第4話 ペットショップ
§ 給湯室で密会する怪しい二人...
翌日、教室でリカから話しかけられた。
「ちょっと話があるから、付いてきて」
ふたたび給湯室に俺を連れ出すリカ。傍からみると、ちょっと怪しいカップルに見えるかも知れない。
「私、ペットの寿命のSNSグループに入会したよ。潜入捜査みたいにね。何か情報引き出せるよう頑張るね」
「くれぐれも注意してね。京子の二の舞にならないように。リカまで消えてしまったら、本当にキツイよ」
「ありがとう。心配してくれて、とてもうれしいわ」
リカは、少し下を向いて、とても嬉しそうに微笑んでいる。チート級の可愛さに、俺も心から嬉しくなる。
「秘伝の魔法、あと二つアップロードさせて」
そう言うと、リカは俺の
「一つ目は、直前の魔法の効果を打ち消す魔法なの。『リバート』で起動できるわ」
「あ、先日氷漬けになった給湯室を元に戻したやつか」
「うん、でもね、死んだ人や怪我人が元に戻ることはないわ。あくまでも無機物に対して有効なだけ」
「もう一つは、『ヴォイド』といって、最強の防御魔法よ。マイクロブラックホールを出して、あらゆるものを吸い込ませるの。有機物は吸い込めないようプロテクトがかかっているから安心してね」
なんか、凄く物騒な魔法だな。ブラックホールを作り出すって、この地球が吸い込まれたりしないのかな? 使うのは限定したほうがよさそうだ。
「そうそう、本題に入るわ。昨日の夕方にね、ペットショップに居たら、
「私の直感なんだけどね、
「そうなんだ。俺にはタカビーな女という印象しかないけどね」
「それで、私はとっさに隠れたのよ。見つからないように。それで、
「リカが後を付いていったら目立つぞ。バレなかったのか?」
「それがね、
「店の中から消えた? トイレとかじゃなくて?」
「もちろんトイレも探したわ。でも、今日は学校に来ているから、京子さんみたいに失踪したわけではないみたい」
「そうだな、さっきも給湯室に向かう俺たちを睨んでいた。まるで監視しているみたいだ」
「思うに、あのペットショップ、何か秘密があると思うの。放課後に行ってみない?」
「だね、行ってみよう。ペットという繋がりもあるし、なにかあのグループと関係があるのかもな」
リカと一緒に教室に戻ると、
---
ペットショップには、本物の犬や猫がゲージに入れられて並んでいる。アンドロイド製のペットが多い中、この店は本物しか扱っていないようだ。店員はちょっと不潔な感じのオッサンで、アンドロイドではなさそうだ。この世界では人間の店員は珍しい。
ここは、入口が一つだけで事務所のような別室はない。完全にワンルームの密室だった。ここで人が消えるのはどう考えてもおかしい。何処かに、秘密の出入り口があるに違いない。
床、天井、トイレ、怪しい箇所をくまなく調べてみたが、見当たらない。もっとも、簡単に見つかるようでは『秘密』とは言えないだろう。
「今がチャンス。ちょっとジッとしててね」
店員が接客で我々から目を離した隙に、リカがなにやら魔法を発動した。探索系の魔法だろうか? いったい、リカはどれだけ『秘伝の魔法』を知っているのだろう。
「わかったわ。これね」
リカは、大型犬のゲージを指さす。人が入れそうな大きなゲージで、中からは獰猛な大型犬がこちらを睨んでいる。リカが近づくと、大型犬は歯をむき出しにして唸る。これでは近寄れない。リカは、そんな凶暴そうな犬に臆することなく扉を開いて見せた。
「あれ? これは...」
なんと、大型犬はホログラムで、このゲージ自体が秘密の出入り口になっていたのだ。俺たちは、店員が気づいていないことを確認して、急いでゲージの中に入った。
「
「そうね。こんな精巧なホログラム、今の技術では作れないわ。私たちが持っている
「さっきリカが使っていたのは、探索魔法のようなもの?」
「そうよ。空間の過去の映像を見るものなの。別次元を経由して、時間を遡って映像を送るものよ」
「なんだよそれ、タイムマシンみたいなやつか? もう、何でもアリだな」
「過去に戻ったりはできないわ。見るだけなの。だから、因果律を壊すことはないわ」
ううむ、
ゲージの扉は地下室へと続いていて、俺たちは地下室のドアをそっと開けた。
次の瞬間、強力な拘束魔法が束になって二人に向かって来た。すかさずリカが
「フリーザス!」
拘束魔法の束は一瞬で凍り付いて砕け散る。すると、今度は強力な電撃魔法が打ち込まれた。
俺は、さきほどリカに教えてもらった『ヴォイド』を唱える。すると、電撃は軌道を変えて、すべて一点に吸い込まれて消滅してしまった。
「すごいな、この魔法。電撃の稲妻ですら吸い込むのか」
「そうよ。重力で空間を歪めるから、負の質量をもつ物質以外は何でも吸い込むわ。防御魔法では最高だと思う」
「… それにしても、リカの
「ありがとう。この魔法は速さがメリットなの。あなたも慣れれば素早く出せるようになるわ」
咄嗟の防御でダメージはないが、今の騒ぎで店員やこの隠れ家の人間に侵入が知れてしまっただろう。この部屋には何もない、入口のドアがあるだけだった。おそらく、侵入者を捉えるトラップの部屋だと思う。
「どうする? おそらく侵入はバレているから、店に戻っても、この先の出入口を探して進んでも、いずれにせよ敵と遭遇することになる」
「困ったわね。あなたに任せるわ」
肝心な時、俺に全振りするリカ... 俺は少し考えた後、妙案を思いついた。
「リカ、緩い拘束魔法を俺にかけてくれ。同時に、おれもリカを拘束する」
「え? それって何かのプレイ?」
「冗談を言っている時じゃないよ。俺たちが、罠にかかったフリをするんだ。それで、隙を見て逃げよう」
「なるほど。判ったわ。では、電撃も食らっていたほうがいいね」
そう言うと、リカは電撃魔法を広範囲に放った。
「おい! ちょっとやり過ぎじゃないか?」
俺とリカの顔は真っ黒に煤け、髪の毛はチリジリである。
「これぐらいやらないと、騙せないわよ」
リカは、どことなく楽しそうだ。もしかして、彼女に隠れた趣味があるのだろうか?
その後、俺たちはお互いに拘束魔法をかけ、床に転がったまま誰かが来るのを待った。
--- 第4話 END ---
次回、罠にかかったフリをする俺たちのところにやってきたのは...
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