第6話 再会

§ ペットショップのアジトで京子と再会した俺たち…


「京子!!!」


 俺とリカの声が重なる。暗くて顔が良く見えなかったが、そこに居たのは紛れもなく京子だった。


 リカが、大粒の涙を流しながら京子に抱き付く。


「無事でよかったぁ…(涙)」


「ごめんなさいじゃないよ。俺たちがどれだけ心配したか。おばさんだって…」


 俺も、思わず目から涙が出てきそうだった。


「わかっているわ。本当に心配かけてごめんなさい。私はとても元気よ。でも、いろいろあったの。これからゆっくり話すわ」


「なにはともあれ、本当に無事で良かった。俺だって… 心配してたんだぞ」


「うん、ごめんね…」


 そう言って、京子がこれまでの経緯を俺たちに話してくれた。


---


 話は京子が姿を消す数日前に遡る


 京子が母から組織(オプティマ:世界を支配しているAI直下の組織)の話を聞いた時、それほどショックを受けなかった。それは、少し前からうすうす感じていた事だったからだ。


 話を聞いて京子が最初に思ったことは、バラバラに散ってしまった仲間とのコネクションを取り戻すことだ。もちろん、組織に見つかるリスクは増えるが、大きな敵に立ち向かうには仲間が多いほうが良いからだ。


 SNSで手がかりを探していた時、「ペットの寿命を伸ばす会」というグループを見つけた。公開されている情報を見る限り、とても真面目に寿命の研究をしているようだった。「これだ!」と思った京子は、早速そのグループに入会した。


 メンバーの殆どはペット愛好家のため、京子は少し浮いていたが、持前の知識とバイタリティーで直ぐに溶け込んだ。そして、能力を買われたのか、グループの管理人からオフ会に誘われることになる。


 その管理人がどうも怪しいのだ。素性も本名も伏せたまま、滅多に人前には現れない。京子が得意のハッキング能力を駆使して検索しても、まったく正体にたどり着けなかった。それは、管理人がタダモノではないことを示唆している。


 京子は管理人の事を探るべく、グループのメンバーが集うペットショップに行ってみた。ここの店長もグループの会員だ。そこで、それとなく管理人の事を店長から聞き出していた。しかし、管理人と長い付き合いのあるペットショップの常連ですら、彼の事を詳しく知る人は居なかった。


 オフ会に出席するため、京子が会場に向かっていた時、クラスメイトでおなじペットグループの会員であるかえでから急に呼び止められた。


「京子さん、オフ会に行ってはダメ。管理人が何か企んでいるようなの。あなたは狙われているわ。今すぐ逃げて!」


 藪から棒だったが、かえでの緊迫した表情を見て、オフ会の参加をやめることにした。引き返そうとしたとき、明らかに敵意をもった数名の不審人物が近寄ってきた。


「こっちよ! 付いてきて」


 かえでが京子の手を取って走る。しばらく走って、例のペットショップに京子と楓は駆け込んだ。


「店長さん、変な奴らに追われているの。助けて!」


 かえでが店長に助けを求める。すると、彼は急いで秘密の地下室に案内してくれた。地下室は巧妙に隠された入口の先にあり、薄暗く何も無い部屋だった。そして、店長のおじさんが私に言った。


「私達は、生命の寿命についての研究をしている。もちろん、犬や猫などペットの寿命を延ばす事が目的なのだが、政府や警察のAIは、そう思わないらしい。法律で禁止されている、人の寿命について研究をしているのではないかと疑われているのだよ。だから、こうやって隠れる場所も用意してある」


 なるほど、すでにこのグループは当局からマークされていたという事らしい。それにしても、私を狙う理由は何? まだ入会して間もないし、管理人から誘われただけなのに。


 京子は、もしや自分や家族の正体が知れてしまったのではないかと、内心ヒヤヒヤしていた。そこへ、店で外の様子を見ていた楓が駆け下りてきた。


「まずいよ、あいつら店に入ってきそうだ。きっとここも直ぐに見つかってしまう。どうしよう?」


かなり焦った口調で行った。


「仕方ないな。ついてこい」


 店長のおじさんが、犬を連れてやってきた。そして、廊下に向かって「ワン」と吠えると、秘密の扉が開いた。私たちはそこに案内され、この大深度地下のアジトにやってきたんだ。


「ここまで来れば安全だ。しばらく隠れていなさい」


 そう言われてしばらく身を隠す事にした。いま私が家に帰ると、追手が家まで来てしまうかもしれない。そうなると、私の家族、とくに何も知らない弟が危険に晒される。だから、敵の狙いがはっきりするまで、ここに身を隠す事にした。


「これが、ここ数日の間に私の身に起こった事よ。ここには食料も豊富にあるし、皆優しくしてくれる。見ての通り、ここは当局に隠れて研究を行う施設なの。人類が本来の寿命を取り戻せるといいのにね。私も出来る限り協力しようと思うんだ」


 京子の話を聞いている間に、地上からお店のおじさんと警備をしていた人たちが降りてきた。ポチも一緒だ。俺たちが、京子の友達だということが判ったことで、快く受け入れてくれた。


「君たちの話は京子さんから聞いているよ。隠していて悪かったね。君たちが、本当に京子さんの友達かを確かめなくてはいけなかったのだよ。安易にここに案内するわけには行かないからね」


 店員のおじさんは、優しい笑顔で俺たちにそう言った。俺は、先ほどの乱暴を謝罪した。


「おじさん、先ほどは乱暴な真似してすいませんでした」


「いやいや、見事な魔法だったよ。京子さんといい、最近の若者はどうなっているのかね」


「ところで、私はまだまだ若いのだよ。『おじさん』ではなく、店長と呼んでくれ。この店の店長だからね。店員は私だけだが。ハハハ」


 その仕草がとてつもなく『おっさん』なのだが、これから店長と呼ぶことにしよう。


「ここの設備は凄いだろう。研究施設の他に、魔法のトレーニングルームもある。京子さんは、ここにいる間ずっとトレーニングをしていたよ。彼女の魔法は素晴らしい。U20の記録保持者と同等のスコアを出していたよ。この施設では歴代最高記録だ。まったく恐れ入ったよ」


 京子が魔法の天才なのは知っていたが、そこまで凄いとは。どおりで魔法では敵わないはずだ。


---


 緊迫した空気から解放されていたのも束の間、侵入者を知らせるアラートが鳴った。ここは、盗聴などを防ぐために、地上との通信を完全に遮断しているらしい。地上とのコンタクトはこの非常用アラームのみだ。俺たちが下りて来た時も、おそらくこのアラームが鳴っていたのだろう。


 和やかかだった空気が一変し、緊迫した空気が張り詰める。エレベーターのドアが開くと、中に乗っていたのはかえでだった。


「みんな、まずいよ! 組織のやつらにここが見つかった。すぐに手練れが2人追ってくる!」


そう言うと、急いでエレベーターを破壊してこちらに駆け寄ってきた。


 なんと、追手は1000mはあろうエレベーターの縦穴を飛び降りて来て、壊れたエレベーターの上に着地した。サングラスで素顔を隠しているが、鋭い眼光でこちらを睨む。その装いだけでも、かなりの強敵であることを直感した。


--- 第6話 END ---


次回、ハイレベルな魔法使いとの闘いが始まった…

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