前回の続きから。

 日雇いの力仕事を手に入れ、私の新生活は始まった。最寄りの駅で待っていると、大型のバスが来るのだ。で、私と同じくお金に困った成らず者たちはそれに乗り、仕事場へと向かった。行き先は京浜運河である。

 私たちの業務は棚卸し。倉庫にある荷物を船に積む作業と、船にある荷物を倉庫に送る作業。管理職の正規職員から「おい! お前らさっさと動けッ!」と指示を出され、ヒヨッコな私は「はい!」と大きく返事を出して動き回っていた。どんなに働いても給料は変わらない。日給制なので手を抜くこともできたかもしれない。でも、私は必死に働いた。


 この現場を外されたら……。

 愛する彼女と離れ離れになるかもしれない。もう彼女と一緒に暮らせないかも。

 そんな弱気な感情が生まれてしまうからだ。田舎から抜け出してきた自分たちの選択が間違っているかもという不安に襲われないために。


 金銭的な問題は日雇いでほぼ解決した。

 でも、新たな問題が浮き彫りになった。

 家である。住む家がなかったのである。

 自分一人なら公衆トイレでも、橋の下にでも住めたかもしれない。だが、愛する人と住むなら……話は別だった。


 東京中の家を探し回った。

 埼玉や千葉まで範囲を広げたと思う。

 けれど、未成年の人間を易々と入所してくれるほど、世の中は甘くなかった。


 当たり前な話だが……。

 仲介会社を挟んだ上では絶対に断られる。

 それを知った私たちは仲介会社で物件を見繕い、大家へと直接電話を掛けまくった。

 で、30回ほどチャレンジした結果——。


 私と彼女の現状を知り、受け入れてくれる大家が現れた。ちなみに彼女は戦争孤児で、自分も養子として育てられた過去があった。人と人は助け合って生きていくんだと、何度も語っていた。


 私たちが住んだのは、ボロボロの木造アパート。築年数は50年以上前って話だった。改装も何度もしていたらしいが、家主とその知り合いがやっていたらしい。

(昔は自分たちで家の修繕をするのは当たり前だったらしい。昔の家は構造がシンプル)


 家賃は月1万5千円の四畳半。

 風呂無し。トイレ共用。

 本当に笑えるほど、狭くて汚い部屋だった。

 でもそこには確かな愛に包まれていた。


(続く)

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