第6話 新兵器

 洞窟の近くまで戻って来ると、俺たちを追って出てきた施設のスタッフに遭遇した。オプティマイザ―との戦闘で森が騒々しくなったため、気づかれたのだろう。


 施設のリーダーが大きな声で言った。


「いろいろやってくれるじゃないか。おとなしく従っていればいいものを」


 俺も言い返す。


「オプティマイザ―はもういない。お前らこそ、おとなしく施設の生徒たちを開放しろ!」


「ふっふっふ。オプティマイザ―を倒したからって調子に乗るんじゃない。こちらには秘密兵器があるのだ。いまこそアレを試す時だ。おい、新型アンドロイドを持ってこい!」


 施設のスタッフが、奥から試作品と思われる新型アンドロイドを運んできた。


「こいつはな。オプティマイザ―なんか目じゃない。お前らなんて瞬殺だ」


 ドヤ顔でそう言うと、新型アンドロイドの起動スイッチを入れた。


「あそこの反逆者共を始末しろ!」


「カシコマリマシタ」


 アンドロイドに人間の攻撃を命令した! もしや、人間を攻撃できなくするプロテクトの解除に成功したというのか!?


 俺たちは戦慄した。しかし、すでにAIのプロテクトを解除する技術があるのならば、なぜ俺たちを使って実験をしようとしていたのだろう? 何かがおかしい。


「ご主人様、『あそこの反逆者』とは、私の正面3mの位置にいる、推定16~17歳の男性1人と女性3人の事でよろしいでしょうか?」


 こんな質問を主人に返している。このアンドロイド、空気が読めず、知能が低いようだ。


「ええい! グダグダ言ってないで、早くあいつらを攻撃しろ!」


 リーダーはイライラしている。そこで、京子が機転を利かせてアンドロイドに話りかけた。


「人殺しは重罪よ。貴方が人を殺すと、命令した貴方の主人が罰せられるわ。それでも良いの?」


 新型アンドロイドの動きが止まった。


「それは良くありません。攻撃を中断します。ご主人様、法令の範囲内でゴメイレイをお願いします」


「... ああ、やはりダメか。だれかこいつの電源を落としてくれ...」


 リーダーは頭を抱えながら言った。どうやら、この新型アンドロイドは失敗作のようだ。


「これはな、古代のAI技術の資料を基にゼロから作った新しいAIなのだよ。もう少し研究が必要な様だ」


(もう少しじゃなかろう。全く使い物になってないじゃないか)


「おい、こいつらを絶対に施設に近づけるな」


 警備のアンドロイドにそう命令して、リーダーは施設のほうに戻って行った。


 洞窟の穴に、強力な防御バリアが張り巡らされた。警備アンドロイドは人を攻撃することはできないが、防御することはできる。アンドロイドの動力源は核反応エネルギーのため、人間のように体力が尽きることはない。そのため、人間がアンドロイドの防御を破るのは容易ではないのだ。


「いいものがあるわ」


 そういうと、京子がなにやら装置を取り出した。


「これはね、強力なEMP電磁パルス装置なの。つまり、これを使うと電子機器を狂わせることができるのよ」


「ちょっとまって」


 リカが、かえでを抱えて後方に避難した。


「人間には影響ないから大丈夫よ。ただ、旧式魔導器ブレスレットに当てると故障するかもしれないから気を付けてね」


 そう言うと、警備のアンドロイドに向かって装置を作動させた。すると、アンドロイドたちが次々と停止し、固まっている。その隙に、俺がプラズマブラスターで防御バリアを粉砕した。


「いま、やつらはウオッチドック異常監視装置タイマーが働いて再起動しているところよ。この隙にスタッフを捕らえましょう」


 施設に入ると俺たちは二手に分かれた。かえでがインターン学生の開放を行い、俺と京子は施設のリーダーとスタッフを追う。リカは洞窟の穴を塞いでから俺たちと合流する。警備アンドロイドが施設へ戻ってくるのを防ぐためだ。


 施設の連中はすぐに見つかり、京子の拘束魔法であっけなく捕らえることができた。奴らはAI政府に助けを求めようとしていたようだが、あらかじめ京子の母親がECM妨害電波で通信を遮断しているから外部との連絡は取れない。


 拘束された施設のリーダーが、悔しそうに叫んでいる。


「お前たち、反AI政府グループの連中だな。いまに見てろ。政府組織が大々的に粛清をかけるからな。お前らも根絶やしにしてやる」


 大規模な粛清を実行されたら相応の被害が出そうだ。なんとか組織の計画を事前に知ることはできないだろうか。


「職員専用のアクセスコードがわかれば、機密事項にアクセスできるかもしれない」


 京子が辺りを見回しながら言った。ここは、施設の中央制御室のようで、政府組織のAIにアクセスできる端末もあるようだ。


「ふん、無駄だね。アクセスは腕に埋め込まれている魔導器ティアデバイスと連動しているんだ。生体認証もあるし、コードを聞いたところでアクセスは無理だな。」


「そう、じゃあ腕を切り落とすしかないわね。覚悟なさい」


 京子が怖い顔で睨め付ける。


「だから、そんな事しても無駄だと言っているんだ。俺の声じゃないとアクセスできないぞ」


 そこへ、リカがやってきた。


「ちょっと腕を貸して。切り落とさないから安心してね。だれか、こいつの口を塞いでおいて」


 俺が奴の口を塞ぐと、リカが彼の腕を手に取り、咳払いをしてから魔導器ティアデバイスに向かって話しかけた。


「アクセス権限の委譲を要求します。IDはXXXXXX、パスコードはYYYYYY。委譲先はこちら」


 驚いたことに、リカの発した声はその男にそっくりだった。そして、自分の腕を差し出して、アクセス権限の委譲を行ってしまった。


 リカの意外な特技に唖然とする俺と京子。


「リカ、物マネが凄く上手ね。AIを騙すとは、恐れ入ったわ」


「へへ、すごいでしょ。声色は私の特技なの。ほとんどの人の声を真似られるわよ」


「でも、なんでアクセスコードがわかったの?」


「それはね、これよ」


 そう言うと、リカは男の腕を捲って見せた。そこには、ペンでアクセスコードとパスコードが書かれている。


「さっき、チラッと見えたので、きっとアクセスコードとパスコードに違いないと思ったの」


 なんというお粗末なセキュリティ管理だ。パスワードを腕に書いておくなんて…


「リカ、そのアクセスコード私にも頂戴」


 リカがアクセス権限を付与すると、京子は施設のAIに侵入し、ウイルスをばら撒いた。


「私のウイルスはちょっと強力よ。暫くの間、ここのAIは使い物にならないわね」


 AIが暴走したことで、施設のすべての施錠がアンロックされた。不測の事態に備えて、人が閉じ込められないためのフェイルセーフだ。


「こいつらどうする?」


「そうね、私たちの事が知れてしまったから、牢にぶちこんでおきましょう。お母さんに頼んでスタッフを呼んでもらうわ」


 俺たちは、解放されたインターン生と共に、施設の入り口から堂々と歩いて脱出した。京子が仕込んだウイルスにより、施設のAIとアンドロイドの記録は丸一日分巻き戻されたので、俺たちが侵入した痕跡は残されていない。


 帰り道、達成感と安堵感で足取りも軽かった。日が昇り始め、自然豊かな深い森はとても美しい。


 そんな中で、リカが話しかけてきた。


「ねえ、こんどみんなでピクニックに行きましょうよ。またお弁当持って、森の中を散策したいわ」


「いいね。でも、お弁当の量は事前に申し合わせようね。先日はお腹が爆発しそうだったから」


「無理して食べなくて良かったのに。でも、全部食べてくれて嬉しかったわ。また頑張って作るね♡」


 リカはクスクスと笑っている。とても笑顔がかわいい。


「今度はかえでも誘って4人で行こう」


「うん」


 こうして話していると、普通の女の子だ。もっとも、普通じゃないのは俺だけで、この娘たちは生身の人間だから当たり前のことか。俺は、この当たり前がずっと続いてくれることを願っている。


 そんなことを考えながら俺たちは森を後にした。


--- 第6話 END ---

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