③からの続き


 彼女が妊娠した。

 そう聞き、私は覚悟を決めることにした。

 地元に帰って、彼女の親御さんから了承を得なければならなかった。出産という初めての経験だったから、大人の助けが欲しかったんだと思う。自分たち二人だけなら不安で。

 というわけで、私は地元へと帰った。


 相手側の親御さんから殴られ、蹴られたとしても、許してもらうしかない。どんなことが起きたとしても、耐えるしかない。

 そんな覚悟を決めていたものの……。

 久々に戻ってきたバカな二人を見て、私の親も彼女の親も呆れて涙を流してくれた。ただ二人の逃避行の末に、私たちの愛は証明されるのであった。

 で、彼女の親から忠告を受けた。


「キミは今後の未来をどう思っている?」


 今後の未来なんて考えたことがなかった。

 とりあえず、毎日を生きるのに必死で、他のことなんて考える暇もなかった。

 でも、家庭を築く。子供を育てるということは、生半端な気持ちではできない。


「現在の仕事を続けるのも一つの道だと思う。だけど、家族全員を養うならキツイぞ。今後のことも考えて、もう一度考えなさい」


 彼女の親御さんは税理士だった。

 九州大学卒のエリート様であった。

 私と彼女は話し合った。今後どうするか。

 中卒の自分でも雇ってもらえて、尚且つ賃金的にも余裕がある仕事は何だろうかと。

 で、結論が出た。


 それは——自衛官であった。

 体力仕事なら誰にも負けない自信があった。また社会的信用度も高く、尚且つ収入的にも安定している点から入隊を決意した。

 でも、一番は家族を守るためであった。


 東京の賃貸アパート生活を辞めた。

 大家のばあちゃんは最後まで優しかった。


 18歳になった直後、私は陸自に入った。

 下っ端からのスタートだった。

 彼女は実家に戻り、出産することになった。私たちは離れ離れの生活になったが、お互いに連絡を取り合った。受話器から聞こえてくる彼女の声だけが、生きる意味だった。


 んでんで——。


 三ヶ月の教育期間を卒業する頃合いで、嬉しい話が届いた。元気な赤子が生まれたというのだ。この世で一番愛している人との間に生まれた、彼女に良く似た女の子であった。

 誇張抜きで「天使」と呼べる女の子だ。

 と言えども、私が会えるのは休みの日のみ。ただ、当時の上司は理解力がある方で、私の話を親身に聞いてくれたのだ。


 彼女は親元で子供を育てた。

 親の力を借りながらの子育てということもあり、彼女も安心できたようだ。

 全てが上手くいっていた。本当に幸せな日々を過ごしていた。

 だが、悪魔は突如として現れたのである。


 私は部隊内での昇進試験に合格し、一般曹へと成った直後であった。訓練中に上官から呼び出しを食らい、「今すぐ家に帰れ」と言われた。

 気を利かせた先輩が彼女の実家まで私を送ってくれた。そして、私は現実を知るのだ。


 私たちの天使がこの世から消えたのだ。

 死因は——乳幼児突然死症候群。

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