第2話 勝負

 恐ろしい事件が起こったにも関わらず、学園は平穏そのものだ。なぜか、先日の女教師の暴挙はニュースとして流れていない。殺人未遂事件など滅多にない大ニュースなのだが、学園のイメージダウンを危惧した校長がもみ消したのだろうか。


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 体育祭が近いこともあって、クラス代表の各種スポーツ競技の代表を決める選考が体育の時間に行われている。テニス、バスケ、サッカー、フェンシングの4種目だ。


 実は、俺はスポーツに関しては自信がある。どんな種目でも、負けた記憶がない。単純な身体能力は、俺が京子に勝てる数少ない技能だ。(数少ないというか、他には無いのだが)


 競技はどれか一つ選ばなくてはならないので、テニスを選んだ。京子もスポーツ万能で、テニスが得意だ。小さいころからよく遊んだ。もちろん、一度も負けたことはない。


 クラス全員でトーナメント形式で試合を行い、優勝者がクラス代表というわけだ。俺と京子は勝手にシード扱いされ、決勝で当たることになる。もう、俺たちが決勝で戦うことが判っているなら、最初から決勝だけやればいいのに。まぁ、授業は教育の一環だから仕方ないか。


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 退屈な試合を終え、いよいよ京子と決勝を戦う事になった。今日の京子は少し雰囲気が違う。


「今度こそ、絶対に負けないからね。覚悟しなさい。私には、秘密兵器があるのよ」


 何やら不敵な微笑みを浮かべている。


「でも、テニスの勝負は、俺の2048勝0敗だが...」


「いままでのは練習だったのよ。今日は初めて本気で戦ってあげるわ!」


 この根拠のない自信はどこから来るのだろう?


「負けても泣くんじゃないぞ」


 京子は俺に負けると必ず大泣きをする。後が大変なのだ...


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 試合は、思いのほかいい勝負になり、接戦の末マッチポイントを迎えた。京子はあと1ポイントで勝ちが決まる。


 もちろん、俺は手加減をしている。後が大変だから、いつもギリギリのところで勝つようにしている。最後は俺がポイントを取って、ゲームオーバーという筋書きだ。(それでも泣かれるが)


 しかし、ここで異変が起こった。京子がサーブを打った直後に、学園の端にある博物館のあたりに、大きな閃光が走った。ちょうどボールと閃光が重なってしまい、俺はボールを見失ってしまった。


 京子のサーブは、時速180Km/hほどだ。つまり、コートの端から端まで0.5秒もかからない。


 俺が閃光に目を奪われている間に、京子の打ったボールは俺の眼前、10cm位の所まで飛んできていた。


(危ない!)


 と思ったその時、時速180Km/hで飛んできたボールが停止した。いや、正確には非常にゆっくりと動いている。まるで、時間が止まったように、周りの景色やざわめきも超スローモーションだ。


(え? これって、死ぬ間際に見える走馬灯ってやつか? 俺は死ぬのか?)


※ 死ぬ間際に見るのは、過去の景色が走馬灯のように駆け巡るという意味で、走馬灯は見えません。


 そう思いつつ、なんとか体を動かして、ボールを打ち返すことができた。


 俺の打ち返したボールは、ヘロヘロと弧を描いて、京子のコートにポトンと落ちた。


 京子は呆然としている。


「いま、どうやったの? わたし、てっきりボールが顔面を直撃したかと思って、びっくりしちゃった。大丈夫?」


 勝負の結果より、俺の事を心配してくれる京子。


「何かが京子の後ろのほうで光ったので、それでボールを見失ってしまったんだ。でも、間一髪なんとか打ち返せたよ」


「そうなんだ。たしかに、後ろのほうで何か光った気がするわ。何だったんだろうね?」


 試合は俺が勝ったが、今回は京子は泣き出さなかった。テニスの勝負の事はすっかり頭から離れて、俺に起こったことを心配している様子だった。


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 京子との帰り道、今日の出来事の話をした。


「ねぇ、あの体制から、何をどうやったらボールを打ち返せるの? どう見ても顔面直撃コースだったよ?」


「それがね、あの瞬間、時間の流れがほとんど止まったんだ。100分の1位に。なのに、なぜか体は動いたので、打ち返せた」


「なにそれ、あんた、サイボーグなの? そんなことできるわけないでしょう」


「俺もそう思う。一体何が起きたのか。俺は、ボールが顔面にぶつかりそうになって、死ぬかと思ったよ」


(当事者の俺でも不思議な出来事だったから、回りで見ていた人からすると、凄く奇妙だったろうな。

俺がサイボーグのように100倍の速度で動く? いくら俺がスポーツ万能といっても、それはないな)


「まぁ、結果として何もなくてよかったね。私もあんたに怪我させるところだったし」


 不思議そうな京子だったが、結果的に何も起こらなかったので、ほっとしているようだ。生まれて初めて勝てる試合を落としてしまったのに、少しも悔しそうにしていない。



 俺は、原因となった閃光の事を思い出した。


「あの閃光、何だったのだろう? ちょうど学園の隅にある博物館のあたりだよね」


「そうだね。あの、超ツマラナイ博物館。掃除当番で時々行くけど、いったいなんであんな建物作ったんだろうね?」


「きっと歴史的に意味があるんだよ。俺たちには関係ないけど」


「それより、これで俺の2049勝だな」


「今日の試合は無効だよ! びっくりして打ち返せなかったんだから」


「それでも勝ちは勝ちだ。まぁ、スポーツで京子に負けることは、永遠にないだろけどね」


「覚えてらっしゃい! 魔法だったら負けないんだから」


 京子は負けて悔しというよりは、なにか楽し気にしていた。負けず嫌いだった京子も、少し大人になったのかもしれない。


 俺は、そんな京子の横顔を眺めていた。


--- 第2話 END ---


次回から、学園の都市伝説シリーズが始まります。どこの学校にもある都市伝説。この学園には、どのような伝説があるのでしょうか。

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