怖い話『心霊スポットで見た人影』

青春×ホラーの怖い話『心霊スポットで見た人影』

 中学生の頃、心霊スポットに行ったことがある。地元では有名なお化けトンネルと知れ渡り、肝試しの鉄板コースだった。


 お盆を過ぎ、夏祭りが終わって——。

 また学校が数日後から始まる。

 これはそんな夏の終わり頃のお話である。


 当時中学生だった俺たちは夜中に家を飛び出し、学校で待ち合わせする計画を練っていた。

 その場に辿り着くと、バカな男友達2名に、

どこで話を聞き出したのかは知らんが、当時仲が良かった女連中3名が集まっていた。


「ふんっ! アンタはいつも遅いのよ、このバカ! レディーを待たせるなんて最低だわ!」


 A子が腕を組みながら偉そうに言った。

 鼻息をふんふんと鳴らしながら。

 A子は昔から俺にちょっかいを出す女だ。

 口煩い奴で、対応するのが面倒な奴。

 あと、昔からツインテールのメンヘラ気質。


「うるせぇーな。クソババア。テメェら、何しに来たんだよ? さっさと帰れよ、バカ」

「はぁ? アタシたちは、アンタたちがバカな真似をしようとしているからそれを止めに来たの。そうよね? B美ちゃん?」

「そうだよ、ナナくん。ナナくんたちが危ないことをしようとしているから、止めに来たの」


 先に言おう。

 俺はB美ちゃんのことが好きだった。

 B美の何が好きかって?

 彼女のルックスが最高に好きだった。

 顔も可愛いし、性格も可愛いし、胸もあるし……でへへへへ。


「ええっ? B美ちゃんが俺のために……? い、いててててててててえ」

「ちょっと! アンタ、何を鼻の下を伸ばして。気持ち悪いのよ、デレデレしちゃって」

「だからって、頬っぺたを摘む必要はねぇーだろうが、このバカヤロウ」

「バカには口で言ってもわからないでしょ? だから、痛みを伴って教えてあげてるの!」

「ったく…….折角の肝試しが台無しだぜ。こんな女が居るせいで、俺たちの夏が終わりだ」

「それはこっちのセリフよ! アンタたちのせいで、アタシたちの夏だって最悪だったから」


 アタシたちの夏——。

 A子がそう言うのは理由がある。

 先日地元で盛大に開かれた夏祭り大会。

 そこで奴等は色んな男たちからナンパされていたのだ。

 正直な話、A子も、B美も、それに今も何も考えているのかわからないが、電柱に集まる蛾をぼーっと見つめるC沙だって。

 見た目だけは、別格に可愛いのである。


「誰がお前らを守ってやったと思ってんだ?」

「余計なお世話です! あともう少しでイケメンゲットできたはずなのにー!」

「イケメンならここに三人いるだろ?」

「はぁ? 三人? 二人の間違いじゃない? イチくんと、ツーくんはカッコいいけど。ナナ、アンタは全然カッコよくないからね」

「くそっ……アマが」


 俺とA子が一触即発状態だった頃合いで。


「夫婦喧嘩はやめろよ、二人とも」


 と、イチが言った。


「「誰が夫婦喧嘩だ! 俺たちは夫婦じゃない」」

「ほら、息ぴったりじゃん」

「ったく……イチ。お前はいつもからかいやがって」

「でも、俺はお前ら二人はお似合いだと思うぜ」


◇◆◇◆◇◆


「で、これはどういう状況だ? C沙」


 自転車を漕ぐ俺。

 その後ろにはベッタリとC沙がしがみつく。

 前方には、ツーくんとB美ペア。

 後方には、イチくんとA子ペアもいる。


「私たちは自転車持ってない」

「だから、二人乗りを強要すると?」

「そーいうこと」

「お前ら女子組は今から俺たちが行くところ知ってるのか?」

「お化けトンネルでしょ? 略して、バケトン」

「知ってるならいいけど、怖くないのかよ?」

「わかんない。ただ、ナナと一緒なら怖くないと思う」

「はぁ? お前、何言ってんだ?」

「……ナナの鈍感。オタンコナスー」

「ちょっと待て待て。C沙、暴れるな。暴れたら、ハンドルが傾くからやめろって」


【A子視点】


「な、何よ。あのバカ……」


 視界に映るのは、大好きな彼の姿。

 だけど、A子の心は穏やかになれない。


「次は、またC沙とイチャイチャしちゃって」


 彼のことが好きだ。

 その気持ちに偽りはない。

 小学生の頃からずっとずっと大好きだ。

 でも、彼は——クラスの人気者で。

 そんな彼にずっと憧れていて——。


「女なら誰でもいいってこと?」


◇◆◇◆◇◆


 お化けトンネルに無事到着し、俺たちはトンネルの出入口前に突っ立っていた。

 入口は大きな壁で封鎖されている。

 ただ、上部のみが僅かに隙間があり、そこから出入りができるようになっているようだ。


「噂では聞いてたけど、この壁をよじ登って入るのかよ。一応ロープがあるけど、女子組は無理そうじゃね?」

「大丈夫よ、ナナを足場にして登るから」

「ふざけんじゃねぇーよ! 誰が——」


 結局な話——。

 イチとツーが先に壁をよじ登り。

 俺が女子三人全員を肩車して、イチとツーが彼女たちの手を掴んで引き上げた。


「ほら、行くわよ。ナナ、早く来なさいよ」

「A子、お前が俺の顔を踏んだことは忘れてねぇーからな」

「アレは不可抗力よ、不可抗力!」


 A子が悪態を吐く中、俺はロープを掴み、壁を一気に駆け上がる。身体能力には自信がある。実際、学年別の体力テストで五位以内の実力はある。ちなみに、イチとツーは俺よりも上だけどな。あくまでも俊敏さだけは、俺が上だけど。走り幅跳びなら、誰にも負けないぜ!


 入口からは見えなかった壁の内側。

 そこは光は一切なく、前方は深い闇に包まれていた。俺たちはスマホの懐中電灯を頼りに、前へ前へと進む。


「ここってさ。お化けトンネルって言われるけど、どうしてそう呼ばれてるのかな?」


 B美が言う。

 それに対し、博学なツーが答える。


「元々ここは生贄の儀式が行われる場所だったらしい」

「生贄の儀式? 何、それ?」

「神様のお怒りを鎮める儀式だよ」

「ちょっと待って、全然意味わかんない」


 B美が言う。


「昔の人々は、どんなものにも神が宿ると考えていたんだ。だから、雨や雪が降れば、神様は泣いていて。晴れていれば笑っているみたいな感じでね。でも、猛暑が続いたり、逆に雨が降り続けると、農作物が育たなくなる」


 だから、とゆっくり呟き、ツーは言う。


「昔の人々は生贄を差し出したんだ、神様に。それも、若い少女を。神様が喜ぶと言って」

「神様って? どういうこと?」

「生贄を差し出すから怒りを鎮めてくれとね」

「神様って誰のこと? そんなのいないのに」

「あぁ。どこにも存在しない。いるはずがない。なのに、生贄となった少女は消えたんだよ。村一番の美少女と呼ばれた女の子たちはね」

「……消えた? どうして……?」


 B美の問いに対し、誰も答えなかった。

 C沙が話題を変えるように呟いた。


「消えたといえば、この町には神隠し伝説があるよね?」

「神隠し伝説というより、アレは行方不明とか失踪事件だろ?」


 ツーが言う通り。

 神隠し伝説と呼ぶには、事件性が高い話だ。

 俺たちが住む町には数年に一回ペースで、少女が行方不明になる事件が起きていた。

 全国のテレビ番組では「誘拐事件」という名で報道されていたが、俺たち地元民の間では「神隠し伝説」と呼んでいる。

 それは恐怖を紛らわすためかもしれない。

 俺たちが住む町に危険な奴がいないと、自分たちを信じ込ませるために。


「あ、壁だ。アレが終わりだよ」


 懐中電灯を回しながら、イチが言う。

 俺たちの前方100メートル先に、壁がある。

 無数の落書きがカラースプレーで描かれていた。あの先に行っても何も起こらない。

 それに足元はドロドロとしており、足場も悪い。俺たちはそう判断して、トンネルの行き止まりまで行かずに引き返すことにした。


 俺たちは入口へと戻り、また壁を上った。

 今回もまた、俺が最後だった。

 そして、俺が壁から這い上がった直後。


 突然——A子が泣き出した。号泣であった。

 それは、赤子のように。

 B美とC沙がA子を慰める。

 初めての心霊スポット。

 それも、中学生の女の子。

 痩せ我慢して付いてきたが、怖くて仕方がなかったのだろう。実際俺も怖かった。

 そう思っていたのだが——。


「……アタシ、ヤバいものを見ちゃった」


 A子は嗚咽を繰り返しながら。


「行き止まりの壁に人影を見たの」

「人影? ただの見間違いじゃないの?」

「いや、見間違いじゃない。絶対に見た! 見たの! アレは絶対に人影だった! 人影!」


 人影を見た。

 そう言われても全くピンと来ない。

 俺たちは何も見ていなかったのだから。

 けれど、A子は必死に呟いた。


「それも、一人じゃないの。二人いたの」

「二人?」

「うん、二人」

「一人は男で、もう一人は女の子。多分、アタシたちと同年代ぐらいだと思う」


 俺たちはA子の話を信じていなかった。

 しかし、九月が始まった週の出来事。

 担任が、とある話をホームルーム内で行った。他校の生徒が夏祭りの日を境に、姿を消してしまったと。家にも連絡を入れず、その日以来、戻っていないのだと。


 俺たちはその話を聞きながらも、「へぇー」程度にしか考えていなかった。

 こんなクソ田舎が嫌で、家出してしまったのだと本気で考えていた。


 だが、後日——。

 お化けトンネル内で遺体が発見された。

 白骨化した遺体七体と、死後まだ時間が経過しておらず、腐ったままの遺体一体が。

 そのニュースが流れた後、この事件の犯人が発見された。犯人は50代の老けた顔の男。

 その男は「心霊スポットに来た女を襲い、性的暴行を加えていた」と語ったらしい。


 あの日——。

 A子が見たのは、夏祭りの日を境に姿を消してしまった少女だったのだろう。

 老け顔の男に連れ去られ、あの暗闇の中で何度何度も性的な暴行を加えられていたのだ。

 その一部始終を、A子は見たのである。


 もしも——。

 もしも、あの日——。


 引き返す選択を選ばなかったら——。

 あのまま俺たちが壁まで歩みを進めていたら。

 そう考えると——。

 俺はいつもやりきれない気持ちになる。


【完結】

————————————————————


 あとがき


 読者の皆様が色々と言いたい気持ちがあるのは、百も承知。ただ、私はこの落差を書きたかったのだ。

 最初は青春要素満載だが、最後はリアルホラー要素を混ぜて、一気にドン底へ落とすと。


 この話は青春要素を強めれば、面白い青春ラブコメ作品を書けそうだし。

 ホラー要素だけを抽出して、短編作品に仕上げれば、もっと面白くなりそうと思うのだ。


 今回の要素で書きたかったのは——。

 心霊スポットで、幽霊よりも更に怖いものに出会ってしまっていたというのがオチです。



 本来はもっと伏線を入れる予定でした。

 ただ、伏線を入れられなかったけど。


 実は——。


①夏祭りの日、犯人から「可愛いね」と話しかけられていた。でも、その犯人からの誘いを、ナナ(主人公)が止めていたパターン。


②失踪事件や行方不明事件が連発する地域だから、家族や先生などの大人が深夜帯の外出をブチギレする


 などの要素を含みたかったなと思います。


 正直な話。

 この話は書いてて楽しかったです。

 久々に時間を忘れて執筆できました。

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プロトタイプ作品集 平日黒髪お姉さん @ruto7

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