第5話 隠されたアジト

§ ペットショップの隠し部屋で絶体絶命の俺たち...


 俺たちが罠にかかったフリをして地下室で待っていると、足音が聞こえてきた。


 やってきたのは、店員のオッサンだった。


「ネズミがかかったようだな。お前たちは、かえでの学校の生徒たちだろう。知っているぞ」


 どうやら、校庭での女教師の騒ぎで、俺たちは少し有名になってしまったらしい。


 この状況を切り抜けるために、芝居を打った。


「すいません、俺たち、大型犬マニアでして、あの犬がとても可愛いのでゲージを開けてしまったのです。特に、この子は犬が大好きで...」


 俺は咄嗟に口から出まかせを言った。すると、オッサンは


「フーン、好きなのか。では、存分に戯れてくれ」


 というと、後ろから本物の大型犬を連れてきていた。そして、人と同じぐらいある大きな犬が、俺たちに襲い掛かる。


「キャー、助けてー!」


 泣き叫ぶリカ。


「大好きという割には、怖そうだな。猿芝居は止めるんだ。何を探っている?」


 大型犬は主人の命令で襲うのを止め、大人しく座っている。


「いや、その...」


 何とか時間稼ぎをしたいのだが、なかなか言い訳が思いつかない。もう仕方ない、最後の手段に出た。


「つまり、その、こういう事です」


 俺は、オッサンと犬を拘束魔法で一瞬のうちに縛り上げて、そう言った。


 リカは、大型犬に近寄ると、


「ごめんね、少し我慢してて」


 と言って頭を撫でていた。本当は、犬も好きなようだ。(いや、だったらもう少し芝居を続けたのだが...)


 この騒ぎでも、誰も来ないところをみると、ここにはオッサンしかいないようだ。俺はオッサンに尋ねた。


「この先には何があるのですか? 俺たちの友達の京子という女性も、ここに来ましたか?」


「フン、大人しく拘束を解いて帰れ! 俺に言えるのはそれだけだ」


 口を割りそうにない。すると、リカが尋ねる。


「おじさん、この犬の名前、教えて」


「そいつは、『ポチ』だ。そう見えて、結構良い奴なんだ。苛めないでくれ」


 ずいぶん可愛い名前だな。女神様といい、化け物に可愛い名前を付ける変な癖があるのか。


「ねえポチ、私たちと一緒に来てくれる?」


 リカが大型犬に優しく微笑みかける。たしかに神殺し級の笑顔だが、それは人間の男子相手に限ったっ事だ。いくらリカでも、犬に色仕掛けは通じない。


 そう思っていたら、リカがあっさりと犬の拘束魔法を解いてしまった。そして、ポチはすっかりリカに魅了されて懐いている。


 リカの魅力、恐ろしや...


 オッサンも目を丸くして驚いている。俺たちは、オッサンをここに置いたまま、ポチを連れて先に進むことにした。オッサンの拘束魔法も、30分もすれば解けるだろう。


---


 思った通り、トラップ用の部屋の入口とは反対側に、壁にカモフラージュされたドアがあった。ドアはロックされていたが、ポチが『ワン』と吠えると、ドアのロックが外れた。ポチがキーになっていたのだろうか。リカのナイス判断である。


 その先に進んでみると、エレベーターが1機あるだけの部屋に突き当たった。おそらく、地下深くにアジトがあるのだろう。


 俺たちはエレベーターに乗って地下深くへ降りて行った。10分ぐらい経過しただろうか。1000m以上は潜ったと思う。ここまで潜ると外部との通信は途絶え、位置情報も把握できなくなる。今頃、俺やリカの家族は心配していることだろう。そして、俺は確信した。京子もここにいるに違いない…と。


---


 地下のアジトに着くと、10人ぐらいの男たちが、予期せぬ来客に備えて待ち構えていた。リカがすぐさま話しかける。


「こんにちは。私たちは怪しい者じゃないの。ペットグループの人間よ。店のおじさんが急に倒れて、危ない状態なの。おじさんに頼まれて、ポチと一緒に伝えに来たのよ。今すぐ助けに行ってあげて! おねがい♡」


 男達は半信半疑だが、リカの美しい眼差しと彼女に懐いているポチの姿を見て、とりあえず信用したようだ。直ぐにエレベーターに何人か乗り込んだ。


「俺たちは後から戻るから、エレベータで先に行ってくれ!」


 不審者を待ち構えていた男たちは、リカにまんまと騙されて、ポチを連れて全員エレベーターで地上へと向かった。リカの男を魅了する能力は半端なく、もはや兵器級である。(俺が胸躍らせてしまうのも、当然ということか)


 これで、エレベーターで往復する時間、20分ぐらいは時間を稼げるだろう。


「上手くいったわね。さあ、京子さんを探しに行きましょう」


 そう言うと、俺の手を引いてアジトの奥の方へ進んで行った。


---


 ここは、何かの訓練施設兼研究所の様だ。こんなに地下深くに隠してあるということは、オプティマ(世界を支配しているAI直下の組織)とは敵対する組織の可能性が高い。おばさんが言っていたように、うちの親やおばさん達とは違う反AIのグループなのだろうか?


 そんな事を考えながら進んでいくと、突然、背後からファイヤーボールの魔法で攻撃された。リカがすかさず氷結魔法フリーザスで火の玉を消し消し去る。


 すると、その攻撃に隠れるように、最初の攻撃とは別物の、超高密度なファイヤーボールが氷柱を軽々と突き破り、凄い速度で迫ってきた。


 魔法は連続して発動するのが難しい。一発目の魔法で防御魔法を発動させておいて、二発目を防御させずに直撃させる戦法だ。先ほどの男達と違い、明らかにハイレベルで戦闘慣れしている。


 強烈なファイヤーボールは俺のすぐ目の前まで迫っている。リカの姿は見えない。俺は、慌てて『ヴォイド』を唱えたが、タイミングが合わず、超高密度なファイヤーボールの後方に発動させてしまった。


 まずい! 身の危険を感じた時、突然ファイヤーボールが静止した。いや、非常にゆっくりだが動いている。これは… テニスボールが顔面を直撃しそうになった時と同じだ。俺は、重たい体を渾身の力でふり絞り、ファイヤーボールの魔法を発動させた。


 次の瞬間、ドーン! という爆発音とともに、俺の放ったファイヤーボールは敵の攻撃を吹き飛ばして、攻撃してきた相手に向かって飛んでいく。奴は、すかさず防御魔法を唱えた。それは、リカから教えてもらった、『ヴォイド』(マイクロブラックホール)と同じものだった。


 俺の放った巨大なファイヤーボールは、ブラックホールに吸い込まれていく。ところが、吸い込まれる速度が少しずつ遅くなり、完全に吸い込まれる前にその場でバーンと爆発した。術者は驚いている様子である。よく見ると、奴の後ろにリカが回り込んでいた。そして、背後から奴に拘束魔法をかけて、動きを封じた。ナイスタイミングだ。リカがこんなに戦闘に長けていたとは。いったいどこで習ったのだろう…


 俺がゆっくりと近寄っていくと…


「なんだ、あなた達だったのね。突然攻撃してごめんなさい」


 そこに居たのは、紛れもない、京子だった。


--- 第5話 END ---


次回、京子から失踪の経緯を聞く…

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