怖い話「さっき誰と喋っていたんですか?」

怖い話「さっき誰と喋っていたんですか?」

 大学生の頃のお話。

 彼女なしの人生を送る冴えない俺氏。

 大学に入れば、彼女の一人や二人は簡単にできる。そう信じていたものの、現実はそう甘くなかった。でも、そんな俺にも春が——。


「ねぇ、アンタ。郵便局どこにあるんだい?」


 大学に向かっている途中で、偶然おばあさんに喋りかけられた。

 で、俺はその質問に答え、駅へと向かった。

 駅のホームで電車が来るのを待っていると。


「あのーすみません。少しお話いいですか?」


 若い女の子が喋りかけてきた。

 俺と同じ大学生ぐらいの女の子であった。


「あのさっき……誰と喋っていたんですか?」

「喋っていた?? んんん??????」

「あ、いや。その……さっきずっと一人で手を使って、何もない空間に喋りかけていたじゃないですか」

「いやいやいやいや。俺はおばあさんと」

「…………あぁ、やっぱりそうでしたか」


 女の子は「あちゃー」と困り顔でいう。

 何なのか意味が分からず、俺は戸惑ってしまう。おばあさんと喋ってはいけないのかと。


「実はですね。あのおばあさん死んでるんですよ」

「えっ????????」

「以前からあそこの通りは、おばあさんの幽霊が出るって地元では有名なお話なんですよ」

「……マジっすか。俺、ハッキリ見ましたけど。いやいやいやいやいや、そんなはずが」

「安心してください。私、対処法知ってますから」

「対処法……?」


 女の子は満面の笑顔で浮かべてきた。

 どうやら彼女は霊感が強くらしい。

 端的に述べれば、見える側の人間らしい。


「——ということがあったんだよ」


 俺は友人と喋ってみた。

 大学からの知り合いで、ヤリチン野郎。

 ただ根は良い奴で、気が利く男である。


「ふぅーん。変わってるな、その子」

「だろ?」

「でも、カワイイんだろ?」

「……カワイイのは事実だよ」

「それなら、この話はナシだな」

「ナシって何が……?」

「いや、この件に関しては忘れてくれ」


 友人は両手を合わせ謝ってきた。

 お前に良い話があると言ってたくせに。

 それを言わないとは、やっぱり嫌な奴だ。


「あ、センパイ!! 待ってましたよ!」


 彼女は俺の一個下。俗に言う、後輩。

 彼女は俺に霊感トレーニングを伝授するというのだ。いつどんなことが起きても、変な輩に襲われるかもしれない。それに対処するためには、霊力を鍛えるのが一番だというのである。


「やれやれ……今日も修行かよ?」

「デートの間違いではないですか?」

「あぁ〜今日も罰ゲームだったか」

「もうぉ〜。こんなカワイイ女の子と毎日デートができるなんてもっと喜ぶべきです」


 正直な話——。

 俺は心底嬉しかった。

 こんな俺でも彼女ができて。


 しかし、突然その楽しい日常は終わった。


「おいおい、うそだろ……」


 あのおばあさんを電車内で見つけてしまったのだ。幽霊とやらは自由自在に場所を動けるのか。俺はイヤホンを耳に装着し、スマホを操作する。ただ、僅かに目だけを動かし、おばあさんの方をチラチラと確認する。おばあさんはキョロキョロと周りを見渡していた。まるで、自分のことが見える人間を探すかのように。

 俺は呼吸を止め、おばあさんと目が合わないようにスマホを凝視する。もしもここで目が遭えば、俺は取り憑かれてしまうかも——。

 その恐怖に耐えるため、俺は南無阿弥陀仏と何度も心の中で唱えていたのだが——。


「もしよかったら、僕の席にどうぞ」


 座席に座っていた男子高校生が立ち上がり、おばあさんに喋りかけた。

 その少年の親切に対して、おばあさんは笑顔でこう答えた。


「ありがとうね」と。


◇◆◇◆◇◆


「ごめん。多分それオレが原因だわ」


 友人は両手を合わせて謝罪してきた。


「はぁ? どうしてお前が……」

「実はさ……オレ、あの子と一度会ってるんだよね。合コンでさ。で、あの女の子にお前のことを紹介したんだよね。コイツ彼女いないから、もしよかったら相手してやってくんねぇーかってさ」


 でさ、と呟きながら、友人はいう。


「あの子にさ、お前の写真を見せたら……一目惚れしたとか言い出して。お前の連絡先を教えろ教えろとうるさかったわけ。でもさ、連絡先を勝手に教えるのは厳禁だろ? だから、お前に一応確認を取ってからと思ってたら……」


 友人の言葉が濁る。

 そしたら、と彼は続けて。


「まさか、お前に直接会いに来るとはな。それも普通のばあさんを幽霊と偽り、自分には霊感があるみたいなウソを吐いてまでさ……」


 あの女の子はウソツキだったのだ、

 彼女が言っていたことは全てウソだった。

 全ては俺に近寄るために吐いたウソ——。


 それに——。

 同じ大学でもなければ、名前も全て偽り。

 俺は彼女に全て騙されていたのである。

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