第12話 隠された情報

§ 隠蔽された歴史から、リカ救済の鍵をみつようとするが…


 女神様から託された2つのブレスレッドには、AIによって隠蔽された歴史が記録されている。


 膨大なデータの中から、リカが怪しい情報を見つけてくれた。


「あの教会に関する情報で、表題サブジェクトだけ抜き出してみたよ」


T.C.256 人間の寿命に関する研究を法令で禁止

T.C.257 秘密裡に研究を続けている研究者の取り締まりを開始

T.C.384 最後の拠点を制圧。反体制組織の壊滅を確認。首謀者は逃走で行方不明

T.C.400 拠点はすべて撤去、跡地に公共施設を建設し、痕跡を消す

T.C.401 歴史データべースからバックアップも含めて本件の情報をすべて抹消


「今はテュル歴500年だから、250年ぐらい前にあの教会が建てられたのね」


「でも、テュル歴400年に拠点は撤去と書いてある。つまり、俺たちが見た教会の遺跡は、残っていない事になっているぞ」


「そうね。それに、歴史から抹消という大がかりな事を行った割には、私たちは簡単にあの場所に行けたよね」


「それなんだ。俺も違和感を感じていた。都合よく女神様がいて、俺たちにこんなもの歴史の秘密まで託してくれて」


「まるで、私たちは何者かに誘導されたみたいだね」


「…」


 話が飛躍しすぎて、頭がパニくってきた。


---


「リカ、他に何か、関係ありそうなデータある?」


「ええと、関係があるか判らないけど、鍵マークが付いていて、見れないデータがあるのよ。もしかしてパスコードが必要なのかなぁ?」


「パスコードかぁ。女神様は教えてくれなかったね」


「…」


 少しの間、沈黙が続いた。


「まてよ! あの可愛いペットたち!」


「可愛いペット? もしかしてガーゴイルの事?」


「そうだ。名前、なんだっけ?」


「たしか、タマと、ポチと…」


 俺たちが必死で思い出そうとしていると、リカがニコニコ顔で言った。


「タマ、モモ、ミー、リンちゃんだよ」


「よく覚えていたね!」


「可愛いペットの名前だもん。一度聞けば覚えるよ」


「… 可愛いか? その割には失神していたくせに」


「違うわ。あれは死んだふりをしていたのよ!」


「リカ、最近言い訳が京子に似てきたぞ。腰を抜かしたおまえをおぶって帰ったのは誰だ?」


「なにそれ! なんで私が引き合いに出てくるのよ!」


( バシ!)


 久しぶりに京子の空手チョップが飛んできた。


 リカは恥ずかしそうに、そして嬉しそうに下を向いて笑っていた。


---


 俺たちは、リカが見つけてくれたデータに、パスコードを入力した。


『TAMAMOMOMIERIN』


 すると、鍵マークが消えて、データを閲覧できるようになった。


「やったね! ナイス記憶力だよ。リカ!」



 そのデータには、活動拠点の場所やアクセス方法などが記載してあった。

活動拠点は、全世界に256か所あり、6万人以上の研究者や協力者が出入りしていたらしい。


 拠点壊滅後の、秘密の拠点へのアクセス方法も記載があった。


「俺たちが見たのは、これだ!」


 隠蔽された歴史には、拠点は壊滅とあるが、首謀者は逃亡ともある。つまり、歴史から抹消された後も、研究者グループは活動をしていた可能性は充分にある。


「ねえ、このPSVR-HDって何? ゲーム機みたいなもの?」


 リカが俺に尋ねる。


「京子、解説よろしく!」


 難しい問題は、すべて京子へスルーパスだ。


「PSVR-HDとは、”Physically Simulated Virtual Reality Hologram Deck”の略で、簡単に言うと、物理シミュレーションを伴った仮想現実世界を投影する装置のことです」


「京子!もうちょっとだけ、わかりやすくお願い!」


 と、俺とリカが口を揃えて言った。


「つまり、物理的な体験ができる仮想空間ということ。物に触ったり、壊したり、走ったりもできる。現実とほとんど区別がつかない世界を体験できる装置。遊園地にあるやつと一緒だよ」


「あれかぁ。映画の世界に入り込めるアトラクション。あれ、怖いよねー」


「つまり、俺たちが何度も足を運んだあの教会の遺跡は、仮想現実VRだったということ? 遊園地のアトラクションとは比較にならないほど緻密だったけど。まったく気が付かなかった」


「そういうこと。それなら、復活するガーゴイルも説明がつくし、女神様と簡単にコンタクトがとれたのも納得が行くわ」


 俺は、喉につかえていた物がスッと取れた気がした。何者かが博物館にPSVR-HDをセットして、そこに俺たちを誘導していたんだ。おそらく、女神様の意思を継いだ研究者の末裔か何かだろう。


「ねえ、画像が添付してあるわ。記念写真みたい」


 リカが一枚の画像を表示してくれた。そこには、30人ぐらいの研究グループと、あの女神様が映っていた。


「ねえ、この女神様の隣に立っているイケメンの男子、あなたにそっくりね!」


 リカが写真を指差して言った。写真をよく見ると、確かに似ている。そして、その隣にいる、白衣を着た女性は、京子にそっくりだ。


「京子に似た女性もいるよ。京子より美人だけどね」


「へへ、二人ともあなたや京子の御先祖様かもね」


 リカがケラケラと笑った。しかし、その時は見落としていたのだけれど、リカに似た女性もこの写真に映っていたのだ。それはだいぶ後になってから気が付くことになる。


「PSVR-HDは、起動できそうか?」


 京子に尋ねる。


「ちょっとまってね。もしかしたら、このブレスレッドを使ってできるかもしれない」


プロンプト呪文さえ見つけられれば…」


 再び、京子がブレスレットを調べ始めた。


--- 第12話 END ---


 次回、リカの退学を撤回させるべく、京子たちがある行動を起こす...

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