怖い話『子連れ女の川遊び』

怖い話『子連れ女の川遊び』

 高校生の頃、地元の川で遊んでいたとき。


「子供を助けてください!」


 振り返ると、息を切らせ、形相を変えた子連れの女が俺たちの前に立っていた。俺と友人は二人とも水泳部で、泳ぎには自信がある。だから咄嗟に、「どこですか?」と訊ねた。女は上流を指差し、「あそこです」と叫ぶ。


 上流は流れが急で、岩場が点在している。子供が流されているとしたら、早く助けなければ危険だ。俺たちはすぐに水に入り、必死で子供を探し始めた。


 けれど、どれだけ探しても子供は見つからなかった。岩の陰も、水面も、手が届く範囲はすべて確認したが、気配すらない。焦りが募り、息も切れ始めた頃、背後から声が聞こえた。


「おーい、こんなとこで何してんだ!」


 振り返ると、川沿いに住んでいる地元のじいさんがこちらを見ていた。厳つい顔に渋い声。俺たちは上流で遊んでいると勘違いされたと思い、「子供が溺れたんです!流されたかもしれない!」と説明した。


 だが、そのじいさんは渋い顔のまま一言。


「またあの女か…」


「え?」


 意味がわからず、俺と友人は顔を見合わせた。じいさんは、無言の俺たちに向かって低く語り始めた。


「あの女はな、男を見つけると『子供が溺れた』とか『助けてくれ』とか言って、必死で探させるんだよ。で、そいつらが探してる様子を見て、笑うんだ。悪趣味なもんだ」


 じいさんの言葉に、俺たちは寒気を覚えた。急いで振り返ると、あの女の姿は、もうどこにも見えなかった。

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