第7話 リカの変貌

§ リカが無事で安心したのも束の間、リカに異変が…


 翌日、リカは俺たちにはニコリともせずに、クラスの男子たちと話している。


 もともとリカは男子達の人気者で、いつも取り巻きがいたのだが、何か違和感を感じてしまう。


 リカをよく観察してみると、時折下を向いて苦しそうにしている。拳をグッと握り締めて、まるで、何かと戦っているようだ。


 そこで、俺たちはリカの気分転換のために、テニスに誘ってみることにした。


 「ねえ、リカ。私たちとテニスしない? ストレス解消になるとおもうよ」


京子が誘うと、リカは少し考えた後、


「そうね、なんか、すごくイライラするから、体を動かしてみる。でも、テニスは殆どやったことがないけど...」


「全然平気。私が教えてあげる。これでも、テニスは上手いんだよ」


 3人でテニスコートに行くと、男子テニス部員たちが練習をしていた。


「すまない、リカにテニスを教えたいのだけど、少しだけコート借りてもいいかな?」


 テニス部員たちは、快諾してくれた。リカは学園のマドンナ的存在だから、リカがテニスをする姿を見たかったに違いない。



 一通りルールを説明した後、京子が優しくサーブを打つ。すると、リカは今教わったばかりのルールを思い出しながら、ゆっくりとボールに追いつき、無造作にボールを打ち返す。


 ところが、リカの打ったボールは、物凄いスピードで京子の横を通り過ぎて行った。


「これって、私の得点で良いのかな?」


 唖然とする京子に確認をするリカ。まるで、ハエでも叩き落とすような乱暴なフォームで打ったリカのレシーブは、見事に京子の手前でバウンドしてコートの外へ消えていった。


「やるじゃない。リカ、才能あるわよ!」


 テニス部員たちは、リカのスーパープレイに拍手喝采である。


 気を取り直した京子がゲームを続けるが、リカはことごとく、しかも、いとも簡単にボールを打ち返して点を重ねていく。


「これ、私の勝ちでいいんだよね。テニスって、こんものか。ありがとう。帰るね」


 そう言い残すと、リカはスタスタとコートを後にした。



 息を切らしながら京子が俺に問う。


「リカ、なにか魔法使っていた?」


 スポーツに魔法を使う事はルールで禁止されている。もちろんリカにも説明済みである。


「いや、魔法を使った気配はないよ。ただボールを打ち返していただけだ」


「そうよね。リカって、運動神経抜群なのね。この私が負けるなんて...」


 京子は、負けて悔しいというより、不思議で仕方がないという顔をしている。俺も全く同感だ。どちらかというと、リカは鈍くさくてスポーツも苦手なイメージがあったのだが。


---


 それからというもの、日を増すごとに、リカの態度が悪くなっていった。


 リカは誰にでも優しい八方美人タイプだったが、今のリカは男子達をまるでしもべのように扱っている。ただ、言いなりになっている男子共は、まんざらでもない様子だ。


「なんか、リカは人が変わったみたいね」


 京子が心配そうに言う。俺も同感だ。やはり、何かがおかしい。


 リカの態度は校内でも問題になっており、教師も頭を悩ませていた。


 俺たちは、思い切ってリカに言い寄った


「リカ、この頃変だろう。なぜ弱い者いじめをするんだ?」


「あいつら、苛められて喜んでいるヘンタイなんだ。だから、もっと苛めてやるんだよ」


 とても喜んでいるようには見えない。


「お前だって、昔は女教師に苛められて、辛い思いをしただろう? なんで女教師と同じことをするんだ?」


「うるさいなぁ。苛められるより苛めるほうが楽しいんだよ!」


 京子が、リカの腕を掴んで問いかける。


「このブレスレッドは何? 旧式魔導器じゃないの?」


 リカは、京子の手を振り払う。


「それがどうしたの? うるさいって言ってるだろ!」


 その時、バチっと電撃のような魔法が発動し、京子が後ろに吹き飛んだ。


 魔法の詠唱速度が速すぎて、京子でも防ぐことができなかったようだ。


「おい、何をするんだ!」


 俺がリカに詰め寄ろうとしたが、リカは教室から出て行ってしまった。


---


 それから間もなくして、クラスメイトが血相を変えて走ってきた。


「大変だ! 教頭先生が…」


 なんと、リカが教頭室で暴れているらしい。俺たちは急いで教頭室に駆けつけた。



「このヘイタイクソジジイ! 私に説教なんて、100ギガ年早いんだよ!」


「リカ君、暴力はやめたまえ。君のやっていることは校則に反するし、人としても道を踏み外しているぞ」


「私の下僕たちを可愛がって何が悪い! それを苛めだとか虐待だとか、言いがかりつけやがって。本当の虐待がどんなものが、これから教えてやろう!」


 リカが拘束魔法で教頭先生を縛り上げて、足で踏みつけようとしている。



「リカ! やめて。なんでこんなことするの?」


 京子が教頭室に飛び込んで、リカを止めようとするが、リカはすかさず攻撃魔法を放つ。


「あぶない!」


 俺は咄嗟に京子を突き飛ばし、リカの魔法を受けとめた。体中に電撃が走る! しばらくは身動きが取れそうにない。


「許さないわよ!」


 京子が珍しく怒りを露わにして、リカに強力な拘束魔法を浴びせる。


 一般的な拘束魔法はバリアと同じ原理で、攻撃対象の回りをバリアで囲み、身動きをとれなくするものだ。ただ、京子の卓越した能力で放たれる拘束魔法は、ドラゴンでさえ押さえつけることができるほど強力なものだという。※この世界にドラゴンは居ません


 ところが、リカは京子の強力な拘束魔法を簡単に解除してしまう。そして、その時の風圧で、俺たちは教頭室の外まで吹き飛ばされてしまった。


「このままだと怪我人が出るわね。最悪怪我では済まないかも。教頭先生には気の毒だけど、ここは一旦退却しましょう」


 クレバーな京子は、事態を冷静に分析している。俺たちは教室に戻って、今後の作戦を考えることにした。


---


「あの異常な力は、旧式魔導器のせいだと思うの。リカの腕には、ハッキリとブレスレットが見えたわ」


「だね。でも、京子が持っている旧式魔導器は、起動しなかったんだろ?」


「そうなの。でもね、もしかしして女神様が再起動リブートしていたら、旧式魔導器も起動できるのかもしれない。家にある旧式魔導器で試してみるわ」


「それはダメだ! 京子まで発狂して暴れだしたら、リカの比じゃないぞ。この学園ごと消滅しかねない」


「そうねぇ。何が起こるかは予測できないし、女教師やリカの事を考えると、不用意に旧式魔導器を試すべきじゃないわね」


「女神様が鍵となっているなら、もういちど女神様の所に行ってみよう。何か手がかりが見つかるかもしれない」


「たしかに... 試してみる価値はありそうだね!」


 俺たちは、ふたたび教会遺跡の女神様の所へ向かう事にした。


--- 第7話 END ---


次回、女神様から驚愕の過去が...

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