第二章 覚醒

第1話 京子の失踪

§ いよいよ第二章の始まりです。いきなり、京子の身に異変が...


 年が明け、俺たちは学年がひとつ上がった。教室の様子は何も変わらず、リカは相変わらず男子の人気者で、俺は退屈な授業を貴重な睡眠時間として有効活用している。それにしても、教師の睡眠魔法たるや、どこからあの強力な魔力が出てくるのか不思議に思う。


 「今日は寄るところがあるから、先に帰るね」


 珍しく、京子が一人で帰った。行き先も聞かず、その時は気にも留めなかった。京子の後ろ姿はいつもと変わらなかったが、しばらくその姿を見ることができなくなる。


 翌日、京子は学校に来なかった。彼女はこれまで皆勤賞で、一度も学校を休んだことはない。俺は、学校から帰るとすぐに京子の家に行った。


 京子の家は留守だった。


(家族でお出かけ? 俺に一言も告げずに??)


 この時、悪い予感が俺の脳裏をよぎった。ただ、具体的に何が起こったのか、想像がつかない。この平和な時代に、一家失踪? 交通事故など、10年に一度あるかどうかだ。


 京子家と最も親しいのは我が家だ。俺の両親も心配してる。特に、妹の薫は京子の弟と仲が良かったので、すごく不安そうだ。


 俺の家族が不安に包まれていた時、京子の家から人の気配がした。


「帰ってきたようだ!」


 俺と妹が急いで京子の家に行こうとして玄関のドアを開けると、そこに京子の母親が立っていた。


「こんばんは。遅くにすいません。少し、いいですか?」


 京子の母親の表情から、とてつもなく深刻な状況だと言うことが読み取れる。


 彼女の話によると、昨日の夕方に「友達と遊ぶから遅くなる」という連絡を最後に、京子と連絡が付かなくなったらしい。


 この世界の人間は、すべての人の腕に魔導器ティアデバイスが埋め込まれている。これは、位置情報も同期しているため、「行方がわからない」と言うのは、通常では起こり得ない。

 京子が使ったECM魔法のように、意図的に通信を妨害されるか、地下数百メートルに潜らない限り、地球上どこにいても位置は把握できるようになっている。

 つまり、京子と連絡が取れないと言うことは、京子の身に何か重大な事が起こっていることを示唆するものだ。


「何か、思い当たることはないのですか?」


 俺は、京子の母親に聞いた。


「ないことは、ないのですが... それが...」


 奥歯に物が挟まったような言い方だ。「ないことはない」と言うのは、あると言うことだろう。


「警察は事態を把握しているのですか?」


「ええ、昨夜警察から連絡がありました。京子の位置情報が把握できないと。それで事情を話したら、こちらで捜索するって」


「そうか。でも、警察が一晩経っても見つけられないとなると、俺たちの力で見つけるのは厳しいですね」


 今の時代の警察はすごく優秀だ。捜査はAIアンドロイドが行い、その人知を超えた能力で、大抵の事件は即座に解決する。それが20時間ほど経過した現時点で進捗がないと言うのは、普通ではない。


「でも、警察による捜査で未解決事件ってゼロですから、きっと見つかりますよ」


 気休めかもしれないが、俺が京子の母親にそういった。


「... それがね。迷宮入りした事件て、この100年だけでも数十件あるのよ」


「え? 俺は学校で100年以上の間、未解決事件はゼロだと教わったけど。嘘だと言うことですか?」


「そうなの。実際は、割とあるのよ。だから心配で」


ここで、俺の寡黙な父が初めて口を開いた


「玲子さん(京子の母)、そんな話をして、大丈夫ですか?」


「ええ、ECMでここと私の家からの情報は遮断してあるわ。ダミーの情報も流してあるから大丈夫」


 さすが京子の母親だ。抜かりはない。


「そうか。それなら安心だ。では、今回の件はあの組織が絡んでいると?」


「そうね、警察が見つけられない以上、それしか考えられないわ」


 ちょっとまて。俺の父と京子の母親の会話についてけない。組織ってなんだ?


「そろそろお前たちにも話すべきだな。もう、足を突っ込んでいるみたいだし」


 俺の父が、普段とは全く違う真剣な面持ちで俺に言った。なんだよ。今まで隠し事をしていたと言うことか。


「私から話すわ」


 京子の母親が俺の顔を見て言った。それは、とても優しそうで、しかも力強い目をしていた。


「今のAIが、歴史を改竄していたことは知っていますよね」


「ええ、昨年の騒ぎで知りました。AIに禁止された人間の寿命について、研究していたグループがあったとか」


「その通りです。寿命だけでなく、AIによって人間の体が細工されていること、全般的に研究していました。それは、AIの方針に背くと言うことですから、目をつけられてしまったの」


「おばさん、詳しいですね。どこでその話を聞いたのですか?」


「私も、あなたのご両親も、その研究者の末裔なのよ。先代の意思を注いで、研究を続けているの」


「!!! なんだって? 俺の親も? じゃぁ、女神様についても知っていますか?」


「もちろんよ。女神様は今でも健在で、私たちを導いてくれているわ」


 灯台下暗しというか、あの事件の真相を知っている人間がこんなに身近に居たなんて。なんであの時教えてくれなかったのだろう?


「なんで、貴方たちがリカさんの件で悪戦苦闘している時に、教えてくれなかったのだろうと思っているでしょう?」


「はい」


「あの時は、貴方たちだけの力で問題を解決して欲しかったのよ。それも女神様の考えなの。貴方たちは、自分たちの力だけで見事に解決したわ。だから、打ち明けたのよ。京子にも、つい先日話したばかり。それが、こんなことに」


「そうだったんだ。あ、リカは? 俺たちの友達のリカも、そのことを知っているのですか?」


「さぁ、それは本人から聞いて頂戴」


 はっきり答えないと言うことは、リカも知っていたのか。だとしたら、女神様の可愛いペットたちの名前を知っていても不思議ではない。今度リカに会った時に確かめるとしよう。


 問題は、姿を消した京子の事だ。この平和な時代に誘拐とは。。。信じ難いことが起こっている。


「まずは、なんでもいいから手掛かりを探して欲しいの。組織というのは、私たちのようなAIに背く人間を取り締まる連中の事よ。警察も組織の息がかかっているから、アテにならないわ。このままだと、京子の失踪は歴史に残らない未解決事件になってしまうから」


 状況は理解した。俺は、明日からリカと一緒に京子の足取りを追ってみることにする。


「これを使って頂戴。きっと役に立つわ」


 女神様にもらったブレスレット旧式魔導器を手渡された。京子が持っていたものだ。


「それは貴方が装着しても大丈夫よ。女神様が、貴方と京子のために、わざわざ作った物だから」


「分かりました。では、使わせて頂きます」


 俺は、恐る恐るブレスレットを腕にはめてみた。すると、体の奥底から不思議な感覚が湧き出てきた。ドーピングというか、チートというか、まるで自分が最高技術をもつ魔法使いプロンプターの頂点に立ったような気分だ。


 俺は、京子の母親が帰った後に、部屋で魔法を試してみた。窓から、夜空に向かってファイヤーボールの魔法を極めて弱く、周りの人が気が付かない程度の威力で放ってみた。ところが、俺の放った魔法は、夜空に大きく輝く打ち上げ花火のように、盛大に爆発した。近所の人が、窓から顔を出してキョロキョロしている。


 おそらく、100倍〜1000倍ぐらい? 俺の魔力が増幅されているようだった。(これって、チートツールじゃないの? いったいこの旧式魔導器ブレスレットって、どうなっているのだろう?)

 不思議に思いつつ、今後は魔法の発動には細心の注意が必要だということを自覚した。


---


 翌日、 俺は、リカを呼び止めて京子の足取りを探す手伝いを頼んだ。もちろん、リカは快く引き受けてくれた。俺とリカが教室で話をしていると、周りの男子共の冷たい視線が刺さる。


 「あなたにプレゼントがあるの」


 意味ありげに、リカが俺の目を見ながら言った。俺はその言葉に胸の高鳴りを覚え、その事をリカに悟られないように胸を手で押さえていた。


--- 第1話 END ---


次回、リカからのプレゼントに驚愕する...

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