ガタンゴトンガタンゴトン。

 僕と捺月は電車の中に居た。

 最後の晩餐を食べ終えた僕たちは、人生の終着点を目指しているのだ。

 と言っても、僕はどこに向かうのか知らないけど。

 僕たち以外の客は誰も居ない。ローカル線なのだ。

 二人だけの空間。僕たちだけの空間。

 席は幾らでも空いているのにも関わらず。

 お互いに隣同士で、肩を合わせて座っている。


「千秋くんはさ、死ぬのが怖い?」


「死ぬのは怖くない。僕は生きるほうが怖いからね」


「死ぬのは怖くないか。カッコいいね」


「カッコよくないよ。ただ空っぽなだけ」


 僕には何もないのだ。

 死にたい理由も。生きたい理由も。

 どちら付かずの中途半端な人間。

 ドミノ倒しの中間地点に居る存在。


「自分の意思がないんだよ、僕には」


「私とは違うね。千秋くんは死ななくてもいいんじゃない?」


 一緒に死のう。

 そんなことを言い出したくせに。

 今更そんな言葉を掛けられるとは思ってもいなかった。


「捺月が死ぬなら僕も死ぬよ。多分、それが僕の存在価値だから」


 何のために生まれて来たのか。

 誰もがそんな悩みを抱えるだろう。

 僕にとって、その答えは目の前に居る茶髪少女に出会い。

 そして——共に死ぬことなのだ。きっとね。


「そっか。なら一緒に死のうか。一人で死ねない弱者らしく」


 捺月の吐息が窓に触れる。

 外の世界は真っ暗闇。時折現れる電灯が薄暗く輝いている。

 と言えども、空高く浮かぶ星々に完敗しているけど。

 ビューンビューンと、電車は走り続ける。

 それとともに僕たちに残された時間は削られていく。


◇◆◇◆◇◆


「少しだけ思い出話をしてもいい??」


 捺月がそう言ったのは、終着駅まで残り二駅となった所であった。

 車掌さんは線路の内側に入るなと指示を出した。

 誰も降りないし誰も乗るはずもないのに。


「嫌だと言ったら?」


「それでも話す」


「その思い出話は捺月が死ぬ理由と関連する?」


「うん。そうだよ。直接的な原因」


「なら間接的に僕が死ぬ理由でもあるわけか」


 欺くして、捺月は思い出を語り始めるのであった。

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