3

「おじさんに初めて奪われるなんて……」


 ギャルが部屋へと戻る。

 そこにはグースカピースカとイビキを掻くおじさんの姿がある。


「はぁっ!! どういうこと……!!」


 ギャルは意味が分からなかった。

 このおじさんが何のために自分を家に上げたのか。自分みたいな女子高生を家に上げるなんて、そんな大それたことをするなんて。


「おじさん……もしかしてお疲れかな?」


 とりあえず。

 今日は相手をしなくていいってこと?


「まぁいいか。今日はもう私も寝よう」


◇◆◇◆◇◆


「おい、起きろ。ギャル」


 いつまでも寝ているギャル。

 俺には仕事があるのだ。

 コイツを起こして早く行かねば。


「ふえっ? ここはどこ?」


 毛布を奪われたギャルは眠気眼。

 しょぼしょぼの瞼を擦っている。


「俺の家だ、バカ。学校行けよ、お前」

「学校は行きたくない」

「行きたくないと言ってもだな……」

「お願いします。何でもするから!!」


 何でもするから。

 そう言われても、俺は何とも思わない。

 危険な大人ならば不埒な考えが過ぎるかもしれない。だが、常識人な俺は違うのだ。


「女の子が何でもするからとか言うんじゃね!」


 俺は叫んだ。


「安売りしていいカラダじゃねぇーだろ?」

「そうかな……?」

「そうだよ。カラダはもっと大切にしろよ」


◇◆◇◆◇◆


 仕事終わり。

 職場から家へと戻る。

 家の前には、また女子高生の姿がある。


「おい。どうしてお前がここにいる?」

「おじさんに会いたかったから」

「違うだろ?」

「本当だよ?」

「俺の家にまた泊めてほしいのか?」


 怒りの眼差しを向ける。

 すると、彼女は僅かに目線を逸らした。

 それから言うのである。


「……ごめん。今日は帰るね」


 駄々を捏ねる。

 そう思っていたが、ギャルはすんなりと聞き入れてくれた。

 地べたから立ち上がり、彼女は言うのだ。


「やっぱり……私なんか邪魔だよね」


 踵を返す彼女。

 笑みを浮かべているのに、どうして悲しそうに見えてしまうのか。


「昨日はありがとうございました」


 ペコリと頭を下げて、彼女は立ち去っていく。俺は彼女の背中を追いかけながら。


「おい、お前……行く宛あるのか?」

「……ないよ、どこにも。今日は野宿かも」

「……の、野宿って、お、お前……」

「仕方ないよ。家に帰りたくないもん」


 女子高生が野宿する。

 どこでやるかは知らん。

 だが、若い女の子を狙う輩は現れる。

 そんな奴等に彼女の人生を壊されてたまるか。易々、見逃してやるほど冷たい大人ではないんだよ。俺は。


「……わかった。お前の事情は知っちゃこっちゃねぇーけどさ……」


 大人として、自分の判断は正しいのか。

 それは分からない。

 もしかしたら、少女の人生を大きく変えることをしてるかもしれん。

 だが、目の前の少女が笑えるなら。

 今にも泣き出してしまいそうな若い女の子が、笑顔で過ごせる世界があるのならば。

 俺はそれを望む。

 クッソタレな人間が蔓延る世界だとしても。


「おい、ギャル。お前、俺の家で働けよ」

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