プロトタイプ作品集

平日黒髪お姉さん

中卒の俺が彼女と駆け落ちした話

 これはまだ私がお姉さんになる前の話。

 当時の私はとある女性と恋人関係になり、お互いの家を行き来する仲でした。彼女は私と比べ、あまりにも美しい女性でした。

 芸術の才能に秀で、おまけに勉強もできる。才女という言葉が似合う人だった。

 将来を誓い合った関係といってもいいでしょう。私は彼女の親御さんの元へと向かい、娘さんを下さいと頭を下げてみました。

 しかし、人生は残酷なものです。彼女の親御さんは首を縦に振りませんでした。


 だから——。

 私と彼女は駆け落ちすることにしました。

 まず初めは片田舎の九州育ちだったので、夜行バスで福岡へと向かいました。お金はお年玉で貯めた分だけ。自分が手を握る先には、不安気な表情を浮かべる彼女。私は「大丈夫だよ。目指すは東京だ」と言いました。


 彼女は言います。


「ナナちゃんと一緒なら怖くないよ」

「あぁ、ユリちゃんがいれば……俺も」


 当時の私はそう言い、夜行バスの中で彼女を抱きしめました。


 大都会——東京。

 そこに行けば、何かが変わると思ったんです。人が多い東京なら、仕事も見つかるだろうと。自分たちの人生が変わるのではないか。

 そんな希望を胸に、私たちは博多駅で青春18切符を手に入れました。

 鈍行列車に乗り込み、東へと向かいました。自分たちが住む片田舎から少しでも抜け出すために。自分たちを束縛する大人たちから逃れるために。私たちは全力でした。


 お金もなければ学歴もない。

 更には何かしら強いスキルもない。

 ただ、私たちには若さと熱意があった。


 慣れない時刻表を片手に、私たちは三日目の夜中に辿り着きました。東京駅に辿り着いた瞬間、人の多さに圧倒されました。

 ただ、このままではいけません、

 とりあえず、食い扶持を探さねば!!


 下手くそな履歴書を書き込み、私はハローワークへと向かいました。彼女を一生大切にする。彼女を守らなければならない。

 そんな意思で動いたのですが……。


 中卒の分際を雇ってくれる会社はありません。そもそも論、中卒を雇ってくれるほど社会は甘くなかった。もう本気でどうしようかと迷っている際中に、コンビニの就活雑誌を読みました。

 そこには日雇いの力仕事がありました。

 もうこれしかないと思い、私は縋る思いで電話を掛けました。日雇いの力仕事は人手不足らしく、履歴書も何も必要ありません。

 動きやすい服装と軍手、それと印鑑さえあればよかった。

 欺くして、お姉さんになる前の私は、東京で初めてのお仕事を手に入れるのであった。

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