第10話 オプティマイザ―

§ エレベータを降りてやってきたのは…


 店長を倒した後、エレベーターから近づいてきた足音は、部屋の前で静かに止まった。


 そこには、悪趣味なジョーカーのマスクを被ったスーツ姿の男が立っていた。


「まったく、役立たずめ。こんな子供達にやられるとは。もう、終わりだ」


 そう言って、瞬きをする程度の早さで店長と8人の警備の男たちを黒焦げにしてしまった。


「今、何をしたの?」


 京子が驚く。俺にも見えなかった。魔法だとしても、何が起こったのか判らない。


 その男は俺たちを見て言った。


「ふん、それなりに収穫はあったと言うことか。安心しろ。殺しはしない。お前たちは餌になってもらう」


「あなたは? いったい何者なの?」


 京子が恐怖を押し殺して男に話しかける。


「店長が言ってただろう。私は管理人だ。君たちが入っているグループのね。君だろう、私の事をアレコレ詮索していたのは」


「なぜ、こんな事をするのですか? 私たちはただ、人の寿命を元に戻して、お母さんやお父さんとずっと幸せに暮らしたいだけなの」


「フン、何不自由なく生きて来たくせに、何を望む? 老いた体で長生きしたところで、あるのは絶望だけだ。AIは、より多くの人が幸福を得られるよう、計算して最適な答えを出したのさ。それが、今の世界というわけだ」


「ちがう! 自分の幸福は、自分で選んで勝ち取るものだ。AIがお膳立てした幸福なんて、本当の幸福ではない!」


俺は声を大にして叫んだが…


「人間は、自分の幸福を勝ち取るために、破壊や殺戮を行うのだよ。人を殺して得た幸福が、本当の幸福だというのかね?」


「…」


「お前たちも、私達の仲間になれ。秩序と幸福を壊そうとする反AIの組織をこの世から排除しようではないか」


京子が怒りを露わにして反論した。


「あなたの言っていることは、ただの綺麗事だわ。世界中の人が幸福だって? 違う思想の人間を排除し、都合の悪い歴史を隠蔽しておいて、よくそんな事が言えるわね。これがAIの計算による最善の世界だとしたら、欠陥だらけじゃないの。わたし達はそんなポンコツAIの言いなりにはならないわ!」


「うっ! 言うに事欠いて、ポンコツだと? 神を冒涜する者には、天罰が下るのだよ。覚悟はいいか!」


(ああ… 京子が正論をぶつけてしまった。ここは、懐柔されたフリをして油断させ、隙を見て逃げるのが最善策だったのだが…)


「こっちは3人よ。覚悟するのは貴方のほうだわ!」


 相手が誰であろうと、京子はまったくブレない。いつもの京子のままだった。相手はオプティマイザ―なのに…


「仕方ない、やるぞ!」


 俺も覚悟を決めて戦うことにした。リカもやる気のようだ。


 まずは、3人が一斉に攻撃を仕掛ける。ところが、管理人が消えた。いや、瞬間移動して攻撃をかわしたのだ。ずいぶん離れたところにワープしている。


 そして、強力な拘束魔法が俺たちの方に飛んできた。奴は魔法を唱える事無く、詠唱時間ゼロで攻撃魔法を放つ。リカはすかさず氷結魔法で防御、京子もバリアを出したが、それらを軽々と粉砕して二人を拘束してしまった。


 俺のほうに飛んできた拘束魔法は、目の前で停止した。極度に集中すると時間の流れがほぼゼロになるという現象だ。何度か発動を繰り返すうちに、意図的に使えるようになってきた気がする。重い体を動かして奴の攻撃を避け、ファイヤーボールで反撃した。


「ほう、お前は少しは楽しめそうだな」


 奴がそう言うと、俺の放ったファイヤーボールが消えた。


(何が起こっている? 冷静に考えるんだ)


 今度は、奴が攻撃を仕掛ける前に時間を止めてみる。


 うまくいった。奴の動きが止まっている…と思ったら、急に動き出した。時間は止まったままなのに、その中で奴は魔法を詠唱している。


(そうか! 奴も時間を止められるんだ。だから詠唱無しで魔法を出しているように見えたのか。今はお互いに時間を止めているから、お互いの動きが普通の速度で見えているということか)


 それならば、どちらが長い間時間を止めていられるか我慢比べだ。俺も、奴に向かって攻撃を出す。


 体がとても重いが、俺は運動神経と体力には自信がある。奴よりも早く魔法を出せるように、力を振り絞った。


 しかし、渾身の力で魔法を詠唱したものの、奴の攻撃とほぼ同じだった。お互いの放った攻撃は衝突し、大きな音を立てて爆発した。


 集中が切れると時間の流れが元に戻る。それは、奴も同じだった。


「驚いたな。まさか、一般人が加速魔法を使えるとは。一体どこで教わったのだ?」


 俺は、誰からもこの魔法は教わっていない。魔法だという認識もなかった。死にそうになったり、極度の緊張があると勝手に発動していたのだ。


 奴が話の途中で不意を突いて小さな攻撃を放ったのだが、俺の前で自動的に時間が止まり、攻撃を避けた。


「まさか、それはパッシブなのか? 加速魔法をパッシブで発動できるのか!?」

 

 パッシブとは、詠唱しなくても自発的に発動する魔法である。非常に高度な魔法で、通常はごく弱い簡単な魔法しか発動できない。時間のコントロールというチート級の魔法をパッシブで発動するのは、普通に考えると到底あり得ないことだ。オプティマイザ―である管理人ですら、少々驚いているようだ。(俺はその100倍驚いているのだが)


 ようやくリカと京子が復活した。


 リカが重力魔法をかける


「グラビティーノ100倍! 京子、あとよろしく!」


 すかさず、京子が高密度ファイヤーボールを頭上に放つ。


 奴は、頭上にマイクロブラックホールを出して京子の攻撃を防いだが、動きが鈍くなっている。さすがのオプティマイザーも、体重が700Kgになったらキツイようだ。


(そうか! 重力が増えると、ただでさえ動きが重くなる加速中の動きが、さらに重くなるのか。重力魔法は加速魔法に対して、とても有効な対抗魔法という事だ)


 しかし、奴はまだ余裕の表情だ。


「なかなかやるじゃないか。店長がやられたのもわかるな。でも、これまでだ」


 リカの重力魔法が切れるのを待って、巨大な閃光と共に大爆発が起こった、


「これは!? 核エネルギー?」


 やばい。俺は時間を止めたが、この爆発は非常に速いうえ、範囲攻撃なので逃げ場所がない。俺は力を振り絞り、京子とリカを抱きかかえて2人を守った。


 その時、突然俺たち3人が強力な球形のボールのようなバリアに包まれて、空中をふわふわと浮いていた。何が起こった?


 エレベーターの方から一人の人間がこちらに近づいて来た。足音が部屋の前で止まる。


「私の子供達に手を出したら、許さないわよ!」


 そこに立っていたのは、京子のお母さんだった。


「お母さん!」


 そして、おばさんはオプティマイザ―に対して重力魔法グラビティーノを放った。


「グラビティ―ノ1000サウザンド!」


--- 第10話 END ---


次回、最強の戦士は…

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