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「聞こえてるから、わざわざ喚かないでくれる?」
末松正樹が現れた。
怒りを隠せないようだ。
もしかして、私の時だけ本性を表しているのかも。
「あのさ、お前は自分の身分を弁えているか?」
「平民だけど」
現代の日本にそれ以外の身分はあるのか謎だわ。
「お前は平民以下だよ。てか、読書大好きな女なんてな。モブのモブなんだよ。俺みたいな人気者と対等に喋っていけないんだよ。わかるか?」
「あのー言っている意味がわかりません」
「………………」
暫しの間、末松正樹は黙り込んだあと。
「お前が血だらけで現れたときは、焦ったよ。王子様引退かなって」
「私としては最高の案だったんだけどね」
鼻血を出して、顔中に塗ったくる。
それで、如何にも何発も殴られた演出をしたわけだ。
と言っても、その努力は無駄になってしまったが。
「あれ……お前の鼻血だったのかよ……マジで頭イカれてるな」
「私はアンタに悪い噂が一つでも立てばよかったから」
学園の王子様が暴力を振るう悪い男。
それだけでも印象は、ガタ落ちするだろうと思ってたし。
「無差別テロぐらい理不尽な言い分だな!」
「無差別じゃないわ。ただの自爆テロよ!」
「テロも起こせず、ただの自爆に終わったけどな」
「自爆じゃないわ。勇敢な行為よ」
「お前みたいな人間が犯罪を起こすんだと思うね」
末松正樹は頭を押さえながら。
そういえばと切り出して。
「クラス内で、お前の噂が立ってるぞ」
「学園の王子様に暴力を振るわれた可哀想な女の子だって?」
「違うわ!!」
末松正樹は間髪入れずにツッコミを入れてから。
「学園の王子様に付き纏う気持ち悪いストーカー女だってよ」
「ストーカー女っていうのは間違ってないかも」
「そうだろ? 惨めだと思わないか?」
「でも仕方ないわね」
私は続けて。
「末松くんの家に無断で入ったことあるし」
「はぁ?」
「盗聴器まで付けていたし」
「えっ……?」
「流石に監視カメラまではやりすぎだったと反省中よ」
「………………」
「こんな残念過ぎる男を好きになってしまったんだから。本当……惨めだわ。今までの努力が全部無駄になったし」
あー本当に損した気分。
宝くじを購入して、五億当たったらどうしようかと悩んでいた時間がもったいないぐらいね。
「て、テメェー!!」
学園の王子様と評される男が胸ぐらを掴んできた。
それでも、私は全く動じることなく答えてやる。
「……暴力を振るったあとは性行為ですか? それであなたの気が済むなら、どうぞ私の穴という穴に入れてみなさい。一生慰謝料を払ってもらうわ。それと養育費もね!!」
「誰がお前みたいなブスとやるか!」
ベッドの上で背負い投げされて、私は完全にノックアウト。
ぼふぼふとトランポリンみたいに転がって、痛みは殆どなし。
「お前と関わっていると、時間の無駄だ。もう二度と近寄るな!」
「近寄るなと言われても……あなたが先に近づいてきたじゃない?」
「黙れ!! これから先は、俺からも近寄らないからな!」
「あ、そう。勝手にすれば? でも約束は守りなさいよ」
「上から目線で……お前はただのモブキャラのくせに」
だが、まぁーいい。
末松正樹はそう呟くと。
「お前の日常は、明日から一変する」
「ストーカー女から、
「別に一変はしないだろ……それは」
末松正樹は、こほんと咳払いしてから。
「お前は明日から最低最悪な学園生活を送るんだよ」
学園の王子様に振られて、気が狂った可哀想な女。
そんな扱いを受けて、今後の日常を過ごすハメになるらしい。
末松正樹を支持する女性陣が多いらしく、彼女たちが勝手に動いてくれるのだとか。確かに、女子に嫌われるのは少々困る話だわ。
「もう二度と俺に盾付くなよ。もっと酷い目遭わせてやるからよ!」
末松正樹はそう言うと、私の前をあとにした。
そして、次の日から……。
凄惨な私へのイジメが始まったのであった。
「あれ……? 私の教科書がない!!」
持ってきたはずなのに。
失くなっているのだ。お、おかしい。
探し回ってみたら……ゴミ箱の中に入っていた。
落書きまで施されており、『死ね』と書かれていた。
「体操服がない……」
運動が苦手な私は体育教師に嫌われていた。
だからこそ、体操服がないと言っても。
「はぁ? 何言ってるんだ? どうせお前は体育をやりたくないだけだろ? それなのに……盗まれたとか言ってるんじゃねぇーぞ?」
本当のことだと主張した結果、意図も簡単に体操服は見つかった。
「いいかげんにしろよ、お前の成績は絶対1だからな!」
と言っていた体育教師だったけれど。
女子生徒との淫行が発覚し、教師を辞めさせられていたが。
「…………な、なんで?」
机には、菊の花が置かれていた。
私の反応を見て、クスクス笑うクラスメイト。
惨め過ぎる自分に対して、怒りがこみ上げてきて……。
「………………ううっぅ」
私は思わず泣き出してしまった。
そんな無様な姿を見て、奴等は笑みを助長させた。
「許さない……許さない……」
怒りはMAX。
自分とは全く関係ない素振りを見せる末松正樹。
奴は薄らと笑みを浮かべて、さぞかし楽しそうだった。
アイツは、私だけに見えるように、口元を動かした。
あの口の動きは——死ねよ、ブス——
◇◆◇◆◇◆
『同窓会のお知らせ』
あれから十年。
二十五歳になった私の元へ一通の手紙が届いた。
わざわざ参加する必要はないんだけど……。
「アイツを見返す日が遂に来たか……」
生まれ変わった私は、決戦の場へと向かう。
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