娘が死んだ。

 その事実を知り、私は愕然とした。

 自分のことを「パパ」と呼んでくれた彼女が死ぬなんて……考えたくなかった。

 娘の死を悩まないために、当直を自主的にやった。仲間から感謝の言葉を受け取るものの、給料には全く反映されなかった。


 そんな折——。

 東ティモールへの海外派遣が決定した。

 全国各地から集められた自衛官と共に、私は東ティモールへと向かった。

 何の取り柄もない私を、人々は讃えてくれた。それが当時の私をドン底から救ってくれた。


 半年間にも及ぶ派遣が終わった。

 愛する彼女の元へと戻った。

 彼女は私の帰りを待っていた。

 等身大サイズのキューピー人形を携えて。


 彼女は壊れてしまったのである。

 キューピー人形を自分の愛娘だと言い張り、ひとときも離さなかったのである。

 そんな彼女の姿を見た瞬間、私は無性にやりきれない気持ちになった。そして気が付けば、キューピー人形を奪い取り投げ捨てていた。彼女は「ヒドイ!なんでこんなことをするの!」と激昂してきた。彼女本人にとっては、自分たちの娘に暴力を振るう最低な父親に映ったことだろう。

 それも、半年間も留守にしてたくせに、突然現れたら暴力を振るう最低な男だと。


 もしかしたら、彼女が変わるかもしれない。もしかしたら元通りになるかも。

 そんな期待を抱いていたものの、彼女は変わらなかった。で、娘が亡くなってから三年の月日が流れた頃——私たちは離婚した。


 その理由は——。

 彼女が私を見ると、過呼吸になったからだ。私を見るたびに、私との間に生まれた子供のことを思い出したのだろうか。

 これ以上壊れる彼女を見たくないと思い、私たちは別れることにした。彼女の親御さんからも「申し訳ない」と謝罪の言葉を受けた。だが、彼女が幸せになれるなら、それで私は幸せだった。


 彼女と離婚してから数年後——。

 私のイラク派遣行きが決定した。

 東ティモールの時とは違い、今回は命の危機に関わる任務であった。

 爆撃が近くで起きた際には、もう死ぬかもと思ったこともある。それでも無事に生き残った。ただ、危うい機会が何度もあった。


 数年間にも及ぶ復興活動が終わった。

 打ち切りだった。

 日本に帰国後、私は昇任試験を受け、部内幹部への道を開いた。

 幹部になると、業務量が一気に増えた。

 ただ、幹部になるか、レンジャーに行くかと言われ、私は幹部を選んだわけである。

(ある程度の歳になると、二択を迫られる。基本的には若い間にレンジャーを取れと言われる。私は彼女と娘との時間を大切にしたかったので選びませんでした)


 で、その後は幹部としての道を歩んだ。

 結婚を勧められたものも、全部断った。

 田舎っぽい話だが、お見合いの話もあった。だけど、私は自分が愛した女性と彼女のお腹から生まれた娘を忘れたくなかったのだ。


 しかし、彼女は私のことをもう全て忘れてしまっていた。というのも、彼女は私と別れた後、水商売を始めたのである。で、そこで中小企業の社長さんと知り合い、結婚へと至ったのだ。幸せな家庭を築いたようで、現在の彼女には二人の娘がいるという。彼女に良く似て愛らしい女性だった。


 そうだ。

 彼女は前を向いて歩き始めたのである。

 しかし、私だけは立ち止まったままだ。


 今でも愛する彼女の幻影を追っているし。

 今でも笑顔が愛らしい娘の姿を夢見ている。でも、あの頃にはもう二度と戻れない。それを理解しているからこそ、私は小説を書き続けている。

 この世界では幸せになれなかった私たちが、小説の世界だけでは幸せになってほしいと願って。


(完結)


◇◆◇◆◇◆


あとがき


 ①から⑤まで語りましたが、これは全て創作です。

 4月1日に本物っぽい創作を書きたいなぁ〜と思いまして、シコシコと書かせて頂きました。個人的に最高に楽しかったです。性格が悪い私はこんな話が大好物。

 ただ、人様に読ませるなら——。


 駆け落ち→日雇い→妊娠発覚→実家説得→出産→ハッピーエンド


 こんな感じにするしかないよね。

 ただね、私は今回の終わり方が大好物! 最高でした!


 今作はまだまだ伸びしろがあると思ってます。

 駆け落ちしてから日雇い生活する話は、もっと面白く書けそう。

(個人的な面白さのピークはこの辺でした)

 というか、夜行バスに乗って博多駅へ。

 博多駅で青春18切符を購入して東京へ向かう流れはワクワク感があるよね。


 プロット的な内容でしたが、もっと細かく書けばリアルさが出て、更に面白く書けたはず。今後、ストーリーをパパッとこのぐらいの分量で書くのはアリかも。

 で、その後に、内容を一個ずつ詳しく書こうかしらねぇ〜( ̄▽ ̄)

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