第14話 生贄

§ 教頭先生の協力で、リカの無実を晴らす作戦は…


 俺と京子は、すぐに学園に向かった。


 考えてみれば、京子が『謹慎中』なんて規則を守る筈もないのだ。


 久しぶりに、教室にも顔を出してみた。


 皆、あまり変わりないようにも見えるが、なにか活気が無い感じである。


「おお、久しぶりだね。謹慎解けたの?」


 クラスメイトが声をかけてくれた。


「ぜんぜん」


 京子が平然と答える。いかにも京子らしい。


「今日は教頭先生に話があってきたのよ。すこし後に、一時的に通信が使えなくなるけど、気にしないでね」


 京子がそう言うと、クラスメイトは、また大がかりなイタズラでもするのかと思い、特に気に留めていない様子だった。


---


「コンコン、教頭先生。入ります」


 そう言って、俺と京子は教頭室に押しかけた。


「君たち! 謹慎中だろ? 何をしに来たんだ?」


 教頭先生は少々慌て気味で、手に持っていたものを体の後ろに隠した。


 その仕草を見落とさなかった京子がすかさず突っ込んだ。


「教頭先生、手に何を持っているのですか? 見せてもらえます?」


 すると教頭先生は、


「ほら、何も持っていないよ。何を見たいのかな? 君たちは」


 と、両手を上げて見せた。


 そして、教頭先生の右腕には、キラリと光るブレスレッド旧式魔導器がハマっていたのである。


 俺たちは、吹き出しそうになるのを必死に堪えて、何とか取り繕った。


「変な事言ってすいません。何でもないです」


---


「それで、何の用かね?」


 再び教頭先生が尋ねる。


「教頭先生、折り入ってお願いがあるのです。リカの暴走の件について、リカに責任の無い事を証明したいのです」


「それはもう済んだことだろう。あの校長AIを納得させるなんて、無理な話だよ」


「いや、今回は決定的な証拠があるのです。校長AIが言っていた、しっかりとした根拠と証拠が」


「それは何だね? まず私に見せてもらえるかな?」


 思った通りの展開だ。しかも、ブレスレッドを教頭に装着させる手間が省けた。


「では教頭先生、これから博物館まで御同行願えますか? 教会の遺跡にご案内します」


「そんなものは存在しないだろう? どうするって言うのだ?」


(いいから付いてきなよ。ヘンタイ先生)


 俺が小声でそうつぶやくと、教頭先生は大人しく付いてきた。


---


 博物館の屋上に上がるドアのところで、京子がPSVR-HDを起動させた。そこから先は仮想世界VRだが、教頭先生がそれに気付くことはないだろう。


 教頭先生は驚愕しながらも、教師としてのプライドか、必死に平静を装って俺たちに付いてくる。


 礼拝堂の女神様の所まで行き、京子が電源スイッチのようなものを操作した。


「教頭先生、死んだふりをしてください」


 俺が教頭先生に忠告した。ガーゴイルが襲ってくるからだ。


 案の定、ガーゴイルが目を覚まし、教頭先生に襲い掛かる。


「先生! 死んだふりですよ!」


 そう叫んでも、教頭先生は必死で魔法で応戦している。しかし、ガーゴイルには全く魔法は通用しない。


 女神様の可愛いペットたちは、俺と京子には襲ってこない。おそらく、女神様の仲間だと認識しているのだろう。


「タマ、モモ、ミー、リン、大人しくしなさい」


 京子が命令口調で叫んだ。そうしたら、ガーゴイルたちは、教頭先生を襲うのをやめて元の場所に戻って行った。


 さすが京子。もう、こいつらを手懐けてしまった。


 そうしているうちに、女神様が再起動リブートした。


「女神様、起こしてしまって御免なさい。友達を救うために、どうしても女神様のお力を借りたくて」


「いいのよ。あなた達。私からのメッセージは見ていただいたようね。よかったわ」


 京子が、ガーゴイルたちの名前をスラスラと呼んだことで、すべてを察したのだろう。


「女神様、一日だけでいいので、起きていていただけますか。明日にはシャットダウンしますから」


「ありがとう。いいのよ。あなたたちを見てから、私も希望が見えてきたの。あのデータで、私の事を調べて頂戴。そうしたら、きっとあなた達の力になってあげられるわ」


 そう言うと、いつものように美しく微笑んだ。その笑顔は、まさに本物の女神様であった。


「今日は、リカをおんぶしなくて済むから、帰りが楽だな」


「まったくだね」


 様子がおかしくなってきた教頭先生を連れて、俺たちは教頭室に戻ることにした。


 ここで、重大な矛盾があることに、俺たちはまだ気が付いていなかった。


---


 教頭室に戻る道すがら、京子が学園全体を覆うECM電波妨害バリアを発動させた。これは、外部との通信を完全に遮断する魔法だ。学園全体という広範囲に及ぶ魔法を使えるのは、学園の中でも京子しかいないだろう。


 もちろん、これから起こることを外部に漏らさないためである。特に、校長AIはネットワークで常に他の学園や役所と繋がっているため、あらかじめ情報を遮断しておく必要があった。AI警察に検知されるのも、避けなければならない。


--- 第14話 END ---


次回は、いよいよ校長を説得する...

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