第10話 3つの秘魔法

 おばさん(京子の母)による戦闘の特訓は、以前とは比較にならないほど実践的だった。かえでにも常に参加してもらい、後方支援の魔法に磨きをかける。支援系の術者は特に狙われやすいので、防御魔法を重点的に叩き込まれていた。


 俺は、潜在意識にある過去の魔法を蘇らせながら、上位のオプティマイザーにも通用する攻撃魔法を訓練した。リカと京子はコンビネーションに磨きをかけ、連携攻撃と防御を徹底的に訓練している。もう、俺がいなくても二人で通常レベルのオプティマイザーなら倒せるだろう。


 それにしても、おばさんは強い。未だに、おばさんに勝てるイメージが全く持てない。間違いなく、人類最強の戦士だ。もし、おばさんがオプティマイザーだったらと、考えるだけで背筋が凍り付く。


 俺は、素朴な疑問をおばさんに投げかけた。


「おばさんは、オプティマイザ―にスカウトされなかったのですか?」


「もちろん誘われたわ。私がオプティマイザ―になるのを断ったから、教官になったの」


「なんで断ったのですか?」


「それはね、オプティマイザ―って序列がハッキリとしていて、1番強い者から9番目までの上位オプティマイザーは、番号に紐づいたカラーで呼ばれるのよ」


「ふむ。戦隊モノみたいですね」


「でね、トップのカラーは茶色、つまり私は1番だから『レディーブラウン』になるわけ」


「それのどこが問題だったのですか?」


「カッコ悪いじゃない。私はゴールドかピンクが良かったのよ。交渉したけど受け入れてもらえなくて、それでオプティマイザ―は辞退したの」


「そんな理由で!?」


「まぁ、反政府組織のスパイとしては、教官のほうが何かと都合がよかったという事もあるわね」


 そうか。オプティマイザ―になると反政府の人たち、つまり仲間と戦うハメになる。そうなったら正体がバレる恐れがあるから、教官が丁度良かったという事か。


 おばさんとそんな話をしていると、京子がやってきた。


「メッセージの返信来たよ」


 京子はまだ不安なようだ。でも、メッセージに反応があったことはデカい。内容はあくまでも「そんな人間が本当にいるなら調べるから連れてこい」というものだった。


 リカの母親については、本人の意思で政府に協力しているのだという。家族も承諾済みとあるが、それは真っ赤なウソだ。


 交渉の場に来れば面会させるとあるので、奪還のチャンスであることは間違いない。


 ただ、そう易々とは返してくれないだろう。俺の確保とリカの母親の奪還阻止を全力で狙って来るはずだ。おそらく、戦闘になることは免れない。


 現存するオプティマイザーは全部で9人(それ以外はおばさんが倒したらしい)、ただ、本当に脅威になるのはリーダークラスであるミスターブラウン、ミスターレッド、レディーオレンジの3人だそうだ。彼らはおばさんに匹敵する力を持っているらしい。(おばさん曰く、『でも私ほどでは無いわね』だが、信憑性は定かでない)


 こちらに有利な点としては、おばさん以外の戦力を知られていないこと、相手の戦力を把握していることだろう。そして、おばさんが敢えてオプティマイザーに教えなかった魔法。それをうまく利用できれば、有利になることは間違いない。どんな魔法か、おばさんに聞いてみた。


「おばさんがオプティマイザ―に教えなかった魔法は、どんな魔法なのですか?」


「それはね、次の3つの魔法よ」


・能力を誇大に見せる、ハッタリ魔法(逆に弱く見せるのも可能)


・痛みを感じなくなる、ゾンビ化魔法(不死身になるわけではない)

    

・幻影やVR映像が現実と区別がつかなくする、幻覚魔法


「…」


 京子はポカンと口を開けている。


「どれも決め手に欠けるというか、敵を欺く卑怯なものばかりですね」


「そうよ、私は武士道精神に則り、正々堂々と戦うことを信条として教えたの。だから卑怯な戦法は一切教えていないのよ」


 京子が目をパチクリさせながら問う。


「なんか、ドーンと一発で決められるような必殺技はないの?」


「ないわ」


「…」


「あとはそうね、何があっても私の命令には従うよう徹底的に叩き込んだわ。だから、私に逆らう奴は一人も居なかったし、今でも私の言う事は何でも聞いてくれるのよ」


 それは、おばさんが怖かっただけだろう。敵として対峙する状況で、おばさんの言う事を素直に聞くとは思えない。


「戦いはね、強いほうが勝つわけじゃないのよ」


「え? ではどうすれば勝てるのですか?」


「相手を倒したほうが勝ちなの」


「… おばさん、真面目に答えてください」


「あら、真面目な話よ。戦いはスポーツとは違うわ。卑怯だろうが姑息だろうが、プロセスは関係ないのよ。最後に立っていた方が勝ち。それには、敵を欺くという方法が最も有効なの。だから教えなかったのよ」


 確かにそうかもしれない。古代の兵法に学べという事か。



「政府が指定してきた人質交換は明後日よ。もうあまり時間が無いわ」


「それじゃ、作戦会議をやりましょう。リカさんやかえでさんも呼んできて頂戴」


 こうやって、俺の家で作戦会議が始まった。そして、それは翌朝まで続いたのであった。


---


 AI政府が指定してきたのは、第一研修所。森の中にあった第三研修所と違って、こちらは空の上、つまり空中にある。空中浮遊都市は世界にいくつかあるのだが、俺は初めて自分の目で雲の上の都市を見た。


 あちらの主張では、リカのお母さんは『自らの意思で』ここで研究をしているらしい。


 空の上ということもあり、別動隊がこっそり侵入するといった事はできない。まさに、360度死角無しの警備が布かれている。


 京子、リカ、かえでと俺の4人が、専用のシャトルで玄関前に降り立った。警備アンドロイドの丁重な案内により、建物の中に入る。すると、遥か遠くではあるが、リカの母親がこちらを見て笑顔で手を振っていた。


「あれはホログラムね」


 リカはすぐにトリックを見破るが、俺たちは暫くは騙されているふりをする。


 その近くには如何にも強そうな男性と女性が立っている。おそらくオプティマイザ―のトップ2人だろう。そして、彼らの横には、おばさん(京子の母)の姿があった。


--- 第10話 END ---

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