第13話 結婚

§ 結婚について京子の母親と話していた時に...


「あら、京子、ちょうど良いところに来たわ。今、あなたの話をしていたところよ」


「私の話?」


「ちょうど、この子に結婚を勧めていた所よ。あなた、彼と結婚したいって言ってたじゃない? 昔の話も済んだし、もう結婚しちゃえば?」


「お!… お母さん! 何を言っているのよ? この人の前で...」


 京子は顔を真っ赤にして怒っている。


「あら、良いんじゃない? 彼も満更でも無さそうだし」


「お母さんのバカ!」


 そう言って、京子は家から飛び出して行った。


 おばさんが、俺の顔を見て笑顔で言う。


「貴方、こういう時は追いかけるのよ。京子とゆっくり話をして、仲直りしていらっしゃい」


(いや、別に喧嘩をしたわけではないし、そもそもおばさんが唐突に変なことを言ったのが原因じゃないか)


 そう思ったけど、京子の事が心配なので、とりあえず追いかけることにした。


 飛び出して行った俺の後ろ姿を見て、おばさんは、


「若いって良いわね。私の若い頃を思い出すわ。フフッ」


 と笑っていたらしい。俺の両親は呆れて開いた口が塞がらなかった。


---


 京子の足は速かったが、近くの公園で追いついた。そして、追いかけてきた俺を見て言った。


「お母さんの言ったことは忘れて! 私は、今まで通り仲の良い幼馴染でいいのよ」


 京子の眼は真っ赤に腫れ上がり、泣いていたようだ。


「うん、おばさんから、俺たちが出会ったのは、たったの3年前だと聞いた。でも、京子は俺にとって、掛け替えのない幼馴染だよ。それはこれからもずっと変わらない」


「ありがとう、お母さんたら、全く余計なことばかり言うんだから」


 そういうと、涙目ながら、少しだけいつもの笑顔が戻ってきた。


「俺たちも、あと数年で結婚を考える歳になるんだ。俺だって、自分の結婚相手のことを考えることはあるよ。その、京子のことだって...」


「え? 私のこと? 結婚相手として?」


 京子は驚いたようで、目を丸くしている。その目には、ほんの少しだけ涙が残っていた。


「ああ、考えたことがないと言ったら嘘になる。京子は、俺にとって最も身近な女性だからね。それに、とても魅力的だし」


 顔が真っ赤になる京子。


「それって、もしかしてプロポーズ?」


「いやいや、そう言う意味じゃないよ。今すぐ結婚相手を決めたいとか、そのように考えたことはない。ただ、いずれ相手を見つけて結婚する日が来るだろうなって」


「だよね。今すぐ結婚なんて… でも、私の事を少しでもそういう目で見てくれたのは嬉しいわ。私も...... 同じ考えよ」


 お互いの目を見つめ合って、少しの間沈黙が続いた。


(むむむ、この展開は、このまま俺たちは結ばれてしまうのか? いや、冷静に考えて悪い話じゃない。むしろ、願っても無いことなのだが... でも、もしかして、これはおばさんの策略? こうなることを予想して、ワザと俺たちを焚き付けたのか?)


 その時、


「あー、京子たち、こんな所で何しているの?」


 少し離れたところから、リカが手を振りながら近づいてきた。


 慌てて涙を拭う京子。俺も、ハッと我に帰り京子と距離をとる。


「あれ? お邪魔だったかしら。(笑)」


 いやまあ、その通りなのだが、流石にそうとも言えない。


「え、そんなんじゃないよ。ちょっと世間話をしていただけだよ。で、リカは何の用?」


「うーん、まるで用がないと来ちゃいけないみたいだね。怪しいなぁ... ま、いいか。実はね、お母さんがあなたの家に行って話を聞いてきなさいって。なんの話してたの?」


 リカはいつものように呑気で明るい笑顔だ。少し前までシリアスな空気に包まれていたのだが、一気に日常に戻った。


---


 家に帰る途中、リカに俺の過去について話をした。すると、リカは


「私が退学になった日、あの時お母さんから色々と話を聞いたの。私が今の学校に転校してきたのは1年前だから、あなたの記憶にある私はすべて本物ね。京子さんのことは、ショックだったでしょう?」


「正直言って、幼いころの記憶は曖昧だったから、それほどでも無かったよ。俺が幼いころに一緒に遊んでいた女の子、あの子は京子の祖先だったりして。声も顔も京子にそっくりだし」


「私の祖先かぁ、300年前っていったい何代遡るのだろう? 15代ぐらい? それってもうご先祖様って感じね。(笑)」


(こんな他愛のない話をしているが、俺って齢300歳なんだよな。記憶にあるのは16年間だけだし、実感が湧かないなぁ)



「それでね、その時に秘伝の魔法を母から全部教わったのよ。実はね、秘伝の魔法をあなたに教えてるよう、母から頼まれていたの」


(通りで秘伝なのに気軽に教えてくれるから不思議に思っていたんだ。お母さんの計らいだったのか)


 俺はてっきり、リカが俺のことを… なんて妄想を一瞬だけしてしまったのだが、それは俺の記憶から消去することにしよう。


「それでね、我が家に伝わる秘伝の魔法なんだけど、元々はあなたが作り出した魔法なんだって。それを私達が代々受け継いできたの。だから、教えるのではなくって、あなたに返しているのよ」


「え!? 俺が過去に使っていた魔法なのか? うーん、とても複雑な気分だなぁ。それにしても、何百年もの間、魔法を継承し続けてくれて本当にありがとう。お母さんにも今度会ったらお礼を言わないと行けないね」


 今日は驚きの話ばかりだが、これまで不思議に感じていた事が一気に解決して、スッキリした気分だ。そして、家の前まで戻ってきたとき、そこに1人の女の子が立っていた。



「あのう、これ、皆さんで食べてください。お詫びとお礼の品です。本当に、ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げているのは、かえでだった。


--- 第13話 END ---


次回 いよいよ二章のクライマックスに…

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