5
ガタンゴトンガタンゴトン。
僕と捺月は電車の中に居た。
最後の晩餐を食べ終えた僕たちは、人生の終着点を目指しているのだ。
と言っても、僕はどこに向かうのか知らないけど。
僕たち以外の客は誰も居ない。ローカル線なのだ。
二人だけの空間。僕たちだけの空間。
席は幾らでも空いているのにも関わらず。
お互いに隣同士で、肩を合わせて座っている。
「千秋くんはさ、死ぬのが怖い?」
「死ぬのは怖くない。僕は生きるほうが怖いからね」
「死ぬのは怖くないか。カッコいいね」
「カッコよくないよ。ただ空っぽなだけ」
僕には何もないのだ。
死にたい理由も。生きたい理由も。
どちら付かずの中途半端な人間。
ドミノ倒しの中間地点に居る存在。
「自分の意思がないんだよ、僕には」
「私とは違うね。千秋くんは死ななくてもいいんじゃない?」
一緒に死のう。
そんなことを言い出したくせに。
今更そんな言葉を掛けられるとは思ってもいなかった。
「捺月が死ぬなら僕も死ぬよ。多分、それが僕の存在価値だから」
何のために生まれて来たのか。
誰もがそんな悩みを抱えるだろう。
僕にとって、その答えは目の前に居る茶髪少女に出会い。
そして——共に死ぬことなのだ。きっとね。
「そっか。なら一緒に死のうか。一人で死ねない弱者らしく」
捺月の吐息が窓に触れる。
外の世界は真っ暗闇。時折現れる電灯が薄暗く輝いている。
と言えども、空高く浮かぶ星々に完敗しているけど。
ビューンビューンと、電車は走り続ける。
それとともに僕たちに残された時間は削られていく。
◇◆◇◆◇◆
「少しだけ思い出話をしてもいい??」
捺月がそう言ったのは、終着駅まで残り二駅となった所であった。
車掌さんは線路の内側に入るなと指示を出した。
誰も降りないし誰も乗るはずもないのに。
「嫌だと言ったら?」
「それでも話す」
「その思い出話は捺月が死ぬ理由と関連する?」
「うん。そうだよ。直接的な原因」
「なら間接的に僕が死ぬ理由でもあるわけか」
欺くして、捺月は思い出を語り始めるのであった。
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