第6話 謝罪
§ 2度の教会遺跡探索で、すっかり忘れていた事は?
一夜明け、教室で1人考えていた。
教会の入り口の階段にチョークで書かれた警告は、ガーゴイルのことだったのか。確かに死ぬかも知れないと思った。
あの女教師も、ガーゴイルと対峙したのだろうか? だとしたら、
京子やリカの性格が悪くなったら嫌だな。
そんなことを考えていると、困惑顔の京子がやってきた。
「この持ち帰った旧式魔導器、どうしようか? やっぱ、教頭先生に報告したほうがいいかな?」
教頭先生とは、この学校ではトップの人間だ。校長と理事長はAIであり、全権はAIが握っている。
そのため、人として相談できる最高責任者は教頭先生になる。
「いや、忍び込んだ事もそうだし、旧式の魔導器を盗んだなんて、それこそ校長に知れたら俺たち退学だぞ」
「そうね。盗んだと言われても反論できないわね。どうしようか」
珍しく、京子も困り顔だ。
そこに、クラスメイトの一人から声をかけられた。
「お前たち、教頭先生が呼んでいるぞ。今すぐ来いって」
「!!!」
やばい。もうバレたのか?
俺と京子は急いで教頭先生の部屋へ向かった。
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教頭室は、広くて立派な机が置いてある。教頭より上の人間がいないので、この学校で最高に贅沢な部屋と言って良いだろう。
ドアをノックし、教頭室に入った時、机の上に置いてあるものに目が留まった。
「君たち、これが何か判るな?」
教頭先生が言った。それは、音と光がでる箱で、京子がリカを驚かすために博物館に仕掛けておいたものだ。遺跡の発見で気が動転して、博物館から回収するのをすっかり忘れていた。
「し、知りません。初めて見る物です」
京子が白々しく言う。もちろん、京子のことだから、装置をしらべても足が付くようなことはない筈だ。
「お前らがどれだけ優秀でも、隠し事はできないんだよ。なぜなら、この装置を見た瞬間、お前らの顔には、『マ・ズ・イ』とはっきり書いてあったからな」
思わず、俺たちはお互いの顔を見合ってしまった。その仕草こそ、自分たちが犯人だと自白しているようなものだ。
「教頭先生、嘘をついてすいませんでした」
京子が観念して謝罪した。
「この装置を調べたところ、だいたいの使い道は判った。誰かを驚かすつもりだったのだろう。都市伝説の噂は耳にしたことがあるからな」
教頭先生はすべてお見通しである。
「こういったイタズラは、騙すほうは面白半分だが、騙されるほうは思いのほか傷つくものだ」
「これで騙した相手に、いますぐ謝罪しなさい。心から謝って、許してもらう事だ」
この装置を使うことは無かったのだが、遺跡探索の事は隠しておきたかったので、俺たちは黙って教頭先生の言う事を聞いていた。
「教頭先生のおっしゃる通りです。俺たちが騙した相手に、直ぐに謝罪します」
「学校の施設に勝手に忍び込んで、申し訳ございませんでした」
京子が深々と頭を下げて、教頭先生に謝罪した。
「では、向こう3か月間、お前らは博物館の掃除係をやれ。もう、誰かを脅かしたりするんじゃないぞ」
そう言われ、俺たちは教頭室を後にした。
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「軽い罰で済んで良かったね」
京子はほっとした表情で言う。
でも、俺たちは重大な事に気が付いた。それは、リカを騙して連れて行ったことだ。
装置は使わなかったが、結果的にリカに嘘をついて連れて行ったのだから。そして、その嘘について、未だに本当の事を話していなかった。
「そうか、二度目の探検の時、リカが付いて行くと言ったのは、恋の魔法のことをまだ信じていたんだ。だから、恐怖を押し切って俺たちに付いて来たのか」
「マズイわね。これは、本当に心から謝らないといけないね」
京子も事の重大さに気が付き、真剣な面持ちになった。
「それに、
俺たちは、急いでリカの所へ行った。
ところが、リカの姿が見当たらない。そういえば、今日は朝からリカの姿を見ていない事に俺たちは気が付いた。
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午後の授業が終わっても、リカは姿を見せなかった。
俺たちの頭の中には、最悪の事態が思い浮かんだ。
(教会の遺跡に、1人で行ってしまったのかも)
女神様が
あそこには強力なガーゴイルがいた。他にも罠があるかもしれない。リカの命が危ない!
俺たちは、急いで博物館に向かった。幸いなことに、掃除係を任命された俺たちは、いつでも自由に博物館に出入りすることができた。
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博物館の前まで行くと、中からリカがこちらに向かって歩いてきた。
俺たちは胸をなでおろした。
(リカは無事だ。よかった)
京子がリカに駆け寄って言った
「リカ、ごめん。恋の魔法の話、あれは全部嘘なんだ。騙して本当にごめん」
真剣な面持ちでリカに謝罪する京子だったが、リカの返答は意外なものだった。
「あら、もう嘘はつかなくていいのよ。私、女神様の魔法を手に入れたから。これで恋も自由自在ね。連れて行ってくれて、ありがとう。京子」
リカは涼しい顔で言い放った。なんか、リカの雰囲気が変わったように思えた。
「ちょっと待ってよ」
留めようとする京子を振り切って、リカはスタスタと教室のほうに行ってしまった。
リカが無事なのは良かったけど、「もう嘘はつかなくていいのよ」というのはどういう意味だろう?
まさか、俺たちが嘘をついていた事がバレていたのか。それとも、今、京子が嘘だったと言った事を、嘘だと思ったのか。
「なんか、リカの様子、いつもと違ったよね?」
京子が心配そうに言う。
「確かに俺も違和感を感じた。何もなければいいが...」
あの変貌して逮捕された女教師の事が頭をよぎった。京子も同じだろう。
そして、嫌な予感は、現実のものとなる。
--- 第6話 END ---
次回、リカと京子の3人でテニスを楽しむが...
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