6
「私ね、家族が誰一人居ないんだ」
最初の一言目から、僕は思わず唾を飲み込んでいた。
これは真面目に聞こうという気になったのだ。
「家族が誰一人居ないって?」
「死んじゃったの。ううん、殺されちゃったんだ」
殺された。物騒な話だ。
日本の、それも片田舎に住む僕にとっては馴染みのない言葉。
まぁー日本人誰にとっても同じだと思うけどさ。
何か意図があるのだろうか。
「私はね、悪い子なんだよ。周りを不幸にさせちゃう」
「ちょっと待て。殺されたってどんな意味だ?」
「言葉通りの意味。私以外の家族は殺されたの。私のせいで」
「聞いてもいいか……な、何があったのか」
家族が殺された。
凡人の僕にはどうしても気になってしまう。
捺月に何が起きたのか。
何が起きて、彼女は『死』を選択することになったのか。
「中学三年生の冬。私が家に帰ると、家族全員死んでたの」
捺月は震えていた。
でも、言葉は淡々としていた。
事実をただ述べるだけだ。
「お父さんもお母さんもミカもアキラも……みんなみんな」
ミカとアキラ?
妹とか弟なのだろうか。
僕には到底分からないけれど。
「ミカは小学生二年生で、アキラは幼稚園に通う四歳だった」
二人とも、とっても可愛かった。とっても小さかった。
捺月はそう続けて言い放ち、それから小さな声で。
「でも死んじゃったんだ。殺されちゃったんだ。私のせいで」
「私のせいでって。どうして捺月のせいになるんだよ、おかしいだろ」
「私のせいなんだよ!! 私が殺したの。家族全員!?」
私が殺した?
こんな可愛い少女が人殺しだと?
僕にはそんな人間には一切見えないけど。
「話を聞く限り、捺月は家族を大切してたようだが?」
「大切にしてた。大好きだった。家族全員仲良しだった。最高だった。幸せだった。だけど——全部壊れちゃったの。私のせいで、全部全部」
話を深掘りするのはあまり良くないと思う。
ただし、もう僕と捺月は死ぬのだ。
どうせなら全てを聞いていても悪くない。
「僕は捺月が悪い奴には思えないよ。何があったか教えてくれ」
「ストーカー被害に遭ったの。そして、付き纏われるようになって」
それから、と呟き、捺月は歯軋り交じりに。
「家族全員が殺されちゃったの。私があの人の要望に答えなかったから」
辿々しい話だったものの、僕は捺月の話を全て聞いた。
中学三年生の頃、星座橋捺月はストーカー被害に遭ったそうだ。
彼女は陸上部のエースとして活躍し、様々な大会に出ては優勝をかっさらっていたそうだ。でも容姿も成績も優れていれば、彼女を取り巻く環境も変貌し、徐々に男性ファンが着々と増えていったらしい。
その中に——あの人——つまりは捺月の家族を殺した奴が居たそうだ。
年齢は二十代後半。仕事はフリーターだとか。
そんな男が捺月に交際を求めて来たそうだが、もちろん断ったらしい。
それ以来、ずっとストーカー被害に悩み、でも相談する相手も誰も居なくて、捺月は苦しい生活を送っていたそうだ。
そんなある日、遂にその男は捺月から大切な人を奪ったそうだ。
彼の言い分はただ一つ。
『オレが捺月の大切な人になりたかったから』
感情表現に疎い僕でもその男に対して、怒りが込み上げてきた。
何の罪もない人に。
どうしてそんな酷いことができるのかと。
「ほらね、私悪い子だったでしょ? 家族を殺しちゃうさ」
捺月は苦笑いした。
辛いのだ。後悔しているのだ。
何度も何度も悔やんで悔やんで。
それでも、どうすることもできなくて。
「だからね、自分に罰を与えるの。死んで罪を償うんだよ」
世間一般的に考えて、捺月は間違ったことを言っている。
だけど、中途半端な僕は止めることができない。
その代わりに、ただ僕ができることは。
「僕も一緒に死ぬよ。悪い子に加担した罪でさ」
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