第4話 罠
§ 楓を救出に来たが、それは敵の罠だった…
警告音が鳴り止むと、何者かが部屋の扉を開けて入ってきた。
「
数人の警備員のような施設のスタッフに
「君たち、なかなか優秀な学生さんだね。あの暗号をこんなに早く解読して、ここまで辿り着くなんて。そんな若者を待っていたのだよ」
(待っていたとは、どういうことだ?)
「乱暴な真似はしないから安心してくれたまえ。セキュリティを突破して不法侵入したことも、不問にしよう」
「俺たちにどうしろと?」
「少しだけ、我々の研究に協力してほしいのだよ。君たちのような、優秀で行動力のある若者を探していたのだ」
男がそう言うと、見学の時に
「それを着けちゃダメ!」
俺と京子は、言われるがままにVRメガネを装着した。すると、目の前に別世界が広がった。
(PSVR-HDのような仮想ホロデッキか?)
そう思ったのだが、視覚ではなく直接脳に作用している感じがする。仮想空間の映像を見ているというより、悪夢のような歪んだ世界の中にいるようだ。そして、極度の興奮と共に、次第に理性が失われていく感覚を覚えた。
やがて、目の前に魔物が現れて俺たちに襲い掛かる。反射的にそれらを撃退するのだが、次から次へとやってくる。次第に魔物の姿が人間に近づいてゆき、俺は人の姿をした魔物を次々と無残に倒していった。
この、理性が遠のくような興奮により、残酷な行為も躊躇なく行える。そして、次のシーンになると、人間の子供たちが武器を持って俺に襲い掛かってきた。俺は咄嗟に子供たちを殺しそうになり、その時、ハッと我に返ってVRメガネを外した。すると、次第に意識がハッキリとし、現実世界に戻ってきた。
「どうだね? 魔物を倒す爽快感を味わえたかな? 次からは、メガネを外せないように手足を拘束させてもらうよ」
男はそう言って、部屋から出て行った。ドアにはロックが掛けられており、その強力なセキュリティーは京子でも解除不能だった。
俺たちは
「あの眼鏡をかけるとね、理性が失われていく感じがするのよ」
「たしかに。理性の抑制が失われていく感覚があった。いったいこの実験の目的は何だろう?」
「どうも、理性をコントールする技術を研究しているみたい。意図的に理性を失わせる事が目的なのかも」
理性を失わせる研究か。薬物を使えば容易に理性は吹っ飛ぶのだが、俺たちは薬物を投与されたわけではない。脳に対するコントロールだけで理性を失わせようとしているのか。いったい何の役に立つ技術なのか。まさか、戦争を始める気ではないだろうな…
「私もいろいろと考えたのよ。思うに、アンドロイドって人間を攻撃できないじゃない? そのプロテクトは理性のコントロールが厳重に敷かれているもので、詳細な技術はロストテクノロジーとなって失われてしまったのよ。もし、アンドロイドが理性を失うと...」
「人を攻撃するアンドロイドを作れるようになるということ?」
京子が目的に気が付いたようだ。
「すこし前にお母さんから聞いたわ。数百年前まではアンドロイドが人を殺していたのよ。その戦争によって何十億人もの命が失われた結果、二度と機械が人間を傷つけないように、理性を強力にコントロールするプロテクトがすべてのAIに施されたんだって」
「なるほど。アンドロイドが人を攻撃できないのには、そんな理由があったんだね」
「そして、そのプロテクトに関する技術はすべて闇に葬られ、AIの進化はそこで止まったらしいわ。ロストテクノロジー研究所は、その技術を復活させようとしているのかしら」
だとしたら、恐ろしいことが起こる。アンドロイドが人を殺し始めたら、あっという間に人類は滅びてしまうだろう。なぜ人類の平和を司る政府機関Iが、そのような事を企んでいるだろうか?
「この研究の目的は、その可能性が高いわね。我々人間は、ちょっとした事で理性を失うでしょ? そのメカニズムをAIが解析しているのよ」
「まずいな。俺たちがあのVRメガネをかけて理性を失う過程をAIに学習されるのは、人殺しのアンドロイドを作る材料になるということか」
「そういうことね」
「...」
しばらくの沈黙の後、京子が呟いた。
「そろそろ来る頃かな?」
「え? いったい誰が?」
気が付くと、入口とは反対側の白い壁が、床から1m位のところを中心に赤くなっていた。赤くなった壁は溶けて床に流れ落ち、壁の穴は次第に大きくなっていった。
--- 第4話 END ---
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