい。許してくれる?」


「もちろんよ。かえでが助けてくれなかったら、私はどうなっていたことか」


「そうよ、助けてくれてありがという」


 リカもそう言う。でも、何故か俺とは目を合わせようとしない。


「二人ともありがとう。これからもお友達でいてね。それと… あなたも…」


(おい、俺に話しかけるなら目を見て言えよ。それに、その奥歯に物が挟まったような言い方)


「お・と・も・だ・ち・に、なってくれる?」


 かえでは、目を逸らせてだとだとしく俺に話す。彼女の顔は、茹蛸タコのように真っ赤だった。


 いつも怖い顔で俺のことを睨んでいる楓が、今は別人のようだ。スラっとしたスタイルに長い髪を纏ったシャープな顔の美人が、恥ずかしそうに下を向ている。改めて楓をよく見ると、とても可愛い。


(イカンイカン、そうやって鼻の下を伸ばしているから、嫌われるんだ)

※ようやく自覚したようである。


---


「あの… この魔法もアップロードするね」


 リカが、先ほど使っていた重力魔法のプロンプト呪文を俺に転送してくれた。


「リカって、本当に沢山の魔法を知っているよね。いったい秘伝の魔法っていくつぐらいあるの?」


「うーん、あと20くらいかな」


(秘伝大杉!)


「でもね、私が教えなくても、凄い魔法を使えるのね。時間を止めていたんでしょう? 私達にはよく判らなかったけど、そのような魔法があるのは知っていたわ。いったいどこで教えてもらったの?」


「いや、あれは何というか、知らないうちに使えるようになっていたんだ」


「なにそれ。そんなわけないでしょ!?」


 リカは信じてくれない。でも、どうやってもうまく説明できない。幽体離脱の魔法もそうだ。あれは、白日夢を見て、その中で俺が唱えていた。あの夢は何だったのだろう…


---

 

 そういえば、俺がこんなに凄いパワーを出せるようになったのは、おばさんが渡してくれたブレスレット旧式魔導器のお陰だ。


「おばさん、ブレスレット旧式魔導器ありがとう。お陰で、魔法のパワーが飛躍的に上がったんだ。以前の俺は、京子さんにもまったく敵わなかったのに、いまなら互角以上の力が出せるよ」


「え? そのブレスレット旧式魔導器には、魔力を高める作用なんて無いわよ。京子だって身に着けているけど、特に変わってないでしょ?」


 言われてみれば、そのとおりだ。でも、リカがブレスレット旧式魔導器を付けていたときは、大暴れしていた。

 

 (あっ! リカは、すごい魔力があることを隠していたのだった。ということは、ブレスレット旧式魔導器のせいじゃない。あれは、本来リカが持っていた力だったんだ)


「そのブレスレットはね、パワーを増幅するような力はないけど、プロテクトロックされている機能やパワー制限を解除することができるの。だからね、今までの貴方は、パワーを制限されていたのよ」


「ええ? 誰がどうやって?」


「その、体に埋め込まれている魔導器ディアデバイスよ。それの構造は、AIの最高機密なのよ。つまり、どのような仕組なのか、全く解っていないのよ」


「そうなんですか。そんなものが全人類の体に埋め込まれているなんて…」


 なんだか恐ろしくなってきた。俺たちは、AIによって様々な制約を知らずに受けていたということなのか。


---


「こんな辛気臭いところに何時までいてもしょうがないわ。後は処理班に任せて、私達は家に帰りましょう。パパも弟も京子の帰りを待ってるわ」


こうして、京子は久しぶりに家に帰った。


帰り道の途中、


「貴方、昔の事を少しずつ思い出しているのでしょう? そろそろ話す時が来たようね。明日、貴方の家にお邪魔するわ」


と、京子の母親が俺に言った。


--- 第11話 END ---


次回、京子の母親が語ったことは…

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