第3話 学園の都市伝説
§ 学園の秘密に迫る冒険の始まりです。
昼休み、クラスメイトが何やら楽し気に話をしている。
「ねぇ、学園の端にある遺跡のような建物知ってる?」
「ああ、なんでも教会という宗教施設だったところだろ? もう1000年以上使われていないと聞いているが」
「最近、夜になると教会の塔から不思議な光や人の声が聞こえてくるらしいよ」
「それって、都市伝説ってやつ? ウケルなぁ。どこの学校にもある話だね。」
「だよね。お約束過ぎて、笑っちゃうね。もっとマシな作り話をすればいいのに」
くだらない都市伝説の話である。もちろん、この類の話はどこの学校にもあるし、そもそも学園の端に遺跡のような古びた建物などない。あるのは近代的な博物館だ。
「探検に行こうよ!」
振り返ると、大きな瞳を好奇心いっぱいの少年の様に輝かせている京子が立っていた。
「俺はそこまで暇じゃないよ。だいたい、教会なんでどこにもないだろう?」
「だから、それを確かめに行こうよ。そうだ。リカも一緒に行かない?」
京子は隣にいたリカにも話しかける。リカも噂話は聞いていたようだが、反応が少し変だ。
「私、そういうのゼェッタイ信じないから。だから、絶対行かない! まったく馬鹿馬鹿しいわね」
リカの声が少し上ずっていて、目がマジだった。本当に怖がっているらしい。
リカの反応を見て、俺と京子の意思は固まった。
(ぜったいにリカを連れて探検に行くぞ。リカの反応を見ているだけで、死ぬほど楽しめそうだ)
俺と京子が目を合わせて頷いた。お互い物心ついた時からの長い付き合いである。ここは言葉に出さずとも気持ちは通じている。
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次の日、京子がリカに話かける。
「リカ、昨日の話だけど、あの後ちょっと調べてみたんだ」
「昨日の話って、教会の遺跡の話?」
「そうそう。実はね、あの教会の女神様には特別な力があって、恋の悩みを解決してくれる能力があるんだって」
「へー、そうなんだ」
リカは、少しだけ興味がありそうな返事をした。『恋の悩み』が琴線に触れたのだろうか。
「なんでも、好きな人の心を掴む魔法があるらしいよ。その魔法の秘密があの教会にあるらしいんだ」
リカは少し驚いた様子で、半信半疑だが昨日のように拒絶はしていない。よほど恋の話に惹かれたのだろう。
もちろん、この話はリカを誘うための作り話で、京子のでっち上げである。
俺は、京子に悪魔の片鱗を見た気がした。でも、ここは俺も口を合わせておく。
「あーそれ、聞いたことある。恋の魔法って本当にあるのかな? 俺も確かめてみたいな」
「ねぇ、リカ。3人で行けば平気だよ。もう決まりだね」
京子はいつもの強引なペースで話を進めて、リカもなし崩し的に探検に行くことに同意してくれた。
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運が良いことに、博物館の掃除当番が京子に巡ってきた。京子は博物館の掃除をする傍ら、セキュリティシステムに細工をして、俺たち3人が24時間自由に出入りできるように設定をしてくれた。
学年トップの成績を一度も譲ったことのない京子の能力には、本当に驚くばかりである。敵に回したらこんなに恐ろしい女はいないだろう。
夜になって、3人で博物館に向かう。一通り巡回した後に、京子がとても怖い話を始めて、リカを怖がらせるというのが俺たちの作戦だった。怪しい光と不気味な笑い声を発する仕掛けも、事前に仕込んである。
博物館には、1000年前にこの場所にあった施設の発掘品が展示してあるだけで、至って退屈なところだった。こんなガラクタのために立派な博物館を建てるとは、学園を運営するAIの判断は何ともお粗末である。
地図を見ながら巡回していくうちに、博物館の中央に到達できない空間があることに気が付いた。ドアもなく壁に囲まれた、まるで吹き抜けのような構造になっている。
京子にそのことを話すと、
「それはミステリーだね。吹き抜けということは、真上から見下ろせば何かわかるかも知れないね」
と言って、博物館の屋根に通じる道を探し始めた。リカを驚かす作戦はほったらかしである。
「あったあった。ここから屋根に行けるよ」
そのドアには、明らかに他のドアよりも厳重なセキュリティが掛けられていたが、京子は難なく解除してしまう。
博物館の屋根に上ってみると、確かに吹き抜けだった。しかも、吹き抜けには階段があり、下に降りられるようになっていた。
「やったね。降りれるみたいだよ。行ってみよう」
京子は興味津々だが、リカは恐怖で今にも泣きだしそうな顔をしている。
「本当に女神様の魔法あるの? もう引き返したほうがいいんじゃない?」
リカの言葉に耳を傾ける京子ではない。京子に続いて俺も階段を降り始めると、リカも仕方なく俺たちの後を付いてきた。
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階段は、博物館の地下まで続いていた。そして、俺たちの視界には、地下に広がる広大な空間が入ってきた。
地下空間の下まで降りた時、俺たちは戦慄した。そこに見えたものは、まさに古びた教会の遺跡だった。
(都市伝説は本当だった)
心の中でそう叫んだ。恐怖の余り、声に出すことすらできなかった。
俺たちは、ゆっくりと教会の入り口と思われる場所まで歩いていく。
そこには石の階段と壊れたドアがあった。そして、さらに驚くべき物を目にする。
入口の石の階段に、チョークのようなもので書かれた白い文字があった。
「ヒキカエセ シヌゾ」
これを書いた人物を想像するのに時間はかからなかった。チョークを持ち歩いている人間なんて、この学園に一人しかいない。あの、性格が急変して逮捕された、女教師だ。
「あの先生、こんなところまで来ていたんだ。なぜこんな事書いたのかな?」
さすがに京子も恐怖で顔が引き攣っている。サスペンス映画だったら、ここは警告を無視して進むのだろうが、俺たちは引き返すことにした。教会の遺跡を発見しただけで、頭の中がパニックになっていたからだ。
--- 第3話 END ---
次回、教会の謎を京子が解き明かす
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