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『#一緒に死にませんか?』
僕がそのハッシュタグを見つけたのは、ほんの偶然だった。
不登校になり引きこもり生活を続けていたのだが、人と繋がりたい欲だけは持っていた。と言えども、普通の高校生。つまりは、華やかな生活を送っている人たちとは繋がる気はさらさらなくて、自分と同じ境遇に立たされている奴等のSNSを検索ばかりしていたのだ。
数はそれほど多くはないものの、一定数は居て、正直言って、彼等彼女等の言葉に救われていた。弱者の傷の舐め合い。その言葉が正しく相応しくかもしれないが、僕にとってはそれがとても居心地が良かったのだ。
でもさ、大抵の奴等は少しずつ変化していくんだ。
何かしらのキッカケや縁があって、もう一度学校に通ったり、または転校するなどの手段を取り、人生の一歩を歩み始めるんだ。
だけど、僕だけはずっと引きこもったままだった。
これではいけないと思い、変わる算段を立ててみたんだ。
それでもやっぱり僕にとって、学校は怖いところで、またイジメられたらどうしようと不安になって仕方がなかった。夜も眠れないほどに。
んで、そんなときに見つけたのが、件のツイートだったというわけだ。
◇◆◇◆◇◆
死にたい。
漠然と人生の中で何度か考えたことはあったけれど。
心の底から本気で死にたいと思っていたわけではなかった。
衝動的に死んでやるとか考えてしまうことはあったけど。
逆に、生きたいと思ったことも殆どないかもしれない。
別に明日死んでも明後日死んでも一年後死んでも、まぁーそれでいいかなぐらいの感覚。
多分、僕にとって生死はどうでもいいんだと思う。
生きてるから生きてるだけで。
死んでしまうのならばそれで納得してしまうぐらい。
その程度に、僕は『生』に対してあまり執着していなかった。
だからこそ。
僕は連絡を取ってしまったのだ。
『#一緒に死にませんか?』と、自殺を促している人に。
つまり。
僕が世界で一番綺麗だと思っていて。
でも今にも消えてしまいそうなほどに覇気がない彼女に。
◇◆◇◆◇◆
特に生きたい理由もないし、死にたくない理由もなかった。
というわけで、流れに任せて、このまま死んでやろう。
死ねば何も考える必要がない。
何も考えなくていいなら楽になれるはずだ。
如何にも人生に病んでそうな人が辿り着きそうな思考回路の下、僕は軽い好奇心で連絡を取り合い、実際に出会うことになった。
地元では有数の駅前。
一番県内で栄えている場所。
人通りが多くて、僕と同年代の少年少女が制服を着て行き来している。
家に引きこもりで、絶賛不登校中の僕には眩し過ぎる。
約束の時間五分前になる頃、スマホに連絡が来たので、僕の服装とどこに居るのかを手短に説明した。それから数分も経たないうちに。
「あ、あの……あなたが
自殺したいと考えるような人間だ。
ヤバイ奴が来るんだろうと考えていた。
でも、実際待ち合わせ場所に現れ、ましてや自分から喋りかけてきたのは、茶髪の美少女だった。
頭には黒のベレー帽。
ベージュ色のブラウスを着ており、その上には黒ジャッケット。
青色のデニムスカートは膝下まで隠れている。
体型が細長い彼女が着れば、スタイルの良さが際立って見える。
「あ、そうです。僕が
第一印象は内気で礼儀正しい女の子。
幸薄そうな空気を漂わせている。
眩し過ぎて話しかけにくい人も居るけれど、その真逆だ。
自分から話しかけるのがおこがましいと思えるほどのオーラ。
一級の美術品に手を加えられないと同じ。
学校内ではさぞかし神秘的だとか言われながらも、黙々と授業に従事して、高得点をかっさらっているんだろうな。
「良かったー。とりあえずお昼でも食べに行かない?」
「えっ……お昼ですか?」
食事に誘われるとは思ってなかった。
ていうか、これほどまでに喋りかけてくるとは。
お互いに喋り合うことがなくて、無駄に時間が過ぎて、そのまま一緒に崖の上から飛び降りて死ぬ。そんなふうに考えていたのに。
「うん。お腹空くでしょ?」
「いや……たしかに。お腹は空きますけど」
「なら決定。ほら、行こっ!」
「あ、ちょ。ま、待って……」
「待ちませんー。ランチタイムに並びたくないし」
有無も言ってないのにも関わらず、ニコッと笑みを浮かべた美少女に手を掴まれて引っ張られてしまう。見た目は大人っぽいのに、中身は案外子供っぽいところがあるな。人は見かけによらずと言うが、その通りだ。
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