デスゲーム漫画のモブに転生した俺。強キャラ感を醸し出して、最後まで生き抜こうと思う。

デスゲーム漫画のモブに転生した俺。強キャラ感を醸し出して、最後まで生き抜こうと思う。

 俺が目を覚ますと、そこは絶海の孤島であった。

 ミステリー小説でありがちな、クローズドサークルそのものだ。

 突然の事態に、生徒たちは声を荒げて叫んでいる。

 無理もない話さ。

 さっきまで俺たちは確かに、楽しい修学旅行中の飛行機内にいたのだから。

 それなのに気付くと俺たち——二年C組31人は両手両足を縄で縛られ、廃校に連れて来られたのだから。俺たちを囲むように立つのは、如何にも悪いことをしますよ感が漂う窃盗団よろしくなマスクを被る男たち。

 そして——その男たちをまとめるのは、紛れもない新任の教師であった。


「先生。どういうことですか!! これは!!」

「先生答えてください!!」

「おい、ハゲ!! お前、さっさと教えやがれ!! これはどんな冗談だ!!」


 生徒たちが声を荒げて、その首謀者へと詰め寄る。

 だが、九月の途中で急遽配属を余儀なくされた五十代過ぎの教師は言う。

 元々、俺たちの先生は、若い女性だったが、産休で休みを取ったのだ。


 その教師はニッコリと笑みを浮かべ、ハゲと叫んだ生徒の元へと向かう。

 その後、ブン!! ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!!


「おい!! 何を甘ったれたことを言ってるんだ、このクソガキが!!」


 教師が生徒を殴る。教師としてあるまじき行動を取ったのである。


「お前らはモノを考える脳がないのか? 何のためにそこに脳があるんだ? 自分の頭で考えろ! 自分の脳味噌を使って考えろ、このクソガキがよ!!」


 ハゲと叫んだ生徒は、根っからの不良生徒。教室内で肩がぶつかっただけで「死ねよ」と言われたことがあったので、俺としては最高に嬉しかったな。


「最近のガキは教育が足りないようじゃな。やっぱり……日本の未来を背負う若造がこれでは本当にダメだ、ダメだ。昭和の人間として、俺がテメェらクソガキの腐った根性を叩き直してやらないと……そうしないと日本の未来が危うい」


 ただ、これはあまりにもやりすぎじゃないかとも思えてくる。

 ていうか、この教師は何を言ってるのだ?

 日本の未来が危うい?

 確かに、お前は日本史の授業を受け持ち、政治や倫理にも詳しかったけども。


「お前は犬か? 大人に与えられるのが当たり前だと思ってないか? 大人にモノを与えられて、それをペロペロと薄汚い犬のように舐めるだけ。そのくせに、自己主張だけは激しい。本当、お前らみたいな人間が生きていることがおかしい」


 金髪の不良男は血だらけの状態でも「殺す……」と叫んでいる。

 だが、その殺意が消え失せるまで、教師は殴り続けるのであった。

 その結果——授業さえもまともに聞かず、教師に対して暴力行為を繰り返して問題児と呼ばれた不良男子は涙ながらに、「ごめんなさい。もう許してください」と曰うのであった。


 その反省した姿を見て、教師はニッコリ笑顔で言うのである。


「それでいいんです。それがいいんです。今から先生が、このクラス30全員の舐め腐った根性を叩き直してあげます。どうですか? ワクワクするでしょ?」


 コイツは何を言ってるんだ?

 ていうか、周りの大人たちは何者なんだ?


「ちなみにこの計画には国家のお偉いさんからの承諾を得ています。今後の日本の将来を担う若者たちの改革プロジェクトとして、全面協力してくれるそうです」


 軍隊も警察も。

 俺たちの味方になってくれないっていうのか?

 ていうか、この強盗犯みたいな格好をしている人は国が雇ったってことか。


「さて、本題に入りましょうか」


 教師はパンパンと手を叩く。


「今から皆さんには殺し合いをしてもらいます」


 殺し合い? 何を言ってるんだ? この男は。

 俺と同じ感想を持ったものが、次から次へと声を荒げている。

 教師の頭上から、甲高い音が響いた。それは紛れもない銃声である。

 ゲームなどで聞いたことがある発砲音とは全く違う。本物の銃の音である。


「ごちゃごちゃうるせぇーんだよ!! クソガキが!! お前らはとっとと私の言うことを聞いてればいいんだよ!! その耳は何のためにあると思ってるんだ? とっとと言うことを聞けって言ってるんだよ、このブタどもが!!」


 人が変わった。

 そう思えるかもしれないが、本来この男の本性はこちら側だったのだろう。

 冴えない男で、クラス中の誰もから無視される存在。

 授業なんて誰もまともに聞いているはずもなかったな。


「君たちが殺し合ってもらうのは、君たちを取り囲む彼等です」


 完全武装集団。

 奴等は全員奇抜な格好をしている。

 ただ、どこかでその顔を見たことがあった。

 確か、奴等は——。


「おい……あれって、数年前の連続殺人鬼じゃないか? 確か、名前はサトウ」

「……いやいや、待て。その隣にいるのは、数日前に収監されたはずの、ゴトウじゃないか?」


 殺人鬼。

 世の中にはそう呼ばれる存在がいる。

 普通の世界では、彼等は自分たちの能力を発揮することができない。

 そもそも論、人を殺す才能なんて、現代社会においては何の役にも立たない。

 しかし、もしもそんな才能を発揮する場所が、この日本にあるとしたら……。


「流石のバカタレなお前らでも奴等の名前を知っているか? よし、全員並んで、一人ずつ自己紹介をしてくれ。クソガキどもをどん底をプレゼントするために」


 教師がウキウキしていい、殺人鬼集団——。

 凶悪犯罪者集団は自己紹介を行なっていく。


「今からお前らにはこいつらと殺し合ってもらう」

「どうして俺たちがそんなことを……」

「凶悪犯罪者を粛清しつつも、お前らクソガキも教育できる。一石二鳥じゃないか?」


 この男……頭が狂ってやがる。

 どんな思考回路があれば、自分の生徒たちと凶悪犯罪者を殺し合いさせるんだ。普通に考えて、俺たちが勝てるはずなんてないだろ。


「なぁ、殺す以外のこともしていいんだよな? 女を犯すのもアリなんだよな?」

「あぁ、ありだ。お前らの好きにしろ。社会の恐ろしさを教えてやれ」

「最高だぜ。久々の女を味わえるなんてな。さて、どの女で遊んでやるか」


 ゲスな発言を行う犯罪者も現れる。

 そんな中、俺の脳内はノイズがあった。

 ズズズズズと、謎のノイズがあるのである。

 うっと苦しくなって、俺は頭を抱えてしまう。

 しかし、それはすぐに消えてしまった。


「よしっ。それじゃあ、山田。ちょっとお前はこっちに来い」


 教師に名前を呼ばれ、俺はそれに従うしかなかった。

 行かなければ撃ち殺されることが確定していたからだ。


「山田。お前は何の罪もない。お前は何も悪くない」


 あれ?

 何だ、これは。

 何だ、このデジャブ感は。

 俺は、昔にもこのセリフを聞いたことがある。


「お前は親の仕事の都合で、偶然一ヶ月前にこっちに引っ越してきたばかりだった。それなのに何の因果があったのか、お前はこの2年C組に入ることになった」


 言うのが忘れていたが。

 俺は、元々この教室内で、一人ぼっちな存在である。

 転校生という立ち位置で、誰とも関わりがないのである。

 一ヶ月間頑張って、周りとのコミュニケーションを取ろうと図ろうとしたものの、それも失敗していたのだ。修学旅行中に、きっと楽しい友達が一人や二人できるだろうと思っていたのに……こんな結末になるなんて。


「ただな、このゲームは元々お前は入っていなかったんだ」


 そういえば、この男はクラス全員30人とか言ってたよな。

 俺のことを忘れていたのかなと思っていたが……。

 そういうわけではなさそうだな。


「お前を無事に普通の世界へ送り返そうとも話し合った」


 だが、と教師は首を横に振る。


「情報の漏洩が危険すぎるという理由で——」


 あぁ、俺は知っている。俺はこの展開を知っている。

 この展開は——。

 あぁ、そうだ。どうして今まで思い出せなかったのだ。

 この世界は、この壊れた世界は、このカオスな世界は——。

 俺が昔読んだことがある、デスゲーム漫画の冒頭じゃないか。


「今から一足先に、お前にはここで死んでもらいまぁ〜す」


 その言葉の直後、教師は銃を向けてきた。

 やっぱりだな。

 俺はこの世界を知っているぜ。そのパターンも知っているぜ。

 デスゲーム漫画の冒頭で死ぬキャラクター・山田。

 転校生という理由で、ゲームメンバーに入れなかった非業のキャラクター。

 可哀想だと言われ続けるキャラクターランキング第一位のキャラだ。

 と言っても、あくまでもネット内の「デスゲームを語ろう」スレで、少しだけ語られるだけで、普通の人たちにとってはモブキャラに過ぎない存在なんだけど。


 この後の展開は、俺が死んだあと、ゲーム開始が告げられて——。

 生徒たちに逃げる猶予を与えられて、ゲームスタートになるんだよな。

 しかし、ここで死んでたまるかよ。誰が死んでたまるか、俺は生きるぞ。


「ごめんな。お前は何も悪くないのに。すぐにアイツらも連れて行くから」


 教師が捨て台詞を吐き捨て、銃弾を発砲してきた。

 敵は素人。銃弾の速度なんて、目で追えるはずがない。

 ただ、撃たれるのが分かっているなら、屈んでしまえばいい。

 俺はマトリックスよろしく、イナバウアーみたいな体勢を取り、銃弾を避ける。その後、教師の元へと駆け出し、俺は奴から銃を奪い取ることに成功した。


「なぁ!! お前——ど、どうしてこんな芸当が!!」


 教師にとっても、この展開は予想だにしていなかっただろう。

 転校生として余り者だった男が。

 まさかのまさかで、凄腕の男だってなんて。


「死ぬのはテメェだよ。このクソ教師が」


 俺はそう呟き、教師のこめかみに銃弾を打ち込んだ。

 生き抜くために、俺はただ必死なだけであった。

 しかし、ここで終わらせてはいけない。

 俺は、ただのモブキャラ。

 序盤の序盤で「数合わせ」という理由で、殺されるだけの存在。

 そんなモブには次から次へと不幸が押し寄せ、いつの間にか死んでいたということにされてもおかしくない。というわけで、ここで運命を変えるしかない!


「みんな、聞いてくれ!! 俺は、このゲームの元生き残り組だ!!」


 元々、俺はこの世界の住人ではないようだな。

 ここ最近、俺は自分の常識とこの世界の常識に戸惑うことが多かった。

 どうやら俺は——デスゲーム漫画の世界転生してしまったようだ。


 この物語は——。

 序盤の序盤で殺されるモブキャラが「自分は強キャラです」アピールをしつつ、デスゲームを最後まで生き残ろうと企む話である。

 そして——。


(転校生を味方に付ければ……このゲームの生存確率が上がるかも!!)

(転校生くん、カッコいい。前からカッコいいとは思ってたけど……)

(喋りにくいオーラが出ていたけど、それは辛い過去があるから……)

(ずっと一人でいたのは、闇を抱えていたからなんだね……)

(あたしだけだよ、転校生くんの心を分かってあげられるのは……)


 実は最強だった転校生に恋心を抱く女性たちが現れたり……。


(ふん!! あいつは面白い男だな。元攻略組がいたとは)

(絶対にアイツは俺が殺す。アイツは殺し甲斐がありそうだぜ)

(くははは。今回も豊作ですねぇ〜。特にあの小僧は、食べたい)


 凶悪犯罪者集団から最高の標的にされたりお話である。



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作家から


 書きたいアイデアの一つです。

 ただ、書く時間が取れないので、全く書いていませんでした。

 というわけで、今回遂に書き始めてみました。

 すると、結構面白そうな展開が思いつけたなぁ〜と感心感心。


 ただ、この先の展開が全く思い付けないので、書けません(笑)


 ちなみに今作は——。

 4500文字程度を80分程度で書き上げました( ̄▽ ̄)

 最近、筆の速さが安定していると言いますか、自分が書きたいものしか書かないと決めてから、結構爆速で書けるようになりました。

 と言えども、文章の安定性と言いますか、文章の丁寧さが欠けていますが。


 本気で連載化するなら、もう少し文章を丁寧に書こうと考え中です。

 プロトタイプ版だからこそ許されるクオリティだなと思っています。

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