第7話 神AIの目的
施設が襲撃されたことで、AI政府の監視は厳しいものとなった。幸いなことに、首謀者が誰なのかは知られていない。俺たちと対峙した施設のスタッフは全て地下牢にぶち込んだうえ、AIは京子の仕込んだウイルスにより初期化され、過去一週間の記録が失われているからだ。
公式には、施設は内部の事故で一時閉鎖というアナウンスがあった。インターンも終了し、全員帰宅したとある。
翌日、リカと
「アンドロイドAIのプロテクトを外す研究とは、
「そうなんですね。アンドロイドって、恋愛感情以外はとても人間に近いですよね。空気も読めるし冗談も言う。ワザとロボットぽく振舞っている校長先生も、言葉の端々に人間味を感じることがありました」
「そうなのよ。プロテクトを外したアンドロイドは、おそらく人間と見分けが付かないと思うわ。だからこそ、理性を失うと恐ろしいのよ。アンドロイドのパワーは人間の比ではないし、人と違って永遠の命があるからね」
「300年ほど昔は、アンドロイドが人間を攻撃することができて、それで戦争になり多くの命が失われたと京子さんから聞きました。アンドロイドが人間を攻撃できるようになると、また戦争が起こるのでしょうか?」
「そうね。その件について詳しく話したほうが良さそうね。長くなるけどよく聞いてね」
おばさんは、過去に起こった戦争の経緯について、詳しく語ってくれた。
今から遡ること300年以上昔、人類の科学力は頂点に達し、完璧なAIとアンドロイドを作ることが可能となった。AIは人智を遥かに超え、まさに神のごとく完全な存在となった。
アンドロイドは、自らが多様性を持てるように、二つの個体を結合して新たなアンドロイドを生み出す事ができた。つまり、生物が遺伝子情報を結合させて新たな生命を生み出すのと同様に、アンドロイドも自身の能力だけで子孫を増やせるようになったのだ。
さらに、人間の遺伝子情報をデータ化して取り込むことにより、人間と全く同じ人格を持つアンドロイドも誕生した。いわば、人間のクローンがアンドロイドと化したのだ。事実、自分の子孫を人ではなくアンドロイドとして残そうとする人間も現れた。
もはや、アンドロイドは生物と言っても差し障りがない。人類が、新種の生物を生み出したと言えるだろう。
アンドロイドが人間と同等の立場になった時、世界は2つの思想に分かれていく。アンドロイドに制限を課し、人類の存在価値を守ろうとする考えの人々と、人類とアンドロイドという異なった種族が共存共存していく世界を作ろうと考える人々だ。
その相反する2つの考えの人々により、戦争が勃発して多くの命が失われた。そして、人間の価値を守ろうと考える一派が優勢になったところで戦争は終結した。
戦争終結時に決められた約束は以下の通りだ。
(1)人を傷つける恐れのある旧式アンドロイドの全破壊と、その製造技術を封印すること
(2)今後製造されるアンドロイドには以下の3つのプロテクト(制限)を課すこと
・人を傷つける行為の禁止
・恋愛感情を抱くことを禁止
・自らの意思で複製(子孫)を作ることの禁止
そして、二度と戦争が起こらないように、人間社会の統制をAIに委ねた。人間による統治は戦争を防ぐことができないという歴史から学んだためだ。皮肉なことに、人類の存在価値を第一に考えた人々は、それを守るために、AIに頼るしか手段が無かったのだ。
以上が、おばさん(京子の母)から聞いた真実の歴史だ。
俺は、おばさんに素朴な疑問を投げかけた。
「今のAI政府はアンドロイドに制限を課した側ですよね。なぜ今になってアンドロイドのプロテクトを外そうとしているのでしょうか?」
「わからないわ。でも、いまのAI政府による人類のコントロールが予定通りに出来てないことは確かね。綻びが目立ち始めているし、隠ぺい体質が人々の反感を買っている。寿命の制限にしてもそうだわ。事実を知った人間はかなり反発しているもの」
「たしかに…」
「政府に反発する勢力を抑えるためにオプティマイザー達がいるのだけれど、彼らも所詮は人間でしょ? AI自らがアンドロイドを使って人類を武力で支配しようと考えているのではないかしら?」
平和を維持するのが最終目的の筈の神AIが、戦争も
京子たちも真剣な眼差しで頷いている。
「ところで、おばさんや女神様の立場は今のAI政府と対立しているけど、アンドロイドとの共存派だったのですか?」
「そうよ。女神様がアンドロイドとの共存派のリーダーなの。女神様自身もアンドロイドなのよ。本来は、戦争終結時に破壊される事になったのだけど、私たちの祖先がそれを阻止して、これまで逃げ延びてきたの」
「つまり、女神様は人を傷つけることも、恋愛感情もある人間と変わりないアンドロイドなのですね?」
「そういうことよ」
京子もおばさんに聞きたいことがあるようだ。
「ところで、私たちが倒したオプティマイザーの事で、気になる点があるのだけど」
「何?」
「お母さんのこと、『玲子さん』って呼んでたよね」
「ええ」
「敵なのに『さん』はおかしくない? それに、名前を知っているし、まるで旧知の仲のように思えたの」
俺もそう思った。おばさんが機密事項のオプティマイザーの名前を知っていたのも不思議だし。そんな俺たちの疑問に、おばさんはすぐに答えてくれた。
「あら、鋭いわね。そうよ、あの人たちのことはよく知っているわ」
おばさんは、自分の過去について打ち明けてくれた。
--- 第7話 END ---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます