番外編 特訓
約束通り、京子とリカとの3人で魔法の訓練に向かっている。
魔法の先生でもある京子のお母さんとの待ち合わせ場所に来ると、とても嬉しそうな笑顔で出迎えてくれた。
「リカさん、素敵な恰好ね。とても似合っているし、やる気を感じさせるわ」
おばさん(京子の母)がリカの服装を褒めている。
紺色のスリムなパンツに体にフィットする黒いシャツ、そしてノースリーブの青いジャケットと、スポーティーな装いだ。普段のお嬢様風な制服姿とは違った魅力がある。
京子もリカよりは地味だが、お洒落な赤いジャージ姿は、京子らしくてとても似合っている。
「それに引き換え、貴方の服装は... まったくの普段着じゃないの? もうちょっとマシな服なかったの?」
おばさんに鼻で笑われてしまった。正直服装のことは全く頭に無かったのだが、思わぬツッコミに苦笑いで胡麻化した。
「ここよ」
京子のお母さんに案内された場所は、ペットショップの地下施設によく似た、地下深くにある秘密の場所だ。エレベーターで地下深くまで潜ると、体育館のような広大なスペースのある広間が眼前に広がった。
おばさんが
この、現実とまったく変わらない世界を作り出す装置には、いつも感心させられる。今の技術では作れなくなった、ロストテクノロジーなのだ。
「さて、とりあえずあなた達の実力を見たいから、敵を出すわ。適当に戦って倒してちょうだい」
そう言うと、おばさんは後方に下がり、あたりが少し暗くなった。
俺は、特訓と言うから、まずは基礎体力作りで走り込んだり筋トレをしたりを想像していたが、いきなり実践だった。望むところだ。
物陰から数体の敵がいきなり襲ってきたが、リカがすぐさま氷結魔法で敵の動きを封じる。そして、俺がファイヤーボールを連打するのと同時に京子が拘束魔法を放った。
俺たちの連続攻撃により、敵はすぐさま戦闘不能になって拘束された。ここまで、1分とかかっていない。この程度の敵なら秒殺ということだ。前回の戦闘を経て、だいぶ連携が取れるようになってきた。
「あら、なかなかやるじゃない。いい連携だわ。まぁ、この程度なら魔法学校の生徒なら楽勝ね。次はレベルを上げるわよ」
おばさんがそう言うと、先程と同じように数名の敵が襲ってきた。リカが氷結魔法を放つ。相変わらず初動が速い。ところが、敵の姿が突然消え、次の瞬間に俺たちの背後から敵が攻撃して来た。
(瞬間移動か!?)
なんとかブラックホールで攻撃を防ぎ、京子が
ところが、電撃はあっさりと非導電性のバリアで防御された。今度の敵はかなり手強い。
リカが
直感的にこれは時間操作系の魔法だと思い、俺も時間を止める。すると、ゆっくり動いている敵の姿を見ることができた。3人はそれぞれがリカと京子と俺に向かって移動している。思ったより速い。リカの重力魔法を喰らっている筈なのに、なぜこんなに早く動けるのだろうか?
俺に向かって来る1人の敵にファイヤーバールを放つが、敵はヒラりと避けてしまった。時間を止めて体が異様に重い状態で、素早く回避行動が取れるとは驚きだ。
(まずい、このままではやられる!)
そう思った時、急に目の前が暗くなり、脳裏に別の敵と戦っている自分の姿が映った。そして、妄想の中の俺は、知らない
ハッと我に返った俺は、思わず同じプロンプトを口ずさんだ。
「プラズマストライク!」
すると、俺の目前の空間が凝縮され、強烈な紫色の閃光が敵に向かってビーム状に発せられた。そのビームはファイヤーボールよりも遥かに高速で、敵に避ける余地を与えずに命中。敵はその場で動かなくなった。
ビームが命中すると同時に、時間の流れが元に戻った。周りを見渡すと、リカと京子はあっさりと拘束されてダウンしている。残りの2体にやられたようだ。
京子のお母さんが俺に近寄ってきて言う。
「この敵をあっさりと倒すとは大したものだわ。今の魔法はプラズマストライクね。貴方、もしかして昔の記憶が戻ってきたの?」
「いや、記憶が戻ったというより、急に別の戦闘シーンがフラッシュバックのように見えたのです。そこで、俺が使っていた魔法を真似してしたら、あの魔法を発動できました」
「あら、そうなの。フラッシュバックという形で過去の記憶が呼び起こされてたのね。でも、いい兆候だわ。もうすぐ、貴方の記憶をすべて取り戻せるかもしれないわね」
おばさんは、これまで俺の失われた記憶を取り戻すために、手を尽くしてくれたらしい。なんとかその努力に報いたいと思った。
「今は極度の緊張に陥った時に出るみたいですが、意図的に思い出そうとしても何も出てこないんです。いろいろと努力してみます」
「ええ、なんとか思い出してちょうだい。私達はもう手を尽くしたわ。この先はあなた次第ね」
そう言うと、おばさんは京子たちを呼び寄せた。
「それにしても、リカさんと京子はあっさりとやられてしまったわね。時間操作系の魔法を使う敵への対処方法を訓練しないと行けないわ」
「今の敵は準オプティマイザーレベル、つまり、あの焼豚(店長のこと)よりちょっと強い程度ね。このぐらいの敵はゴロゴロいるから、こいつらに手間取っているようじゃダメよ。オプティマイザーは、こいつら20人をまとめて倒せるくらい強くならないと勝負にならないわ。まぁ、私なら100人は楽勝だけどね。ほほほ...」
ドヤ顔で笑うおばさん。たしかに、おばさんの強さは規格外だった。
「リカさんと京子の魔法は、そこそこの威力はあるけど、発動に時間がかかるのと射出速度が遅いから敵に簡単に避けられてしまのが問題だわ。リカさんの氷結魔法は発動は早いけど、凍るまでのわずかな間に逃げられてしまうの。だから、動きの速い敵には氷結魔法は有効じゃないのよ」
神妙な面持ちで頷きながら、おばさんの話を聞く二人。
「だからね、もっと単純で威力のある魔法を使うと良いわ。学校では教えてくれないけど、例えばこれね」
そう言うと、おばさんはピンポン玉程度の小石を拾って、それを手の上にフワッと浮かせてから、フッと息を吹きかける。すると、その小石は物凄いスピードで飛んでいき、100m先の壁に衝突して爆発した。壁には大きな穴が開いている。
「いま、何をやったのですか?」
「小石を飛ばしただけよ。だいたい、いまので秒速1000mぐらい。つまりマッハ3程度ね。この速さの攻撃を避けるのは容易ではないわ。要領は、小石に対して局所的に重力魔法をかけるの。1000倍ぐらいのね」
なるほど。あの女教師がチョークを飛ばしていたのと同じ理屈か。
「あなた達でも、小石程度の大きさに限定すれば1000倍ぐらい出来る筈よ。次の訓練までに練習しておいてね」
おばさんに言われて、俺と京子はリカから
「では、今日はこれくらいにしましょう。次はもっと厳しくいくわよ。じゃあ、私は先に帰るわね」
おばさんは軽やかな足取りで去って行った。なんだか、とても楽しそうである。
京子が俺たちの顔を見て笑顔で言った。
「ねぇ、このあと3人でカフェに行こうよ!」
「いいよ。3人でカフェに行くのは、京子が変装して来た時以来だね」
「え? あれはファッションよ。分かってないなぁ」
そう言いながら笑顔で笑う京子。リカもとても楽しそうにしている。
こんな3人の関係が、いつまでも変わらずにいて欲しいと思う俺だった。
--- 番外編 特訓 END ---
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