第2話 リカからのプレゼント

§ リカからの意味ありげなプレゼントに胸躍らせるが...


 教室でリカと話しているときに、突然プレゼントをくれると言われた。


(プレゼント? まさか、チョコレート? 今日は2月だっけ?)


絶世の美女にプレゼントと言われると、俺も思わず舞い上がってしまう。


「ここだと人目があるか、ちょっと付いてきて」


 そう言って、リカは給湯室の方に俺を誘った。給湯室といってもボイラーがあるわけではない。湯を沸かすなど、魔法で簡単に出来るからだ。ここは、水場として掃除の時にバケツに水を汲む場所だ。したがって、今の時間は人がここに来ることは殆どない。


 俺の心臓が異常な鼓動を打っている... リカと二人で、人気のない場所に…

いや、決して変な期待をしているわけではないのだけれど… 俺の心臓は一体何を期待しているのだろうか? ※それを変な期待という



「今からアップロードするね」


 そう言うと、リカは俺のブレスレット旧式魔道器にプロンプトをアップロードしてくれた。アップロードされたプロンプトは、とても複雑で一見して何をするものかよくわからない。(うーん、でもエッチなものではなさそうかな)俺は一体何を期待していたのだろうか???


「ちょっと使ってみて。あのバケツがいいかな」


 リカに言われるままに、俺は殆ど込めずに、ごく軽く給湯室の水の入ったバケツに対して呪文を唱えてみた。昨夜の打ち上げ花火の件があったから、本当に微量の魔力しか込めていない。


(バシッ!)


 次の瞬間、給湯室全体が凍りついた。なにもかもカチコチに凍っている!


(リカは大丈夫か?)


 俺はリカに魔法を浴びせてしまったのかと心配したが、リカはこうなることを予測していたのか、予め防御魔法でガードしていた。両手で必死に防御していたリカは、聞きなれない呪文を唱えた。


「リバート!」


 すると、凍りついた給湯室は元に戻っていた。


「なんなんだこの魔法は。強力すぎる! それに、この魔法は...」


 俺は、女教師が発狂した時や、ガーゴイルに襲われた時に出現した氷結魔法のことを覆い出した。


「あの時の氷結魔法は、リカだったのか?」


「うん、隠していてごめんね。あなたが心配でつい...」


「なんでリカが?」


「我が家に代々伝わる秘伝の魔法なの。秘伝だから滅多に人に見せてはいけなと言われていたから、封印していたのよ」


 そんな魔法があるんだ。秘伝? タレではなく魔法? 確かに、魔法には簡単なものから複雑なものまで非常に多くの種類があり、一般に知られていない魔法があっても不思議ではない。


「あの時は、あなたが殺されそうになって、思わず使っちゃったの。驚かせてごめんなさい」


「他にも我が家に伝わる秘伝の魔法は沢山あるから、あなたには教えるね」


「秘伝なんだろう? 俺なんかに伝えちゃまずいんじゃないの?」


「いいのよ。だって…」


 下を向いて恥ずかしそうにしているリカ。この1年で、少し大人っぽくなったリカは、無茶苦茶に可愛い。これは反則だ。俺の心臓は、再び大きく踊り出した。


 俺は気を取り直して、京子の探索のことを話した。


「昨日の京子の行動について、何か思い当たることない?」


「京子を誘拐するなんて、普通じゃないわね。彼女は機動隊ですら撃退しそうだもの」


「だよね。そもそも、京子を拘束できる人間なんて、滅多にいないはずだ」


「もしかしたら…」


 リカが言葉を濁らせる。そこで、俺は思い切ってリカに尋ねることにした。


「実は、昨夜リカのお母様が家に来て、組織や女神様の話を聞いたんだ。リカも知っているんでしょ?」


「あ、そうだったのね。私も、退学になった日に母から聞いたんだ。でも、関係者以外には絶対に言ってはダメだと言われていたの」


「どうやら、俺や京子の家族は思いっきり関係者だったみたいだ。リカの家もそうだったんだね」


「うん... そうみたい」


「それで、女神様の可愛いペットの名前を知ってたの?」


「それはね、わたしの家で飼ってる猫ちゃん達と同じ名前なの。お母さんが、女神様のペットの名前を家の猫ちゃん達に付けたんだって。笑っちゃうでしょ?」


 リカは、笑いながら教えてくれた。リカがペットの名前を知っていたのは、本当に不思議だったけど、まさかそのようなオチとは。変な詮索をしてしまったけど、リカは俺の知っているリカのままだったから、安心した。


「いけない、昔話をしている場合じゃなかった。京子を誘拐した犯人の手がかりを見つけないと」


「そうだったわ。あの日、京子は誰かからメッセージを受け取って、急いで下校していったわ。だから、メッセージの記録が何処かに残っていたら、手がかりになると思うの」


 ああ、こんな時に京子がいたらなぁ。何処かのAIデータベースに潜り込んで、メッセージの記録をハックできたかも知れないのに。


 少し冷静になって考えてみる。俺が京子の立場だったら、自分の身に危険が迫っていることを予感していたはずだ。おそらく、俺たちに相談しなかったのは、巻き込みたくなかったのだろう。


 だとすると、万一に備えて、何処かに俺たちが気が付くようにメッセージを残しているのでは無いだろうか? あの、クレバーなら京子なら、きっとそうしているはずだ。


 京子がメッセージを残しそうな場所... そして、京子を敵視する組織にはぜったにに分からない場所... その答えを見つけられれば、きっと手がかりがあるに違いない。


---


 俺たちは、一旦教室に戻って、京子がどこかメッセージを残してないか、リカと一緒に考える...


 過去の出来事を一つずつ振り返り、俺たちは考えた。そして、ひとつの可能性に気が付いた。


 校長AIだ! あの時、校長AIが「君たちの命が危険に晒される」と忠告してくれた。ということは、少なくとも組織側の人間の発言ではない。校長AIは、女神様から重要なデータをアップロードされている。それは、こちら側に付くための情報だったかもしれない。もし、京子が校長に何かメッセージを託したとしても、校長AIは組織にそれを報告したりしないだろう。


 俺たちは、直ぐに校長AIに会えるように教頭先生に頼んだ。彼はリカのいう事なら何でも聞いてくれる。すぐに校長AIに会う事ができた。


校長AI、お尋ねしたいことがあります。京子から、なにか預かっていないですか?」


「ああ、預かっているよ。君たちが訪ねてきたら、これを見せてくれと」


 校長AIは、あるメモを俺たちに見せてくれた。そこには、SNSのユーザーグループのアドレスが書かれていた。


「君たち、また変な事に首を突っ込んでいるだろう。京子のことは警察に任せて、大人しくしていることだ。それが、自分たちの身を守る唯一の方法だと忠告したはずだ」


「でも、友達のために勇気を出して行動をするというのは、良いことだ。君たちに評価ポイントをつけておくよ。以上」


 そう言うと、校長は去って行った。


「ずいぶん優しくなったね」


 校長の態度の変化にリカが驚いている。女神様が施した細工が効いているのだろう。


そのSNSグループを見てみると、「ペットの寿命を伸ばす会」というタイトルだった。


--- 第2話 END ---


次回、ペットのSNSグループで京子の発言が...

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