第12話 上位オプティマイザー

 ミスターレッドが視界から消えた時、俺は意識を空中に移動させて自分の姿を上から俯瞰していた。そして、体力を消耗しない程度の加速魔法(10倍速)を発動させている。


 奴が俺の背後に回り込み、攻撃を放つ様子を上から眺めていた。俺は奴の攻撃を余裕で避ける。すると、ミスターレッドは別の場所に高速移動し、再び攻撃を仕掛けてくる。


 俺は上から俯瞰しながら、攻撃をことごとく避けた。ミスターレッドは攻撃が当たらないため焦り始め、ますます加速魔法を強力にする。300倍速ぐらいはあろうか。


 さすがにここまで加速すると、相当に体力を消耗する筈だ。ところが、奴はゾンビスーツの効力で疲れを感じておらず、自身に回復魔法を使うこともない。無尽蔵の体力があると錯覚し、消耗の大きな魔法を連発している。


 攻撃を避け続けるのにも飽きてきたので、俺は一瞬の間だけ1000倍まで加速し、ミスターレッドの背後からプラズマブラスターをお見舞いした。すると、奴は不敵に笑う。


「ふん、そんなヘナチョコ攻撃は全く効かんぞ。お前は動きは素早いが、攻撃力はまったく大した事がないな。それに、俺には無限の回復力のあるこのスーツがあるのだ。お前が私に勝つ可能性は万に一つもないぞ」


 ここまで見事に術中にハマっている奴は、もはや哀れである。俺の攻撃も、グレーを一撃で倒したほどの威力はあるのだ。高出力の魔法を使い続けた事もあり、奴の体力はすでに底をついているだろう。


 俺は、最後のダメ押しとして、強烈な拘束魔法である、プラズマFRC磁場反転配位封印術を仕掛けた。それを、ミスターレッドは上位オプティマイザーのプライドか、力任せに渾身の力を振り絞って跳ね除けた。そして、そのままその場に倒れて戦闘不能となった。おそらく本人も何が起こったのか気づいていないだろう。


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 そのころ、京子たちに向かっていったレディーオレンジも、同じような戦術にハマり、ダメージを蓄積していた。リカが重力魔法を連発する中で、京子とかえでは回避系の魔法しか使っていない。ミレディーオレンジは、リカの攻撃を避けようともせずに、高重力下で加速魔法を使い、京子とかえでを追いかけまわしている。


 少し前までこの場を離れていたおばさんが戻ってきた。侵入者に対処するために出て言った3人のオプティマ―ザーを倒してきたようだ。幻影との闘いで体力を消耗させたとはいえ、おばさんの強さは底が知れない。


 京子たちの戦いを見ながら、おばさんがレディーオレンジに向かって言った。


「私もお手伝いしようかしら」


 そう言うと、火炎系の攻撃を京子たちに向かって放った。ところが、その攻撃はレディーオレンジに向けて仕掛けられている重力魔法に吸い寄せられ、彼女を直撃する。


「あら、当たっちゃわね、ごめんなさい」


 白々しく謝っているが、おばさんの攻撃は、京子たちを狙っているように見せかけて、絶妙にレディーオレンジの戦闘の邪魔をしている。


 ついに、レディーオレンジも体力の限界を超えて、膝を落とした。すると、おばさんが近寄って行き、彼女に話しかけた。


「大丈夫? 手助けするわ」


「ええ… お願いします」


 すると、おばさんは右足を頭上高く振り上げて、レディーオレンジの脳天にカカトを素早く振り落とした。京子が良く使う「脳天かかと落とし」である。年季が入っている分、京子のよりも強烈だった。


 こうして、レディーオレンジも戦闘不能になった。俺たちは、オプティマイザ―を7人とも倒したのである。


「うまくいったわね。ミスターブラウンが戻ってこないうちに、リカのお母さんを連れて逃げましょう」


 俺たちは、急いで施設を出ようとしたのだが、入口を見ると、そこに1人の男が立っていた。


 初見だが、その男の底知れない強さが分かる。ミスターブラウンだ。


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「あら、ミスターブラウン、遅かったじゃない?」


 おばさんが話しかける。ミスターブラウンはゾンビスーツを着ていない。


「私がプレゼントしたスーツはどうしたのかしら? 遅れて来ると言うから送っておいたのに」


「ああ、あれはクリーニングに出しました。私は新しい服は着る前に必ずクリーニングに出すのです」


 まずい、ゾンビスーツを着せる作戦その1は失敗だ。


「ところで、玲子さんはなぜこいつらと一緒にいるのですか?」


「それはね、こいつらが私の娘にチョッカイを出したから、お仕置きしたのよ」


 ミスターブラウンは周りを見渡して、不思議そうにしている。俺たちは、おばさんの嘘がバレないかとヒヤヒヤしていた。


「いくら玲子さんでも、こいつら7人を一度に倒すのは無理でしょう? それに、この子供たち、タダモノではないですね。4人ともオプティマイザ―に匹敵する能力があるようだ」


 やばい、ハッタリ魔法の効力が切れてしまったので、俺たちの強さを知られてしまった。作戦その2も失敗である。ミスターブラウンは、俺の方をジロジロと見ている。


「お前は… 伝説の戦士、『永劫の魔導士エターナルメイガス』だな。本当に存在していたとは驚きだ。ミスターレッドが倒されても不思議ではないという事か」


(おばさん、俺ってそんな二つ名で呼ばれていたのですか?)


(そうよ。言ってなかったっけ?)


 そんなカッコいい呼び名があったのはチョッピリ嬉しかったが、今はそれどころではない。


「俺にはハッキリした記憶がないが、その通りだ。今のAI政府は狂っている。それを正しに来たのだ」


「なるほど。そいうことか。玲子さん、いつからこいつらの仲間になったんだ?」


「あら、最初からよ。私は元からAI政府には反対だもの」


「…」


 驚きを隠せないミスターブラウン


「それにね、今のAI政府はね、人を殺せるアンドロイドを作ろうとしているのよ。そんなのが出来たら人類が滅亡しかねないわ。それで止めに来たの。貴方だって人間でしょ? 私達の言う事を聞いて頂戴」


「それはできない相談です。私は今のAI政府に忠誠を誓ったのです。何があろうと、主人を裏切ることはできません」


「わたしたち5人を相手に、貴方は勝てるかしら? もう仲間はいないのよ。降伏しなさい」


「最後の1人になっても諦めずに戦えと教えてくれたのは玲子さんですよ。私は教わった事を実践するのみです」


 おばさんが叩き込んだ武士道精神のせいだ。ここまで石頭だと懐柔するのは難しいだろう。


「わかったわ。貴方には常に正々堂々と戦えと教えたものね。いいわ、私一人で相手してあげる。京子たちは見ててね。手出しは無用よ」


 こうやって、おばさんとオプティマイザ―最強のミスターブラウンとの戦いが始まった。


--- 第12話 END ---

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