第4話 教会の謎

§ 教会の謎に迫るため、京子の才能が爆発する


 翌日、教室で京子に話しかけた


「昨日は凄いものを見つけてしまったな。これは、人に話しても信じてもらえないかも」


「そうね、真相がわかるまで私たちだけの秘密にしておきましょう」


「チョークの文字を見つけた時は、リカがフリーズしてしまって大変だったわね」


「まったくだ。あれじゃ先に進みようがない」


 俺たちは、周りに聞かれないよう小声で話した。



 そこにリカがやってきた。


「昨日はごめんなさい」


 失神した後、俺にオンブされて博物館を脱出したことを詫びているようだ。


「謝る事はないよ。それにしても、お前、見かけより重いんだな。おぶって階段登るのキツかったぞ」


 何やら殺気を感じて振り返ると、京子のパンチ鉄拳制裁が飛んできた。


「レディーに失礼なこと言うんじゃないよ!」


 大きな声を出したせいで、周りのクラスメイトたちがざわついた。



「リカをおんぶしたんだって? なんてウラヤマシイ、じゃなくてイヤラシイ奴だ、このすけべ野郎!」


「全く、俺たちのリカちゃんに何をしたんだ。許せん!」


 クラス中の男子からの羨望と嫉妬の集中砲火を浴びてしまった。


 リカは、恥ずかしそうにしている。ちょっと言い過ぎたかな。



「いや、リカは手足が細くて綺麗だから、軽そうに見えたんだよ。ごめんな」


「いいのよ。私見かけよりデブだから。デブはだめだよね」


「そんな事はないよ、リカは今のままが素敵だよ。だから、ダイエットなんてする必要はないよ」


 リカは顔が赤くなっているのを隠すために下を向いているが、少し嬉しそうでもある。


 そんな他愛のない会話のかたわら、クラス中の男子の目から冷凍ビームが俺に向かって発射されている様子を、京子は笑いながら眺めていた。


---


「私、調べ物があるから先に帰るね」


 珍しく京子がそそくさと先に帰った。俺も、教室はハリノムシロだったので、早々に下校し、考え事をしながら街をブラブラしていた。


(リカも京子も、女性としてはとても魅力的だよな。でも、俺は誰かと付き合うとか、結婚とか今は考えられない)


「俺もあと2〜3年もしたら、相手を見つけて結婚するのかなぁ。どんな相手なんだろう?」


 とつぶやく。ふと京子の顔が浮かぶが、すぐに否定した。


(おれがあいつと夫婦なんて、考えられない。ムリ!)


 平均結婚年齢が20歳前後という今の時代、恋愛や結婚はさほど先送りにできないイベントなのである。


---


 翌日、京子が話しかけてきた。


「遺跡のこと調べたんだけど、おかしいんだ」


 どんなことも簡単に調べられる今の時代に、1人で先に家に帰って調べ物なんて、珍しいことだ。



「一体どこで調べてたんだ?」


「歴史研究所の内部データベース」


「それって、非公開で一般の人はアクセスできないデータベースじゃないか、一体どうやって?」


「てへっ。そんなことより、おかしいのよ。あの遺跡のことは、全く記載がなく、博物館に展示してあった1000年前の教会のこと以外、何も出てこないんだ」


 なにが「てへ」だよ。それって簡単なことじゃないし、そもそも犯罪行為じゃないか。



「あの遺跡って、数百年前までは使われていたっぽいよね。少なくとも1000年ではない」


「それで、300年分のバックアップも調べたんだけど、何も見つからなかった」


バックアップまで。。。


「でもね、バックアップに違和感があるんだ。きちんと差分だけ積み重なっていて、きれいに300年間分揃っている。300年もの間、何のトラブルもなくバックアップできてたのかなって。なんか、後からまとめて作ったバックアップに見えてきたんだ」


「ふーん、キチンとしているのが逆に怪しいと」


 俺がそう答えると、京子は頷きながら矢継ぎ早に話を続けた。



「それでね、家にあったおじいちゃんの形見の旧式魔導器を調べてみたんだ」


「なんでそんなものがあるんだよ!」


「ヒィおじいちゃんが使っていたんだって。再起動してみたんだけど、旧式のAIサーバーと繋がらないから起動しなかった」


「旧式の魔導器を起動するのは、違法行為だろ!」


「そんなことはどうでもいいのよ。ねぇ、この先が大事なの。聞いて!」



「起動はできなかったけど、ストレージにはアクセスできたの。それをデータ解析器(アナライザ)にかけて、当時のAIをスタンドアロンモードでエミュレーターから起動できたんだ」


 いったいこいつは何者なんだ。稀代のハッカーでもそんなことは簡単にできないぞ。



「でね、教会のこと調べてみたんだけど、あったのよ。確かに、100年前まではあの場所に教会が建っていた」


「え、でも今のデータベースには、1000年前に崩壊したって記録だよね。AIが嘘をついたということ?」


「そうなるね。神(AI)も嘘をつくのよ」


 なにか、恐ろしいことに首を突っ込んでしまったような気がした。あの教会は現代のパンドラの箱か?


 背筋が凍るような恐怖が押し寄せてきた。



「だからね、もう一回確かめに行こ!」


「お前なぁ。こんな事実が判って、怖くないのか?」


「ぜんぜん」


「俺たちは、開けてはならないドアを開けてしまったのかもしれないんだぞ!」


「ぜんぜん平気、ここまできたら、謎を解き明かさないと。それが私たちの使命だと思うの」


 京子の悪い癖が発動してしまった。こうなったら誰にも止められない。


「『たち』、じゃないだろう。なんで俺を巻き込む前提なんだ?」


「そんなの大前提だよ。だって、あなたは私の頼みを断らないでしょ?」


 確かに、これまで京子の頼みを断った事はない。なぜなら、断った後のことを考えると怖くて眠れなくなるからだ。でも、今回は違う。何かとてつもない闇がありそうで、本当に怖かった。



「俺だって断ることはあるんだぞ」


「じゃぁ、明日の夜ね。今度は色々準備していこう」


「おい、人の話聞けよ!」


 全くこいつには困ったもんだ。


 そう言いながら、結局京子の言うことを聞いてしまう俺が、我ながら情けない。

いや、京子を敵に回す恐怖からすれば、教会の闇の方がいくらかマシか。



「あのう、私も付いて行っていいでしょうか?」


 後ろからリカが話しかけてきた。あの怖がりのリカが??


「ぜんぜん構わないわよ。一人でも多い方が、何かあった時頼もしいからね」


 京子はすんなりOKしてしまう。


 そんな京子をみていると、俺も覚悟を決めざるを得なかった。


--- 第4話 END ---


次回、2度目の教会遺跡に挑む3人だが…

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