第17話 デート
§ 思い切ってリカとデートすることに。そうしたら...
リカが俺を好き? そういうこと? 俺と京子が結ばれるのが辛いというのは、そういうこと?
頭の中でグルグルといろいろな出来事がフラッシュバックしてくる。
リカが「いつまでも友達でいてね」と繰り返して言ってたのは、俺とリカの事じゃなくて、俺と京子がずっと友達で居てほしいという意味もあったのか。だから、繰り返したんだ。
京子にも同じこと言っていた。あれは、リカの素直な気持ちだったんだ。俺たちは、なんという思い違いをしていたのか。リカの気持ちを全く理解せず、一緒に過ごしていたんだ。
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改めてリカの事を考えてみる。「リカと付き合う」「リカと結婚?」類稀なる美貌に抜群のスタイル、誰にでも優しく思いやりのある性格は、申し分なし。こんな理想的な女性が他にいるだろうか?
リカに告白されて断る男性なんて、この学園に…いや、世界中探しても居ないだろう。断る理由がまったくない。それは、俺にとっても同じことだ。
心の整理をつけようとしたが、ますます頭の中がゴチャゴチャになってきた。もう、自分の気持ちすら、判らなくなっている。
俺は、思い切ってリカとデートしてみることにした。一日一緒にいれば、俺の心に何か変化があるかもしれない。
勇気を出して、リカを誘ってみた。
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「今日はありがとう。いったい、どういった風の吹き回し?」
と、幸せそうな笑顔で、俺に尋ねるリカ。
「ああ、深い意味は無いんだ。でも、リカの事をよく知りたいと思って。リカってほら、男子生徒の憧れの的だろ? そんな子とデートできるなんて、俺にとっても滅多に経験できない事なんだよ」
「こんな素敵なカフェで、ゆっくりお茶をするなんて。とても素敵だわ。いつでも誘ってね」
リカの心からの笑顔は、とても癒される。癒し効果というか、もはやこれは治癒魔法のレベルだ。
人々がざわつく雑踏の中にあるカフェで、午後の優しい日差しが俺たちを包み込んでいる。あえて人が多い場所を選んだのは、リカと二人きりになる勇気が無かったからだ。
でも、ふと京子のことが頭をよぎる。怒り顔で去っていったこと、「もう、付き合っちゃえば?」と突き放されたこと。京子の態度も、いつもとは少し違うものだった。
京子は天才的な才能と行動力の塊だが、リカとくらべると欠点だらけだ。夢中になると他の事はすべてお留守になるし、変な古代のプロレス技を容赦なく仕掛けてくる。でも、根はとてもやさしくて、思いやりのある良い子なんだ。あのウエディングドレス姿は、いまでも目に焼き付いて離れない。
「ちょっと、これ、見れる?」
リカが、小さなディスプレイを俺に見せた。女性が化粧の時に使うもので、自分の顔を映すためのものだが、めいっぱいズームして遠くが見えるようになっている。
「ん? この、おかしな恰好した怪しい男は誰だ?」
「よく見てよ。男じゃないわ」
更にズームしてみる。すると、大きなサングラスと帽子を被った年齢不詳の人物が、物陰からこちらを見ている。もう、怪しすぎてすごく目立っている。
「これ、誰だと思う?」
リカが尋ねた。おれには、すぐにこの人物の正体が判った。
「京子だね。いったい何をしているんだ。あのバカ」
リカは笑顔のまま。いや、先ほどよりも笑っているかな。
俺は、ひと芝居打つことにした。
「ううぅ。お腹が痛い! 死にそうだ!! 助けてくれ…」
急に腹痛で悶絶する俺。リカには目配せをして、これが芝居だということを伝える。
雑踏が静まり返り、俺は注目を浴びる。
「どうしたの? 大丈夫??」
俺たちの前に、変な服装の京子が立っていた。
京子は賢いけど、割と騙されやすい。
「ああ、もう大丈夫だ。なんでもない。ところで京子、ここで何をしていたんだ?」
「え? 何って、たまたま通りかかったらあんたとリカが見えたんで、話しかけようとしていた所だよ。そうしたら急にお腹を抱えて痛がるから、びっくりしちゃった」
「そう、たまたま…ね」
京子の「たまたま」は、これまで本当にたまたまだった試しがない。その単語が出てくる時点で、意図的だと自白しているようなものだ。
「デート中だったのね。お邪魔してごめんなさい。私は消えるから、続きをどうぞ」
そう言うと、リカが、
「京子も一緒にお茶しましょう。こんなに天気が良いんだし、私は3人でおしゃべりがしたいの」
「え、いいの?」
申し訳なさそうに椅子に腰掛ける京子。
「それにしても京子。なんなんだその恰好は?」
「え? これは今流行りのファッションよ。あんたには判らないの? 素敵でしょ!」
「… そんなファッションあるかよ。素敵というのは、リカのような服装だよ」
リカは、とてもお洒落で流行りの服を完璧に着こなしている。京子にはまったく太刀打ちできない。
「二人とも、とても仲がいいよね。私は、仲のいい二人をみているのが、とても幸せなの」
「え? 仲良くなんかないよ。ケンカばかりしているし」
「いいのよ。最初から判っていた事よ。私が二人の間に入り込む余地なんて、1ナノメートルもないわ」
「彼は私とデート中も、京子のことばかり考えていたのよ。京子だって…ね!」
リカは、ニコニコとほほ笑みながら話している。
「そんなことないよ。おれはリカの事をよく知りたくて…」
「もう判ったでしょ。私は今が幸せなの。二人が仲良しなことが、心から嬉しいのよ。気持ちの整理はとっくに付いているの。だから、二人に告白したのよ」
「...」
俺たちは、返す言葉が見つからなかった。
考え込んでいた京子が、急に明るい表情になって言った。
「じゃぁ、今度3人で遠くに遊びに行こう! いろんなことがあったし、なんか、パーっと遊びたい気分」
「うん、いこう! とても楽しみだわ。企画は京子にお願いしてもいい?」
「もちろんよ。楽しみにしていてね」
「じゃぁ、私はこれで帰るね。また明日、学園で」
そう言うと、リカは軽やかな足取りで俺たちの前から去っていった。まるで、こうなる事を予測していたかの様に。
--- 第17話 END ---
次回、いよいよ第一章が完結!
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