第16話 告白

§ リカが訪ねて来て語った内容は...


 この一週間、本当にいろいろな事があった。歴史の秘密もあるが、俺が最も気になっているのは、京子とリカの事だ。


 二人とも、本当に素晴らしい女性だ。物心ついた時から一緒にいる京子のことは、すべて判っているつもりだったが、改めて京子のやさしさを再認識させられた。それに、あのウエディングドレス姿の京子が目に焼き付いて離れない。京子は、いったい誰の花嫁を夢見ていたのだろうか。


 リカについても、以前は美人でクラスの人気者という程度の存在で、個人的な興味はあまり無かったのだけど、あのやさしさと友達への思いやり、美貌と性格の良さを兼ね備えた、まさに理想の女性ではないか。京子のように、変な技が炸裂することもない。


 そんな事を考えながらボーっとしていると、妹の声がした。


「お兄ちゃん、お友達がきてるわよ」


 誰だろう? 京子じゃないな。(妹は、京子の事を「お姉ちゃん」と呼んでいる)


 玄関まで行くと、そこに居たのはリカだった。


「ちょっと話したい事があって、良いかしら?」


 いつものリカと少し雰囲気が違う。悪い意味ではないのだが、普段のおチャラけた雰囲気がない。


「もちろんいいよ。家は狭いけど、どうぞ」


 リカを俺の部屋に案内した。先ほどまでリカの事を考えていたので、なんだか胸がドクドクと大きく脈を打っているのが判る。京子と妹以外の女性が俺の部屋に入るのは初めてなので、それが原因かもしれない。


 俺は、動揺している事をリカに悟られないよう、いつもどおり自然に振舞った。


「今日はいったい、どうしたんだい? 何か問題でも発生した?」


 俺が尋ねると、リカは


「問題というよりは、二人に謝ることがあって。京子の家にはお客さんが来ているようだったから、あなたの所へ来たの」


(あ、そうか。俺だけに会いに来たわけじゃないんだ。変な期待はしていなかったが、ちょっぴり残念な俺)


「後で、京子にも伝えてもらえれば良いわ。あなただけのほうが話しやすいし。お願い」


「ああ、俺は全く構わないよ。どんな話?」


 おれは、変な緊張から解放されて、すこしリラックスした気持ちでリカの話を聞くこととした。


---


「私はね、京子が話していた『恋の魔法』のことが凄く気になってしまって… もう居ても立ってもいられなかったの」


「ふーん」


「半分嘘だど思ったわ。京子の性格なら、私を誘う口実にしたのかもって。でも、もし本当に『恋の魔法』があるとしたら…と考えるとね。だから、二人に付いていくことにしたの」


「そうなんだ。そこまでして『恋の魔法』を使いたかったんだね。それで、その幸せな相手は誰なの?」


 おそらく、魔法をかけたい相手は、俺ではないと思ったので、思い切って聞いてみた。



「違うの。本当のことを言うわ。私が魔法を使いたかったんじゃないの」


「え? ではなぜ?」


「あなたと京子は、とてもお似合いのカップルよ。理想的な夫婦になると思う」


「え? 俺たちがそんな関係じゃないのは、リカもよく知っているだろ?」


「もちろん、知っているわ。でも、恋の魔法の力があればどうかしら?」


「???」


「あなたたちは、凄くお似合いなのよ。お互いに気持ちが通じているし、私から見てあなたたちを阻むものは何もないわ。だから、とても弱い魔法だったとしても、簡単に二人は結ばれてしまうと思うの」


「そーかなぁ。想像できない」


「でも、それならなぜ、リカが怖い思いをしてまで俺たちに付いてきて、『恋の魔法』について知りたかったんだ?」


 リカは、下を向いて少し考えている。呼吸を整えている様子だ。


「二人に、使って欲しくなかったのよ。少なくとも今は…」


「あの時は、まだ心の準備が出来ていなかったの。だから、せめて学校に通っている間は、夢を見ていたいと思ってしまったの。ごめんなさい」


「少し考えて、ようやくリカの気持ちが理解できた」


 つまり、俺と京子がカップルになることが、リカにとってはとても辛い現実なのだと。


「ごめんなさい、本当に、原因は私の身勝手なワガママなの。許してくれなくてもいいわ。でも、本当の事を二人に伝えたくて」


「わかった。そんなに深刻に考えなくていいよ。結局そのような魔法は無かったのだし、いままで通りだよ。今まで通り」


 俺は、自分に言い聞かせるように、今まで通りを強調した。リカとは、ずっと良い友達で居たかったし、京子との3人の友情は、かけがえのない事だから。


「ありがとう。私も、話せてスッキリしたわ。あとで、京子にも話しておいてくれると助かるの。同じことをもう一度話すのは勇気がいるから」


「ああ、かまわないよ。そのうち京子が来るかも知れないし。ちゃんと話しておくよ」


「じゃぁ。私は帰るね」


 下を向いて恥ずかしそうにしているリカは、何時にも増して可愛かった。


---


「あれ、お兄ちゃんの彼女?」


「ちがうよ。ただの友達だよ」


「フーン(疑いの目線)、お姉ちゃん(京子)にチクっちゃおうかなー」


「あの子は、京子の親友だよ。全くお前は好奇心の塊だな」


「なーんだ。お兄ちゃんもそろそろお姉ちゃんと結婚しなよ。私が先に結婚しちゃうかもよ!」


「なんで京子なんだよ… え、お前、恋人居るのか?」


「へへー。内緒」


 そういうと、妹は自分の部屋に戻っていった。


---


 しばらくすると、案の定、京子が訪ねてきた。来客中に俺が京子の家に行ったので、気になって理由を聞きに来たのだ。少しでも気になることがあると、じっとはしていられない。京子の性格はよくわかっている。


「どうしたの? さっきリカを見かけたんだけど、そそくさと帰っちゃった」


「ああ、リカの事で話があるんだ」


「フーン、リカの事ね」


(少しいやらしい目線で俺を見る京子)



 俺は、リカが話したことを、そのまま京子に伝えた。


 京子も少し驚いているようだ。


「そっか。自分が使いたかったわけではないんだ。それもそうね。リカは、男心を掴むのに、魔法なんて必要ないから。そっかぁ。で、あんたはどうするの?」


「いや、まだ気持ちの整理が付かないのだけど。まさか、リカが京子の事を好きだったなんて。ちょっとビックリというか…」


 京子の表情が変わった。もともと大きな瞳が、倍ぐらいの大きさになって俺を見ている。


「あんた、何言ってるの! バカ!!!」


 いつもの京子なら、プロレスの技が炸裂する展開なのに、なぜか今は俺の顔を見て呆れ果てているだけだった。


 しばらく間が空いてから、京子に言われた。


「私なわけないでしょ。リカの態度を見ていて、何で気が付かないの? 以前から、リカのあなたを見る目が、他の人と違う事には気が付いていたわ。まったく、ここまできたら、鈍感通り越して、ウスラトンカチのスットコドッコイね」


「…」


「え? えぇっ? いや、マジで? そんなわけ…」


 言われてみると、京子の言う通りだ。他の男共とは、俺に対する態度は明らかに違っていた。


「なにニヤニヤしているのよ。まんざらでもないって顔ね。相手がリカだったら当然ね。もう、付きあちゃったら?」


「いや、付き合うなんて想像もつかないよ」


「ふん。リカを傷つけたらタダじゃ済まないからね。じゃ、私は帰る」


 少し怒り気味の京子は、急ぎ足で家に帰って行った。


---


(お姉ちゃん、泣いてる…)


 妹のその声は、その時は俺には聞こえなかった。


--- 第16話 END ---


次回、リカをデートに誘う決断をするが...

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