第13話 作戦

§ リカの退学処分を撤回させるための作戦を練る二人だが…



 時間も遅くなったので、俺とリカはいったん家に帰ることにした。


 とは言っても、俺は10秒で帰れるのだが。


 さて、リカの退学を取り消してもらう方法を考えてみる。


「…」


 つまるところ、リカの異常行動が、ブレスレッドによって引き起こされたという事を証明すれば良いのか。ブレスレットの再起動ができれば、同じ状態を作り出せる。


 でも、リカや京子を発狂状態にするのは、ゼッタイにダメだ。俺自身もゴメンだし。誰か被験者イケニエがいるな。


 俺の頭に、直ぐに思い浮かんだのは、教頭先生だ。


 あのヘンタイクソオヤジなら、少々の事があっても心が痛まないし、校長を説得するには最適任者だな。


 校長の目の前で、教頭先生を発狂させれば、リカの事も理解してくれるだろう。少々気の毒な気もするが、生徒一人を救うためだ。一肌脱いでもらう事にしよう。


 あとは、あのブレスレッド旧式魔導器を、どうやって再起動するかだ。これは京子にPSVR-HDで教会の遺跡をロードするプロンプトを見つけてもらうしかないな。


 明日、また京子と頑張るとしよう。


 そんなことを考えながら、いつの間にか眠りについていた。色々な事があった一日だったので、疲れていたようだ。


---


 翌朝、朝食をとった後、すぐに京子の家に向かった。


「京子。おはよう!」


 返事が無い。まだ寝ているのかな?


 おばさんが構わないというので、京子の部屋に入っていった。


 そこには、真っ赤な目をしてブレスレッドをいじっている京子の姿があった。


「京子、もしかして、寝てないのか?」


「ちょっとまって。あと少しだから」


「…」


「できたー! やったよ。PSVR-HD 起動できた!」


「おお! よくやったね。すごいぞ京子!」


 リアクションが無い。よく見ると、京子はブレスレッドを握りしめたまま、スヤスヤと眠っていた。


 次の瞬間、京子の部屋が突然真っ暗になった。


 そして、1秒もたたないうちに、俺は教会の礼拝堂に居た。


 でも、あの教会の遺跡ではない。とても綺麗で、椅子とテーブルもある。ステンドグラスはキラキラと美しく輝き、外からは燦々さんさんと太陽の光が差し込んでいる。


 正装を纏った多くの人が、立ち上がって拍手をしている。そして、教会の入り口から、美しいウエディングドレスを着た京子が、父親に手を添えられて、ゆっくりと歩いてくる。


(これは、結婚式だ。京子がPSVR-HDにロードした結婚式のシーンなのか)


 俺は状況を理解した。


 それにしても、京子の姿が余りにも美しい。『この世の物とは思えない』という表現は、今までは悪い意味で京子に使っていたけれど、これは正反対だ。俺は、ポカンと口を開けたまま、呆然と立っていた。花婿の顔を確認もせずに…


「やめてよ!」


 京子が叫んだ。そして、脳天カカト落としが、真上から降ってきた。


「イタイ! やめろ!」


 目の前に星が見えた後、教会から京子の部屋に戻っていた。


 そこには、半ベソをかきながら真っ赤な顔をした京子が立っていた。


「PSVR-HDのテストをしていたのよ。深い意味はないからね!」


 京子が怒った口調で言う。いや、俺にだってそれくらいわかる。


 ウエディングドレスを着てみたいという、京子の願望も、もちろん理解できる。


「わかっているよ。なにも、怒ることはないだろう」


「怒ってなんかいないよ。たまたま教会のデータがあったから…」


 たまたま、京子のモデルデータがある筈がない。きっと、一晩かけて自分のデータをスキャンしていたのだろう。でも、そこは突っ込まない事にする。かかと落としでは済まされないだろうから。


「で、女神様の教会はロードできた?」


「もちろんよ。私を誰だと思っているの?」


 鼻高々である。さっきまで真っ赤な顔をしていた京子はどこへ行ってしまったのか。


「拠点のデータをロードすると、女神様のネットワークに接続するようになっているみたい」


「あの女神様は、ネットワークにアクセスするための端末の役割ね。本体は別の所にあるのでしょう」


 どうやら、材料は揃ったようだ。俺は、京子に昨夜考えた作戦を話した。


「それはいいアイデアね。でも、教頭先生、ちょっぴり可哀そうじゃない?」


「いいんだ。あいつはヘンタイクソオヤジだから」


「??? なによそれ?」


 京子には言葉の意味が判らないようだ。それでいい。



 あれ、何か忘れてないか?


「あぁ! 大事な物を忘れていた。ブレスレッド旧式魔導器は、博物館の所蔵品として学校に返却されてしまった。また盗むか?」


「大丈夫よ。リカが使っていた物があるわ。おそらく、リカが正気に戻った後に、外したと思う。リカに聞いてみよう」



「京子! お友達よー」


 おばさんの声がした。


「リカだ!」


 俺たちの声が揃った。噂をすればというか、グッドタイミングだ。


---


「おはよう。二人とも早いのね」


 リカは少し眠そうな顔だが、笑顔だった。リカの笑顔をみると、すこしほっとする。


「ねえ、リカ。リカが付けていたブレスレッド旧式魔導器、どうした? もう付けていないみたいだけど、外したの?」


「あのね、私が病院で気が付いた時、すでに腕にはなかったのよ。おそらく、教頭室で倒れた時に、外れたのだと思う」


「そうなんだ。まずいな。教頭先生が拾ったとしたら、なぜ提出しなかったのだろう?」


「何はともあれ、教頭先生に確かめるしかないね」


「でも、俺たちは謹慎中だぞ。どうする?」


「私は退学中でーす」


「リカ、その自虐ネタは笑えないよ」


「ごめんなさい」


 リカに元気が戻ってきた気がする。それとも、俺たちを安心させるために、わざとチャラけているのかも。そんな気丈なリカが、とても可愛く思えてならない。


--- 第13話 END ---


次回は、教頭先生を教会に…

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